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1 キスからはじまる出会い

 私がオカリナになって早くも四年の月日が経った。


 私は来る日も来る日も闇商人に向けて、「助けてください! 私はマルシェ城第三公爵の令嬢、マルシェ・カリーナなの! 魔女によってこんな姿にされてしまったの!」と叫んだ。


 だがこの四年間、闇商人は一切相手にしてくれなかった。それどころか、「お前は売れたら大金になる。そんな奴をどうしてむざむざと助けようというのか」と言われてしまっていた。闇商人は金に盲目的な人物だったのだ。


 ただ、私は闇商人にうてあってもらえなかったからといって、何もしてこなかったわけではない。ちゃんと誰かに助けてもらう努力はした。


 例えば、私を見た客に向けて「助けてください!」と叫んだことがあるのだが、その時は「オカリナから女の声がする。これは本当に呪われた闇アイテムに違いない。どれ、せっかくだし吹いてみよう。……うーん、これはダメだ。不良品だ。もっと大人しくおしとやかな音色だったら購入したかもしれないのになあ、残念だよ」なんて言われてしまったのだ。


 これが私が四年もの間、売れずに残っていた理由だ。どうやら私の音色は子どもっぽくてうるさいらしい。



--



 ある日のこと。

 私はいつものように、闇商人が経営している店舗の隅っこに商品として並んでいたのだけれど、そんな隅っこにいた私を久しぶりに見つけてくれた人物が現れた。


 その人物は背が高く、縮れた金髪の男性だった。服装は白のシャツに黒のジャケット。気品さを感じられた。そしてその男性は私のことを見ていた。闇商人の説明を聞きながらも、目をそらさずに、じっと。


 私を見つめる青く大きな瞳、すっと通った鼻筋、薄く紅を引いたような唇。まさに端正な顔立ちだった。イケメンだった。



「お客様、この花柄のオカリナ、中にとある女性の魂が入っているんでちょびっとばかしうるさいですが、音は確かです。こちらはお買い得ですよ」

「ふーん、女性の魂ねぇ……」


 男性はしげしげと私を見ている。

 こんな時私は声を出して「助けて!」とお馴染みのお助け文句を言うのだが、つい男性に見とれてしまっていたせいか、声も出さずに黙ってその顔を見ていた。


 そしてそのときである。

 男性は突然キスをしてきたのだ。

 キス、つまり男性はオカリナを吹いてみたのだ。



 私は驚いた。

 こんな時、いつもならみんなを不快な気分にさせるうるさい音しか出せなかったのに、今日はそういった音が出なかったのだ。


 ものすごく良い気分だった。かつて悪役令嬢だったとき、女中をいじめて快楽を得ていたときのような気分だった。


 そして私は、男性とともに綺麗で透明な音を奏でていた。


 なぜこうも良い音が出たのか。

 それはきっと、男性のキスがやわらかかったからだ。やさしかったからだ。その全てに私の心が甘くとろけてしまったからだ。


 このとき私は運命を感じた。


 そしてきっと、男性も運命を感じていたのだろう。


「僕の全財産です。これで買います」


 その一言を商人に告げて、男性はお金を払った。こうして私たちは出会ったのだった。

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