サキの話2
「やっぱり特殊仕様はないみたいね」
「私相手にノーマルで来るとかムリがある
よね?」
ほとんど口に出して言っていたが、次の瞬間、
肩口にシャツを掴んできた相手の腕がバキっと
大きな音を立てた。外見には何も変わったよう
に見えないが、駆動系がイカレたのを察知した
のか、制服はいったん距離をとる。
「これ以上の行為に対しては相応の報復措置を
とります」
「よく言うよ」
引き込んだのちに裏をとり、拘束帯を取り出し
て生きているほうの腕もきめた。コネクタを
見つけてデバイスを挿す。
「前に来たやつはコネクタも殺してたんだけど」
「私と戦ったあとに再利用できるとか思ってた
んだ」
今回襲ってきた軍事用アンドロイドはふだん
から練習しているうちのひとつだった。武器の
所持や隠し武器などがないのはあらかじめ走査
してわかっていたが、自分の知らない技を使用
するかどうかに数分見極めが必要だった。
と言っても、かわす自信もあり、つまり念の
ための見極めだ。武術の指導者からも慎重さが
足りないとか言われないために。
今回は機体の仕様を充分熟知しており、弱点も
わかっていた。特に肩口からつかんで投げを狙
って来た際に、腕にダメージを与えられる角度
と強さは何度も練習していた。
じゃあ強度をなぜ高めないのかとなるが、そう
すると繊細な技が出せなくなる。だいたい武術
の世界大会レベルの人間でも、そんな弱点を
つける者は数人しかいなかった。
可視区域内に民間人がいることも気づいてい
たが、すでに照会できていたので特に気にしな
かった。新聞社勤めまでわかっていたが、とく
に記事にすることもないだろう。
数分してハッキングに成功したので、この機体
からは嘘の報告があがっているはずだ。
「ターゲットおよび目撃者の処理に成功。ただし、
本機については移動不可能なダメージを負った
ため、偽装記録を上書きしたうえで機能停止
する」
こういった場合、もちろん襲わせた側、依頼主
が機体を回収したいものだが、サキが呼んだ
警備会社が先に回収してこれまたありがちな
報告を一般公開のサイトに上げた。
しかし、一点気になる部分があった。通常この
ような出来事があった場合、機体の出どころは
テロ組織であったり、そのたぐいの小国から
送り込まれた形跡が記録からわかるものである。
今回は大国の名前があった。これを理由に、
この後サキは公式の場から完全に消えさる。
事故死ということで小さな記事にもなった。
「やり方が雑だよね」
と思いつつも、ある大国がある意図をもって
動き出していることは明確だった。公式な身分
のまま正面から戦うと、ちょっと厳しい、
というのは軍事コンサルとしての知識からも、
生き物としての直感からも感じられること
だった。