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4 秘密のキス計画

「へえ、カリーナも音楽が好きなんだね」

「ええ、だって音楽は人の心を楽しくさせたり、哀しませたりと、色んな気持ちにさせてくれるもの。だから私は音楽が好きよ」

「じゃあ聞くけど、楽器吹きの僕に買われたカリーナの今の気持ちは?」

「う、嬉しいわ……。って、恥ずかしいからこんなこと言わせないでよっ!」



 あれから私たちの雑談は続いていた。

 今は私がリオンにいじられている。普段の私なら誰かにいじられたら腹を立てていたと思うけど、やっぱりリオン相手には不思議と怒りが湧かなかった。


「嬉しいって言ってもらえて僕も嬉しいよ」

「リオン……」


 あれ、私どうしたのかしら。

 どうしてこんなにもドキドキするのかしら。


 するとリオンは私を手に取り、


「ねえ、ちょっとだけ吹いてもいいかな?」


 こう言ってきた。


 リオンはオカリナを吹きたいらしい。


 つまりそれは……。


 リオンとのキス。本日二回目のキスということだ。


 この時私は悩んでいた。

 オカリナを吹くということが、私にとってのキスになるということをリオンに伝えるべきかどうかを。


 もし伝えたとしたら、リオンは気遣ってあまりオカリナを吹かなくなるかもしれない。

 そしてもし私が黙っていたら、リオンとの秘密のキスを何回もできることになる。だけど、もし黙っていたことがバレたら、リオンに軽蔑されるかもしれない。


 そして私は悩みに悩み抜いた上で決断した。伝えないことを。

 つまり、秘密のキスを楽しむことにしたのだ。私はリスクを負ってでもキスを楽しむ。そう、私は悪い女だ。だって元悪役令嬢だもの。


「リオン、いいわよ。吹いても」

「ありがとう。じゃあ遠慮なく吹くよ」


 こうして私はリオンとキスをした。


 本日二回目のキスもやわらかく甘かった。

 とろけて身体がなくなってしまうんじゃないかと思うくらい、幸せなキスだった。



 そしてキスすると同時に爽やかな音が響いた。

 やっぱりいつものうるさい音とは違う。

 大人しくも芯のあるような音。

 私を気持ちよくさせてくれる音だった。


 その音はしばらくの間、切れ間なく続いた。

 そう、切れ間なく。

 私が呼吸できなくなるくらいに長く。



 く、苦しいっ……。

 どんだけ長く吹き続けるの?

 ちょっとくらいは遠慮しなさいよ!

 このままだと私、息ができなくなって死んじゃうじゃない……!



 そう思った瞬間だった。


 爽やかな音から一変。お馴染みのうるさい子どものような音になってしまった。


「あれ? 急に音が変になっ--」

「ケホッ、ケホッ!」

「ん? もしかしてカリーナ、むせてる?」

「む、むせてなんか……ゴホッ!」

「やっぱりむせてるね」


 こうして、私が密かにキスをしていたということがリオンにバレてしまった。秘密のキス計画はあっさりと破綻してしまった。

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