ヘンリクの話15
ビンディのリュートから入るが、メリンダの
キーボードにはリズムマシンの機能もある、
これはタイトルのとおりダンスミュージックだ。
民族音楽的な曲調でビートが乗ってくる。
タリアは、歌というよりささやくような
小悪魔的な声をダンスとともに挟んでくる。
その声をメリンダのシーケンサーが刻んで
繰り返す。
キックの低音が抜けて歓声があがる。
彼女たちには、歌のコンサートをしてほしいと
いう依頼もくる。しかし、毎回丁重にお断り
するらしい。その理由がこれを観ていると
なんとなくわかる。
過去の現実を見ろ、でも同時に、希望を捨てず
楽しくやろう、そういったメッセージが
込められている、とヘンリクは思っている。
この曲は、10分近くあって、ふつうの楽曲
とくらべると長いが、フロアでは長さを
感じない。最後に歓声があがって次の、
今日最後の曲につながる。
ダンシングガールが民族楽器を使いつつ
ポップな雰囲気だったのに対して、次の
アメノウズメは神秘的な、オカルティック
なメロディーでスタートする。
女神が舞い降りて、踊り子に憑依すると
いうストーリだが、タリアはフロアの
真ん中まで出てきて、歌い、踊る。
クルクルと円のイメージで。
ビートのスピードアップとともに
フラッシュライトの点滅が同期する。
曲は正気と狂気が交互に入れ替わって
いくような変化を見せる。
その姿は、神懸っていた。
ビンディとメリンダはいつも言う。
この曲をやるときは、自分たちも楽器を
置いて、フロアに行きたくてウズウズ
すると。
最後に女神は、ゆっくりとした動作で
天を仰いだ。曲が終わる。
拍手をする者、拍手も忘れてまだ
ボーっと見ている者。
人間に戻ったタリアが、話し出す。
「本日はボッビボッビのワンマンライブ、
楽しんでいただけましたでしょうか」
すかさずフロアからツッコミが入る。
アラハントやマッハパンチの面々も
それぞれドリンク片手に眺めている。
「ちなみにこの最初に出てきた楽器、
猫の皮が張られてるんですけど、
なんで猫の皮が使われるか、
知ってますかー?」
それは、かわいいから、とぼそっと
つぶやいて、タリアはステージを
あとにした。
これで今日のライブは終了。
でも、すこし片づけたらすぐサクティ
で打ち上げだ。




