ピエールの話8
月のラグランジュ点第3エリア、コウエンジ
連邦軍内では、人型機械小隊の再編成が急ピッチ
で進んでいた。
もともと在った3小隊に、一時的に2つ小隊を
加えて、5小隊体制とする。ただし、第1小隊と
第2小隊は予備の戦力とし、主力を第3、第4、
第5小隊とする。第4および第5小隊は、臨時
の隊員を充てる。
今後予想される動きはこうである。
月のラグランジュ点第2エリア、バレンシア共和
国の宣戦布告および少数精鋭による即時の奇襲
攻撃。
それに対し、コウエンジ連邦軍は、初戦で敗退
する方針だ。では、キムラ・コンサルティングが
出しているシナリオを見てみよう。
コ連軍は、初戦敗退し、それにより相手の出方を
観つつ相手方の油断を誘う。そのまま連敗を重ね、
第3エリア近くまで相手を引き込む。相手に決戦
を誘い、その決戦において入念な準備のうえ、
徹底的に叩く。
そのうえで、相手国と講和を結ぶ。こちらが負け
た場合も同様となる。
初戦については、相手国の奇襲を誘う。そのため
の相手国内における工作は進行中である。奇襲を
誘う理由は、相手国側の戦力が充分に整う前に
決着をつけるためである。
軍事力による決着を選ぶ理由は、相手国内の不満
のガス抜きの意味もあるが、それに勝利すること
によって、相手国側の改革を促せるからだ。
バレンシア共和国は、人口が多すぎて、都市効率
が非常に悪くなっている。国を解体するつもりで、
国民をより広い空間へ移住させるべきだ。
また、軍事決着によるもうひとつの狙いは、今回
の騒動の背後にいる勢力を炙り出すことである。
その勢力とは、現在かなりのところまで絞れて
いるが、最後に関係者の証言が必要だ。
戦闘に勝利することで、その証言が得られる
可能性が高いと考えられる。
以上、キムラ・コンサルティングのシナリオに
ついては、こんな感じだ。
人型機械小隊の、細かい編成を見ていく前に、
もう少しこのシナリオについて考えていきたい。
それには、経済や政治の仕組みにまで踏み込んで
考える必要がある。バレンシア共和国は、自ら
戦争に走ったのではなく、誰かにそそのかされて
いる。なぜ、そういったことが起こるのか。
そそのかしているのは誰なのか。




