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6 新しい朝を迎える

 次の日、リオンは朝早く目覚めた。それにつられて私も目を覚ました。まだ朝日も昇っていない時間帯。外は真っ暗だった。


「リオン、おはよう。リオンって早起きなのね」

「あ、おはよう、カリーナ。カリーナも早起きだね」

「ええ。リオンにつられて早起きしちゃった」

「僕が起こしてしまったんだね。ごめんよ」

「謝ることなんてないわ。……それより、朝ごはんは食べないの?」


 リオンは朝っぱらから何やら準備をしているが、それは朝ごはんの準備ではなかった。楽器を丁寧に拭いていたのだ。トランペットやらクラリネットやらを拭いて磨いていたのだ。


「うん、朝ごはんは食べないよ。だってウチ、貧乏だもの。お金なんてないよ」

「えっ? でも昨日、あんなに高いお金を出して私を……じゃなくてオカリナを買ったじゃない。あのくらいのお金を払うくらいには裕福なんじゃないの?」

「うん。オカリナを買ったよ。そしてそれでお金がなくなったんだ。だからもう裕福じゃないね」

「じゃああれは本当に全財産だったの?」

「そういうことになるね」


 なんということでしょう。

 リオンは私を買ってしまったせいで、無一文になってしまったのです。私を買うとき、「全財産です」って言ってたのは冗談だと思ってたけど、どうやら本当でした。


 もしかしてだけど、リオンって楽器のためなら貧乏になるのも厭わないほどの浪費家なのかしら?


「お金がなかったら生きていけなくなるじゃない。これからどうするのよ?」

「これからどうするか? それはもうすぐわかるさ」

「何よその含んだ言い方は」

「……よし、準備完了だ。一緒に来るかい?」

「えっ? こんな朝早くからどこかに行くの?」

「うん。仕事に行くよ」


 仕事?

 確か昨日、リオンは楽器吹きだと言っていたはず。

 ということは、いま拭き終わったトランペットやクラリネットを吹きにどこかに行くのかしら?


 私はそう考えると、一緒に行きたい衝動に駆られた。


「私も行くわ。連れてってちょうだい」


 そして朝早くから私たちは外出した。



--



 私たちが着いた場所は高台の上にある見晴らしの良い展望台だった。

 どうやらリオンは今からこの場所でトランペットを吹くらしい。


「よし、じゃあ吹くよ」

「ええ、お願い」


 そしてリオンは息を吸いこんだあと、トランペットに口をつけ、吹きはじめた。


 その瞬間、爽やかな風がやわらかに吹いた。

 そして朝の少しひんやりとした空気のなかを、リオンが奏でた清々しい音が通り抜けていった。

 その音は村全体を駆け巡るほど澄みきった音だった。


「素敵な音色……」


 思わず私はつぶやく。


 リオンが出す音は、私を満足感でいっぱいにしてくれる。私が迎えた新しい朝は、新鮮さに満ち溢れていた。


「さて、吹き終わったことだし、次の場所に行こうか」


 そうリオンは告げると、紳士のように私をやさしく手に持って展望台から降りて行った。



--



 リオンが次に向かった場所は村長さんの家だった。村長さんの家はリオンの家よりもはるかに大きい。そして緑に囲まれた自然豊かな家だった。


 リオンは慣れた手つきでドンドンと二回ドアを叩き、「村長さん、おはようございます」と、その言葉とともに家に入って行った。


「おお、リオンか。おはよう。今日も朝からご苦労さん。ほれ、今日の報酬だよ」

「ありがとうございます」


 リオンは村長さんから小袋をもらっていた。その小袋からはジャラジャラと金属の擦れる音が聞こえた。

 恐らく小銭が入っているのだろう。


 これでリオンは無一文から脱した。だけど結局は小銭。まだまだ貧乏であるのには変わりない。そして私は思った。リオンは貧乏紳士だなと。

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