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電脳王国サバイバル  作者: 鳴海屋
第1章 君が望むもの
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現実と幻

小さな小鳥のヌルは白色で、恐らく一般級であろう。しかしヌルはヌルである。油断はできない。サイトは剣を構え、白い小鳥のヌルに突きつける。何やら慌てた様子で羽をバタバタさせているが知ったこっちゃない。

剣を振り上げたところでユリアからの制止が入る。

「待って!この子私の怪我を治してくれたみたいなの。」

ユリアの一言でサイトはユリアに目を向ける。確かにあれだけ酷い怪我をしていたにもかかわらず、今は服こそボロボロであるものの、怪我はどこも完治しているようだった。

「多分この子は意思のあるヌルだと思うの。ほら、噂とかで聞いたことあるでしょ?人に懐くヌルがごく少数だけど、確かにいるって話。」

そういえばそんな話を聞いたことがあるような気もする。でもそれは都市伝説のようなものだとばかり思っていたし、所詮噂は噂だと気にしたこともなかった。

しかし、今も小鳥のヌルは何かユリアの頭をつついてこそいるものの、危害を加える様子はなさそうだ。

危害を加えないうちはユリアちゃんの好きにさせてやろうとサイトは判断し、その場に座り込んだ。

「サイト、そんなことより闘技場近くのヌルはどうなったの?かなり被害出出てると思うんだけど。」

「あぁね、被害はすごいけど多分もう片付いたんじゃないかな?ユウキがあっちは引き受けてくれたし。」

そう告げ終わる前にユリアの目がパアッと明るくなる。

「なら安心だね!」

きっと、闘技場方面が沈静したからそんな目をしたに違いない。絶対にそうだと、心の中で強くとても強く思った。




ユウキはサイトと別れてすぐ、崩れた闘技場の残骸の上に立っていた。和服と洋服が混ざったような黒い服を着て、ヌルの大群を高みから見下ろす。その数ざっと1万。状況はあまりよろしくなく、すでに大勢が倒れて動けなくなっている。

「座標指定・因果指定」

ヌルの群れを一匹残らず収まるように空間を指定する。

次に「指定した空間に存在するヌルは他のヌルが傷をつけた時、受けた傷と同等の傷を負う」という因果を紡ぐ。

それだけのことを闘技場の残骸の上で済ませてしまうと、そこから飛び降り1匹の指定空間内のヌルの前に降り立った。目にも留まらぬ早業でヌルがユウキに反応するより早くそのヌルの首を刎ねた。

すると指定空間内にいた全てのヌルの首が同様に刎ねる。これにより全てのヌルは絶命した。突如ヌルの首が飛んだことで呆気に取られていた人々も、その後徐々に喜び歓喜の声が上がり始めた。遂には周りの音が何も聞こえなくなるほどの歓声がその日闘技場周辺を包み込んだ。

日は既に沈みかけている。現実でも夕方だろう。サイトたちに声かけて一度現実に戻ろうと決める。南方に巨大な蜘蛛のようなヌルが見える。大きさ、見た目共にあれがこの元凶だろうと、ユウキはそこへ向かった。



ユリアとサイトの2人はダメージこそ回復したものの疲労はピークに達し、座り込んだその位置から動くことができなかった。

先ほどまでは状況報告等で会話が成立していたがそれが終わってしまったら話すことがなくなり、気まずい雰囲気が漂い始めた。

「災害級に初めて出会ったけど、案外なんとかなるもんだね。」

サイトは場違いだと思いながらも、沈黙を避けるために口を開いた。

「でも1人で倒せたわけじゃないからね。災害級以上を1人で倒したって人は聞いたことない。」

ユリアの言葉にサイトは思わず黙ってしまう。

確かにその通りだ。ユリアがいなければ恐らく自分は死んでいただろう。

「あとね、あの災害級が引き連れてきたヌルの群れの数も以上な数だったし、そもそも災害級が直接サバイバルに接近してくるのも今までなかったはずなんだよ。」

「あー確かに。」

今まで災害級はサバイバル近辺にこそ出現は確認されていたのだが、直接攻めてくるということはなく討伐隊を結成して、災害級を討伐しに行くのが常であった。サイトはそれに参加したことはあっても直接災害級とやりあったことはない。まだまだ未塾だったのだ。最近はその出没情報すら出てこなくなり、災害級は討伐され尽くしたという噂まで出ていた。その中での今回の災害級による奇襲。

「サイト、ヌルを操れる術はこの世界に存在するのか?」

いきなり後ろから声をかけられる。振り向くとそこには勇気がいた。

「いきなりどうしたの?あ、話聞いてたのか。盗み聞きとは感心しないな。」

「ユウキ君!大丈夫だった?怪我してない?」

「ああ、大丈夫だ。それよりもサイト、分かるか?」

「無視ですか。そうですか。はぁー。うーん、僕が知る限りはそういったものはないかな。あくまで僕の知る限りだけど。」

「そうか。」

サイトがそういうなら無いのだろう。サイトはこの3人の中で1番サバイバルに詳しい。一番やり込んでいるのがサイトなのだ。

「ユウキはこの襲撃が誰かに仕組まれたと考えるの?」

サイトは勇気のいつも以上に素っ気ない態度に少しばかり苛立ちを覚えながら尋ねてみた。

「そう思っていた。サイトがヌルを操れる術を知らないというのなら多分違うのだろう。」

ちょっとばかしサイトを信用しすぎではあるが、今はこの襲撃は偶然だったと思うしかない。ユウキはそう思ったのだが、

「操ることは出来なくても、ここへ向かって来させるだけなら出来ない?」

どうやらユリアもこの襲撃は仕組まれたものと思っているようだ。そしてユリアのこの質問が1つの可能性を生む。

「それだけなら出来なくはないかな。でも相当難しいよ?それにそんなことをする意味がない。」

サイトはユリアの質問に対して否定をしなかった。

「その方法は一体なんだ?」

少しばかり鋭い視線をユウキから感じながら答える。

「幻影の魔法。唯一運営からナーフが入った魔法。」

幻影の魔法はサバイバルがリリースされた直後、詠唱で効果を発揮させれたのだが、それだと発動条件が簡単すぎて簡単に幻影を見せることができ、その幻影は攻撃こそして来ないものの幻影から抜け出すまでの間に勝負が決することが多かった。そのため現在では、相手の体に触れてその間に詠唱を唱えなければいけないという仕組みになっている。

つまり、災害級を触り続けなければいけないのだ。そうすればヌルの群れを討伐隊を組んで討伐しにきた人間の大群だと思わせうまくそれを操ることで襲撃は可能となる。

ただそれはあまりにも難しい。

「なるほど、確かにそれなら可能か。」

ユウキは頭を悩ませ始めた。こうなるとユウキは動かなくなる。本格的に動かなくなる前にサイトは今日は現実に戻ろうと提案した。

「そうだね、明日からはここの復旧作業に手を課すことになると思うし。」

ユリアの賛成を得て2人は立ち上がり、サバイバルの3人の自宅に向かって歩き出した。

同時に小鳥のヌルがユリアの頭にとまる。「意思のあるヌルか、本当にいたんだな。」

ユウキはそれだけ呟くと、スタスタと先頭を歩き出した。

「え、それだけ⁉︎」

サイトは戸惑いを隠せなかったが、まあいいやとユウキの横に並んで歩き出した。ユリアもすぐにサイトのいない方のユウキの横に並んだ。ユウキは疲れているであろう2人に気を使い、いつもよりもゆっくりと、でもそれを2人に感じさせないであろうスピードで歩いた。


しばらく歩き、3人の家が見えてきた。このゲームの世界で3人は同じ家を西区で買った。1人だと高くて買えない家も、3人ならなんとか買うことができたからだ。キッチン、リビングにそれぞれの個室が3つというとても小さな家であったが、外で行動することが多いので、この大きさで十分満足であった。それに作り自体はかなり快適である。それでも北部の家に比べたら半分の値段もいかないであろう。

この世界からログアウトする為にはベットに眠る必要がある。現実世界で行動している間はこっちの世界のアバターは寝ているという設定だ。家に鍵をかけておけば泥棒などが侵入することもなく安全である。

とりあえず3人は明日再びこのゲームで再開することを約束してそれぞれの部屋へと入っていった。


この時既にとある事件がサバイバルの一角で起こっていたとはこの時の3人は知る由もなかった。

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