サトーの話3
説得は呆気なく終了した。どうも前々から
宇宙に出たいと思っていたらしい。
「どうしてもダメならお金持ちの知り合い作って
子どもだけ連れて出てもよかったのよ」
と妻はニッコリ笑った。
ジムの建物内に住める家具付きの部屋が空いて
るとのことで、荷物をまとめて持てないものは
箱詰めして郵送し、そして家を出た。夜逃げ
のごとく。
そして行先は月の裏側にある第三エリアと呼ば
れる宙域。
一番近い海洋上にある宇宙エレベータで上がり、
そこからシャトルを使って移動する。どちらも
高速のものを選ばなければ発車時でもシート
ベルトなしでくつろげる。
いったん第一エリアでシャトルを乗り換え、
第三エリアへ向かう。宇宙行き出張を一度でも
やっておけばよかった。無重力帯の移動含めて
不慣れなことこのうえない。しかし意外と旅は
快適に過ごせた。
第三エリアでシャトルを降り、そこでいったん
ホテル泊した。そこで、ジムの所長のボブと
会った。たまたま別件で出ており、翌日
いっしょに移動することになった。
ジムに着いて旅装を解いたあと、ボブから例の
双子を紹介してもらった。確かに二人とも
地球で見た少女よりもひと回り体が大きく、
肌も褐色で強そうだった。似てはいるが。
ついでに同じ日に入門することになった女の子
も紹介された。アミという。金髪の14歳。
なんでも音楽活動をやっていて、体づくりの
ために入門するだとか。
なんとなくごつい筋肉の男ばかりがいるところ
を想像していたので、少し気が楽になった。
あとで勘違いであることに気づくのだが。
仕事はジムでのトレーニングの様子を記事に
して発信すること。というわけで、1か月の
基礎トレーニングのあとに、本格的な
トレーニングが開始された。
地獄の始まりだった。