友達?が爆発した
「あ…あの」
「何?」
彼女は僕が振り向くと目を逸らし、何も話さなくなる。彼女の名は竹浦日織。
授業中目の前のカップルがいちゃいちゃしているのを見て顔を赤くしているのを見た。おもしろい。
彼女は話しかけてくるのに、僕が返事をすると無視してしまう。
嫌われているんだろうか、返事が遅すぎて。
「お昼…一緒に食べませんか?」
彼女は目を逸らしつつ僕に話しかけてきた。今日は午前中だけの授業だからどこかに行こうって話か。
「うん。どこか行くの?」
「え…?昼休みとか」
「今日は午前中の授業しかないよ」
周りのクラスメイトはそさくさと帰っていく。伊藤君と佐藤さんはにやにやしながらこちらの様子をうかがっている。
「あ…」
彼女が固まってしまった。何か考え込むようにし、数秒後に話した。
僕は急かすようなことは言ってはいけないと考えたので僕も固まった。
「私の家きます?料理も練習してるので…」
あ、目があった。竹浦さん、かわいらしい顔をしている。
「家…」
「あ!何でもないです!」
僕の一言で彼女は爆発し、クラスから逃げて行った。僕はこの状況に整理がつかなくて、脳が回転している。頬が紅潮しているのはなんとなくわかった。
何だったんだ?
「おいおい翔太。見せつけてくれんじゃねぇか」
ドアから見ていた伊東君が駆け寄ってくる。いつの間にか佐藤さんは消えていて、伊東君と僕だけがクラスに残っている。
「今のって何が正解?」
「追いかけて、なんか誘う」
「行ってきます」
伊藤君のアドバイス通りに、彼女を追いかけよう。まだ間に合うはずだ。
背中に背負ったリュックが左右に揺れて軽い音を奏でる。リュックも軽いし、体も軽い。
廊下を曲がったところに竹浦さんがとぼとぼ歩いていた。
僕は咄嗟に彼女の手をつかむ。
「ちょっと待って…はぁ」
彼女はすぐに振り向かず、固まったまま歩みを止めた。
「今日お弁当持ってきてるよね、僕コンビニで買ってくるからさ。一緒に食べない?」
人のいない廊下に響く。外からはバットにボールが当たる甲高い音が届いていた。
彼女は僕の手を振り払い、逆に僕の手を握った。
「は…はい」
まだ目を合わせてくれないけど。顔を赤くした彼女との関係は発展していると感じた。
「…」
廊下の角から視線を感じたが、多分伊藤君だろう。多少の違和感はあったのだが、気にせずコンビニへ向かった。
「お待たせ」
「あ、いえ。大丈夫です」
僕が向かうのは以前種村さんと話した公園。あそこは町が一望できるので結構好きだ。人が多いわけでもないので静かにしてられる。
手に持った袋をがさがさ鳴らして坂道を上った。車が通ることも少ないので、住宅街に靴の鳴らす音が融けていくみたいだった。
「着いた」
「景色いいですね」
「好きなんだ。ここ」
短い言葉で会話する。ここに来る途中もいろいろ話したので距離は近づいた気がする。気だけじゃありませんように。
「さ、座ろう」
「あ、はい」
僕の隣に竹浦さんが座る。うん。遠い物理的な距離を感じるな。
「もう少し近づい…」
やっぱりいいや。慎重に行くものだこういうのは。
柔らかい風が僕の頬を撫でる。冷めちゃうから早く食べよう。
僕は割り箸を割って手を合わせた。
「いただきます」
竹浦さんはそんな僕を目を見開いて見つめてきた。僕が振り向くとやはり目をそらしてしまうが言葉を返してくれた。
「ちゃんというんですね。そういうの」
「妹が小さくてね。その影響かな。さ、食べよう?」
「あ、はい。いただきます」
竹浦さんも手を合わせていただきますを言った。
「今度竹浦さんの料理食べてみたいな」
「え…!」
しまった。せっかく落ち着きを見せていたのにまた爆発させてしまった。
「じゃあまた今度」
「はい」
僕たちは駅まで歩いてから別れた。家まで送って行こうか聞いたら、すごい勢いで拒絶されてしまった。やはり嫌われているのだろうか?
でも、進展した感じあるな。初めてだったから新鮮だった。
「忘れちゃったかぁ」
どこからか声が僕に向かって聞えてきた気がした。周りに人が多いのでたまたま声が聞こえてきたのだろう。気のせい、気のせい。