サトーの話4
入って一か月目からスパーリングを始めて、
それでも2か月間ほどは、あの双子はかなり
手加減してくれていたんだな、と後で思った。
実は学生時代に球技をやっていて、けっこうな
ところまで行ったんだ。運動神経には自信が
あった。そりゃ30代でなまってた部分もある
が、最初の1か月の地獄のような筋トレや
走り込みで、かなり戻っていたはずだ。
しかし、最初の一か月が天国だったのはすぐ
判明した。とにかく立っていられない、
ひたすらボコボコにされる。いや、一応こちら
からも攻撃させてくれる。でもすべて、打とう
が投げようが、すべてカウンターで返される。
たまに部外者が合同練習にくるが、双子と
けっこういい勝負をしていた。どれだけ強いん
だとあとで聞いてみたが、外の人間にはあまり
技を見せないらしい。とくに試合で当たる
可能性のある人間には。
たまにジェレイドも練習にくる。そりゃ
もちろん最初のうちはボコボコにされてたが、
日が経つにつれ、ジェレイドとはそこそこ
やりあえるようになっていた。いや、もちろん
負けるのだが、耐えられる時間が少しづつ
延びてくる。
とはいえ双子には相変わらずやられっぱなし
だった。こちらの実力が伸びるのにあわせて
段階的に手加減をなくしていっているように
見える。むしろ、こっちが弱くなったのかと
感じるときさえある。
妹のジェシカは優しい。
いつもスパーリング後のアドバイスがてら
フォローしてくれる。
「あなたはセンスが良くてリズムがあるから
技にかかるのよ」
「センスのないひとと練習すると強い選手でも
調子が落ちるから」
プロなのにおれみたいなのと練習してていい
のか聞いてみた。
「たまに格下と練習して、勝つイメージを作る
のも重要なのよ」
うーむ。
妻は元々料理が得意だったので、ジムの
料理班に入ってはりきっていた。格闘家の体を
作るための料理はいろいろと制約が多くなって
くるが、そこがかえって面白いらしい。
記事も開始して1か月も経たないうちに人気が
出てきた。それは、ジェニーとジェシカが人気
があり、彼女らとの練習を記事にしていること
もあるが、とにかくこのジムはいろんなところ
にいっていろんな練習をする。
打撃系か、投げ技か、というレベルではない。
とにかくあらゆる格闘技の練習をする。それも、
最新理論に基づいたかと思えば、ものすごく
古風な練習法もやる。
そして料理も、練習メニューをあるていど考慮
したものになっているらしい。つまり、ジムに
入門どうこうというよりも、単純に健康法的な
面で人気が出た。
もちろん、私が毎日ヘロヘロになっていること
は書かない。