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20 お父様、お母様

「はい、僕がミノンです」


 リオンはそう言って玄関の扉を開けた。その時には、すでに仮面を被っていた。


 どうやらちゃんと最後までミノンとして振る舞うらしい。


「ミノンさん、実は貴方にお願いがあります。もう一度だけ演奏をしてほしいのです」

「どうしてですか?」

「それは後ほどお話しします。どうかお願いします。ちなみにこれは優勝したブレアさんと準優勝したミノンさんにだけ話していることなのです」

「なんとそうだったのですか! それはお城に行かざるを得ない!」


 なんか嘘くさいわね。実に嘘っぽい。

 私は怪しんでいた。他の誰でもない、リオンのことをだ。


 あのわざとらしい言動っぷりは怪しい。まだ裏で何かを隠しているときの反応だ。

 これは真相を確かめないといけない。


 そして私たちは使いの者とともに、控え室を出た。



--



「この部屋にお入りください」


 使いの者はとある部屋を案内してきた。


 その部屋とは、まさに私がマルシェ・カリーナだったときの部屋だった。

 一体なぜ……?


 そう思いながらも部屋に入る。


 部屋からは懐かしい光景と香りが飛び込んできた。約五年経っても変わらない光景と香りが広がっていた。


 そして部屋には私のお父様とお母様、そして、ベッドの上に横たわる人形のような人物がいた。それはまさしく、本物の私だった。


 五年ぶりの自室。

 なぜか他人の部屋に入ったみたいで、ドキドキしてしまう。すると使いの者が口を開いた。


「ミノンさん、お願いがあります。この眠ったままのご令嬢の前で、もう一度あの演奏をしてほしいのです」

「それはなぜですか?」

「かつてこのご令嬢は音楽が大好きでございました。ですので、良い音楽を聴かせれば目が覚めるかもしれないと、そのようなことをうちの学者が言っていました。だから演奏をしてほしいのです」

「音楽以外のことはもうすべて試したのですか?」

「はい、その通りです。様々なことを試しました。そして調べていくうちに、この現象は呪いだとの結論がでました。呪いは呪った術者が解くか、ある決められた条件でないと解けません。しかし、呪った者が誰なのかはわからないのです。ですので、私たちは決められた条件の方を探すことにしました。そして、それが音楽なのではないかと睨んでいるのです」


 どうやら、私がオカリナになっていた約五年間、お父様もお母様も諦めずに策を練って、私を目覚めさせる努力してきたようだ。

 そのことを知った私は、何か熱い感情がこみ上げてきた。


「お願いします、ミノン様。どうかあの素晴らしい演奏を、もう一度ここで披露してくださいませ」


 お父様が頭を下げてリオンにお願いをした。

 あの素晴らしい演奏をと言っていたということは、お父様もあの会場にいたのだろう。私が探しきれなかっただけで。


「わかりました。ではこれから演奏をします」


 リオンは依頼を承諾した。


 演奏するために私たちはキスをする。

 いや、私を目覚めさせるためにキスをする。



 私はこみ上げる気持ちをおさえて、魂を込めてキスをした。



 それから一体どのくらい経ったかわからない。永遠とも思えるような長いキスを、眠ったままの私の前でした。



 しかし、私は目覚めなかった。



「ミノンさん、ありがとうございました。もう結構ですよ」


 無情にも終わりの合図が使いの者から言い渡される。


「いや、しかし……!」

「こんなにいい音色を聞かせても目覚めなかったのです。やはり呪いは一筋縄ではいかないということですね」


 使いの者は寂しそうな目をしてぽつりと口にした。

 リオンは仮面越しにだが、悔しがっているのがわかった。リオンがこんなに悔しくしているのは初めてかもしれない。そしてお父様とお母様は悲しげな顔をしていた。


 このとき私は気づいた。みんな私の目覚めを期待していたことに。なのに私は目覚めなかった。目覚めてくれなかった。


 するとそのとき、別の音色が聞こえてきた。寂しさと悲しさを含んだような音色。

 いや、音色とは呼べないものかもしれない。

 それは泣き声だった。


「ひっく…………えっ……えっ……」

「こ、これは……!」


 泣き声に反応したお父様が驚く。


「これはカリーナの声よ! 泣いているわ!」


 お母様も続けて声高になる。


 しまった。

 感情が溢れすぎてしまい、私は泣いてしまった。それも声を出して泣いてしまった。

 絶対にバレないように、泣かないようにと頑張ってきたのに。


「カリーナ! 目覚めたのね! そうでしょう!」

「カリーナ!」


 お父様とお母様が寝たきりの私に近づき声をかけている。


 お父様、お母様、違うの。私は泣いてないの。眠ってだけ。その私は死んでいるように眠っているだけで泣くことはできないの。

 泣いている本当の私は、今ここでオカリナとして生きているの。



 私は、涙が止まらなかった。とめどなく溢れてきた。


 するとそのとき、


「カリーナさんのご両親ですよね。あなた方にお話があります」


 突然、リオンが口を開いた。


「な、なんだね?」

「カリーナさんですが、いまこの部屋にいます」

「君は何を言っている--」

「カリーナさんは、こちらです」


 そして私は、お父様とお母様の前に差し出された。

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