プロローグ
僕はある日階段から落ちた。
後ろから落ちた事で不幸にも記憶を無くしてしまった。僕には両親がいない、兄妹もいない、天涯孤独なのだ。16歳までは施設で育てられ、叔母の家に向かう前に階段から落ちた。
らしい。
全て医者や家族に聞いた話だからだ。覚えている事は小学校5年生までの記憶のみ。それでも曖昧だがそれ以外は何も無い、僕と他人を繋ぐ糸は全て『階段から落ちた』と言う名の大きな刃物に切り刻まれた。
僕は小学校のころ友達がいっぱいいた。休み時間はグラウンドで鬼ごっこ、放課後も沢山遊んでいた。それでも遊んでいた友人の顔がわからない、名前が分からない、服がわからない、自分の存在すら、怖い、俺は見えない何かに、例えるならヘビのような、なんとも言えない物に体を蝕まれるような、恐怖と言う名の、記憶に、
医師によると、記憶が戻ることはあるか、ないかわからない。何かのショックが在れば変わるかもしれない、と言う。
僕には見えない、聞こえない、話せない、動けない、出来る事は…ない。
明日は退院出来るそうだ。消灯時間が来たので寝ることにした。夜の病院は怖い、と小学校のころに知っていたので消灯時間になるとベッドの外には出ない。
「翔太くん、帰りましょ」
記憶を無くした僕に叔母は笑顔で沢山の事を教えてくれた。そのおかげで僕は毎日進んでいる気がした。
「はい、麻里亜さん、」
叔母さんの名前は知ってる。最初に覚えた事だ。年齢は28歳、1人娘がいる。僕の母とは姉妹だが父親が違う。
僕は車に乗り、麻里亜さんの家、今日から僕が暮らす家に帰った。車の中で思い出した事や興味を持った事などを聞かれたのだが答えられる事は無かった。
僕が知りたいのは過去の事しか無い。
今は夏休みらしく、道路には夏祭りへ向かうであろう男女や家族達の姿が見えて、僕は麻里亜さんにこう質問した。
「麻里亜さん、僕にはもう家族と言う繋がりは無いのですか?」
麻里亜さんは顔色を変えずに話してくれた
「今日からはあなたと、私と、家にいる私の娘、あとお父さんがあなたの家族よ、安心して、あなたはもう一人じゃ無いから」
僕の目からは大粒の涙が溢れた。何故かはわからない。悲しいから?嬉しいから?それとも今までの生活が酷く寂しいものだったから?僕は答えを出すことが出来なかった。難問だったから。家族は何だと言うことが、僕には今まで家族と呼べる存在は1人もいなかったから。かもしれない
麻里亜さんの家に着いた。大きく、まるで豪邸と言うには程遠いが、僕には大きく、暖かい1軒家だった。
「荷物は運んで置くから、家に入って待ってて。」
「そんな、僕は居候させていただくのですから、麻里亜さんには重い荷物を持たせられません。」
「いいのよ、退院したばっかりでしょ?」
僕は結局麻里亜さんに荷物を持ってもらい、家に入った。
家に入ると小さな女の子がいた。麻里亜さんの事をお母さんと呼んでいることから麻里亜さんの娘だろう。
「お母さん!この人だれ?」
麻里亜さんは娘さんの目線に合わせて僕を見て、娘さんに言った。
「今日からお兄ちゃんの翔太お兄ちゃんだよ」
その言葉を聞き、娘さんは僕に対して警戒の目を向けたあとくっついて来た。
「お兄ちゃん。よろしくね。」
麻里亜さんの娘さんの名前は明石 琴音今月の14日は5歳の誕生日だそうだ。5歳児と言うには小さく感じた
「よろしくね、琴音ちゃん」
琴音ちゃんの頭を撫でたあと、夕食を食べる前に手を洗うため2人で洗面所に行った。
鏡を見ると、自分の顔にびっくりした。
顔は整っていて、イケメンとは行かないが普通と言った感じだ。何よりも目に光が宿ってない。
僕が自分の顔を眺めていると琴音ちゃんはもう終わっていたらしく早かった。
琴音ちゃんに呼ばれたので手を洗ってからダイニングへ向かった。
目の前には暖かい夕食が並んでいた。
「翔太くん、退院おめでとう。」
僕は麻里亜さんと琴音ちゃんと一緒に夕食を食べてから、自分の部屋を掃除するように促された。
僕の部屋には1つの張り紙がダンボールの上に貼ってあった。
『退院おめでとう、ここは今日からあなたの部屋です。自由に使ってくださいね。
麻里亜 』
僕の部屋にはまだダンボールの山があったが、その山を片付けているうちに思い出すこともあると思い、早急に取り掛かった。
僕の名前は
翔太、、
明石 翔太
やまネコと申します。
初投稿ですがどうぞ宜しくお願いします。