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電脳王国サバイバル  作者: 鳴海屋
第1章 君が望むもの
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捕食者

ユリアは思わず後ずさった。

ヌルには序列ようなものがあり、下から一般級、災害級、厄災級の3段階に分かれており、今回のように大量のヌルを引き連れてやってくるのは災害級のヌルがまとめていることが多い。その災害級のヌルというのは、少なくともユリアと同等の力を持つ。恐らくこの場にいる人間で、まともに戦えるのはユリアだけであろう。もしかするとサハルも戦えたのかもしれないがあの怪我では命すら危うい。

とりあえず、闘技場の中に戻り会場全体に話を通せる人、つまり司会者を探すことにしてユリアは步をすすめる。時間はない。

幸いすぐにその姿を見つけることができた。

「司会者さん。今外を見てきたんですけど、恐らく災害級のヌルがいます。とりあえず観客の避難を優先して、戦える人には一般級の相手をお願いしたい。災害級の相手は私が。」

ユリアは淡々と素早く事実と対策案を告げる。「わかりました。自分にできることならなんでもやりましょう。早速放送しますね。」

「待って、もう1つお願い。放送が終わったらでいいの、この紙に書いてあることお願いできる?」

ユリアから紙を受け取った司会者は顔をしかめた。

「正直できるかどうかは半々と言ったところです。いや、むしろできない可能性の方が高いです。まあ、でもやれるだけやって見ます。どうせ自分も避難するしかなかったですし。」

「お願いします。」

ユリアは後を任せると、再び闘技場の高台へと飛んだ。

(しかし、それにしてもまずいな。)とユリアは思った。

そもそもユリアが得意なのは1vs1であり、魔法使いとしては特殊である。彼女が想像し創造する魔法は一点突破型が多く、多勢に無勢だとかなり手札が限られる。

先の氷と雷の合成魔法も雷部分が想定外のものに当たると氷柱は出現しない。そういう想像をしていないからだ。あれは一本一本雷の落ちる場所。氷柱の大きさ、出てからタイミング。その他多数を全てユリアの意思で決めて作り出したものだ。氷柱を盾にされた時は想像のし直しを咄嗟にできたが、本来なら氷柱は出てこないだろう。

この世界の魔法は本当に自由だ。詠唱さえ唱えれば基本後は術者の想像次第で姿形をいくらでも変える。ユリアは今まで大勢と戦う機会がなく、そう言った魔法を想像してこなかった。付け焼き刃でも可能ではあるが威力、精度はかなり落ちる。

「でもまあ、そんなこと言ってられないか。」

現状、勝機はかなり薄いが司会者に頼んだことが達成されれば状況はかなり良くなる。それなら自分がいますべきことは、時間稼ぎであろう。

ユリアはそう判断し、可能な限り時間を稼ぐことに集中する。それなら、付け焼き刃の魔法でも多分できる。

「アーム・クルァ・アーロン!」

右手を大きく横に扇ぐ。それに合わせるようにして、巨大な津波がヌルの群れを飲み込んでいく。

ヌルは一般級の場合大抵現実に存在する生物の形をしている。大きく違うのはどのヌルにも頭部に第3の目が付いていることである。ヌルは目が3つ、それ以下もそれ以上も存在しない。それがヌルである。これは災害級だろうと厄災級だろうと同じだと言われている。犬型がいれば、熊型もいる。鳥型もいれば、蛇型もいる。

つまり、水に対応できるヌルもいるということで、津波に乗り、勢いを増して迫ってくるヌルがそれなりにいるということだ。

大多数のヌルは現在ダメージこそないものの津波に押し戻されているが、それでも元々の数が絶望的であったため、かなりの数のヌルが残っている。

水に抵抗を持ったヌルが闘技場の入り口に迫る。

司会者の放送はいつのまにか終わっていたようで、すでに多くの人が闘技場前に待機している。

ヌルの群れの第一波との衝突が始まった。


ユリアは再び津波で第2波以降の接近を阻止する。その間にもヌルは人々によって数を減らされ、第一波のヌルは早くも半数に減っていた。

もう一度津波を起こせば恐らく第2波以降が間に合うことはない。ユリアは津波を再び起こす。

しかしそれを遠くから見ているヌルがいた。災害級のヌルが力を貯める。一瞬の間をおいて口から巨大な岩石を吐き出す。それは一直線に津波へ飛んでいき、津波と衝突すると津波を散布させた。同時にユリアのいる高台に直撃し、闘技場の4分の1が一瞬にして崩れ落ちた。闘技場付近で戦っていた人を巻き込み崩壊する闘技場。一瞬で多くの死者を出し、城壁の役割も果たす闘技場を大破させる、災害級のヌル。ユリアは岩石が直撃する直前にその場を離れ、無傷ではあったが今の一撃を阻止されたのは冗談では済まされない事態を招く。

ヌルの第一波を倒しきる前に第ニ波、つまり残るヌル全てが闘技場に押し寄せた。

闘技場の残骸の上に着地したユリアは遥か遠くの災害級のヌルに目をやった。

「遠くから高みの見物気取りかしら?」

さて、どうしたものかと考えているとヌルを相手にしていた人々の誰かが言った。

「ユリアさん!ここは俺らがなんとかします。ユリアさんはあの災害級を止めてください。あれがいる以上ここら辺のヌルを倒しててもキリがない。」

確かにその通りだと頷くと、ユリアは大きく駆け出した。

「ウィンテム・ドルクス・ウーラ!」

足に風を纏い、空を駆ける。鳥型のヌルの追撃をいくらかかわしながら、災害級の元へ急ぐ。

災害級以上のヌルには何かしらの名前がつく。今回のヌルはイーターと言ったところだろう。

1つの大きな頭に3つの口と3つの目、鼻や耳は存在せず、蜘蛛のような8本の足を持つ現実のものとは思えない気持ち悪さを持つヌル。口はそれぞれ大きく裂け、その端からは常に緑色の液体がポタポタと滴り落ちている。全長は大体5メートルほどだろう。

「ウィンテム・ドルクス・ウーラ=アーガ・イリシャ・ストレイン!」

イーター全体を竜巻が覆い、その体を切り刻む。さらに風でついた傷めがけてつららが突き刺さる。身体中から血が滲み、氷が緑に染まる。しかし見た目よりもっとあまり効いていないようだ。3つの口がガバッと開き、それぞれが1つだけでも人1人吹き飛ぶような怒号をあげた。風と氷はそれにかき消され、ユリアもたまらず弾かれる。スラム街の家をいくつか貫通し、ようやく止まるほどの威力であった。血を吐きながら倒れるユリアに追撃しようとイーターが迫る。今の一撃で右腕が折れたのだろう、力の入らない右腕をかばうように立ち上がるユリア。氷で右腕を固定し回復魔法を唱える。

「ヒーリム!」

ユリアのできる回復は、止血し体力を回復することしかできず骨折や、四肢欠損には対応できない。

いくらかマシになっただろうと、弱音を吐いてる場合ではないだろうと、自分に言い聞かせイーターと向き合う。

イーターは、中央の口から巨大な岩石を吐き出しユリアを潰しに来る。

「ダッシム!」

咄嗟に、自身の移動速度をアップさせ岩石を避ける。

「アーガ・イリシャ・ストレイン!」

かわしたところで氷球をイーターめがけて投げつける。イーターは右の口から炎を吐き氷球を溶かして、さらにユリアを攻撃する。

「アーム・クルァ・アーロン!」

自身を水球で覆い、炎のダメージを軽減する。しかしそれでも抑えれないほどの威力でユリアの肌を焼いていく。勢いを殺しきれなかった反動で地面を二転三転し、ようやく止まる。

服はボロボロになり、ただでさえ露出の多い服がさらに妖艶さを増している。

血が身体中から吹き出るように流れ、意識が一瞬飛んだユリアは立ち上がるのが遅れた。

その隙を逃さずイーターは、左の口から激しい稲妻を吐き出す。動けない。ユリアが死を覚悟して目を瞑る。凄まじ音が響き、肉の焼ける匂いがした。

ユリアが目を開けるとそこにはサハルがユリアをかばうように立っていた。

「サハル⁉︎」

思わず駆け寄ると、すでにサハルは息をしていなかった。その顔はとても見ていられるものではなく、ミミズ腫れのような跡が全身にあり、死ぬまでそんな時間はかからなかったことがわかる。

「ごめんねサハル。ありがと。こいつは必ず倒すから。」

ゲームでの死は現実での死ではない。ひょっとしたらまたサハルと会えるかもしれない。その時はしっかりお礼を言おうと決めた。

「ラフギ・イルル・コトサ=ダーリル・クーリル!」

光と闇の巨大な槍が上空からクロスするようにイーターに突き刺さる。ユリアが右手をパチンと鳴らすと、突き刺さっている槍の部分が大きく歪み、イーターの内側から破裂した。8本の足のうち2本が今の攻撃で根元から引きちぎられ、地面に落ちる。そこから緑色の液体がグロテスクに流れ落ちる。流石に幾らかダメージがあったようで少しふらつくが、すぐに体勢を立て直す。

イーターは6本の足をきしませて、大きく空へ跳んだ。ユリアの真上へ跳ぶと、そこから6本の足がありえないほど伸びて彼女の周りの地面をこれでもかと滅多打ちにする。ダメージがひどいユリアにこれをすべてなわすことはできず、何度か地面に叩きつけられそのまま地面に大の字に倒れた。

それを見届けたイーターは口を下にして落下を開始した。

まずいと思ったが、すでに限界を超えていた体は身動き1つ取れなかった。だんだん大きな口が近づいてくる。それに伴うように体の感覚がどんどん失われていく気がした。

巨大な穴が目の前に迫った時体が浮くような感覚を感じた。あぁ食われるのだとユリアは悟った。


ガチンッと大きな音が闘技場まで響いた。




目を開けるとユリアは誰かに抱かれていた。

「間に合ってよかったよ、ユリアちゃん。」

鎧を纏いその上からローブを被るというなんとも不恰好な、でもそれがとてもよく似合っている少年が目の前にいた。

「遅いよ、サイト。もうクタクタ。あと任せていい?」

目を瞑り安心したようにつぶやく。

「もちろん。」

それだけ言うとサイトはユリアを物陰に寝かせ、イーターの前に立ち塞がった。

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