ピエールの話16
バレンシア共和国首都を陥落させたのは、
クリルタイ国の高速空母40隻からなる艦隊で
あった。
バレンシア共和国側は2隻の巨大空母のみで、
残りの戦力は第3エリア、コウエンジ連邦の
首都へ迫っていたため、対応が遅れた。
陸戦部隊により共和国トップが確保され、
ただちに講和が宣言された。第3エリアにいた
共和国軍もただちに停戦し、解体された。
共和国内は、クリルタイ国による占領時に少し
混乱があったが、その後、生活に必要なものが
しっかりと供給されていることもあり、混乱が
広がることもなかった。
そして、そのあとのニュースも太陽系火星以内
に少なからぬ衝撃を与えた。
クリルタイ国の、正式な人口統計が発表された
のである。その数は2兆人を大幅に超える。
当国の説明では、急激な人口増加と減少が繰り
返されたため、統計に時間がかかっていたこと、
空賊や宙賊から国となっていったものがあり、
それらが帰順して属領となる期限が来たこと、
そもそもクリルタイ国として公式に人口統計を
一度も発表していないこと、などを挙げた。
バレンシア共和国では、臨時の政府が設置され、
そのトップには超極右政党のネオ社会労働党、
副党首であるムフ・ブハーリンが就いた。
ネオ社会労働党の党首アグリッピナ・アグリコラ
は、開戦の前日にスキャンダルが発覚し、国外に
逃亡していた。なんでもこの危急存亡の時期に、
身辺警護担当者と手をつないで歩いていたらしい。
もともと多数派であった極右政党の国家改革党は、
敗戦の批判を避ける意味でネオ社会労働党に
トップの座を譲っていた。また、クリルタイ国の
ジェネラルヘッドクォーターもバ国トップの上に
臨時で設置される。
そのジェネラルヘッドクォーターのトップは、
クリルタイ国から来たリアン・フューミナリだ。
ネオ社会労働党の党首となったムフ・ブハーリン
は完全に転身し、平和主義者となっていた。
そして、それは音楽バンド、ネハンも同じで、
ボーカルのマット・コバーンは再び長髪に戻って
いた。
それから数か月後、ジェネラルヘッドクォーター
が解かれ、リアン・フューミナリは木星圏に戻り、
クリルタイ国王ティエン・ヘイを補佐する立場に
戻る。
バレンシア共和国極右政党が再び蠢動を開始する
のであった。




