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17 朝の仕事の終わり

 リオンは朝の役目を果たすと、村長さんの家に言って報酬を貰う。


「ほれ、今日も朝からおつさかれさん」

「村長さん、いつもありがとうございます」


 リオンは村長さんからお金の入った袋を受け取った。ずっしりと袋が揺れる。


 いつもと同じ光景。これでリオンは今日も生活ができる。



 リオンは相変わらず貧乏だった。

 貧しく、一日を生きるので精一杯だった。

 きっと私がこの生活をしていたとしたら、毎日のように愚痴を吐いていたことだろう。


 しかし、リオンは愚痴を一つも言うことはなく、毎日を生きていた。


 リオンはやさしく芯の通った人間だ。

 悪役令嬢だった私には不釣り合いなほどに素敵な男性だ。


 だから、こんな貧乏な紳士がなけなしのお金をはたいて、わざわざ呪われた高級オカリナを買ったことなんて、今思うと奇跡に近いことだろう。



--



 村長から報酬を貰ったリオンは、家に帰ってきていた。


「リオン、今日の音色だけど、村長が言ってたようにすっごく良かったわよ。ほら、報酬もいつもより多めみたいだし」

「ありがとう。でも、今日の音色がよかったのはカリーナが頑張ってくれたからだよ」


 リオンは私と出会った当初はトランペットで朝の合図を吹いていたが、最近はオカリナで吹いていた。つまり私とのキスがこの村に朝を伝える合図となっていた。


「音色がよかったのもリオンのキスがよかったからよ」

「そうかな。カリーナの感情が乗っていたからだと思うけど。……って、あれ? いつもよりコインの枚数が多いや。それに……」

「どうしたの、リオン?」

「袋の中に手紙が入ってる……」



 いつもとは違う展開。いつもはコインだけなのに、今日は手紙が入っていた。


 リオンは私にもわかるように、声を出して手紙を読み始めた。


「リオン君。君に重要な話がある。これまで毎朝、君には朝を告げる楽器吹きとして仕事を与えてきた。しかしそれも今日で最後となる。明日からはもっと腕のいい楽器吹きを雇うことになっているんだ。リオン君、今までありがとう。このコインはせめてもの気持ちだ。大切に使うんだよ。それでは、君の今後の活躍をお祈りしているよ。村長より」

「な、何よこれ!?」

「解雇通知だね……」

「ありえない! 村長さんに抗議しましょう!」


 私は憤っていた。口で直接言わずに、手紙という形でとても重要な話をしたことに。そしてなにより、素敵な音色だったリオンのオカリナと私自身を否定されたことに。


 いけない。久しぶりに悪役令嬢だったときの血が目覚めそう。村長さんをいじめちゃいそう。


「抗議はしないよ」

「なぜ!? どうして!?」

「僕の実力が足りないのが悪いんだ。僕の楽器吹きとしての実力が足りなかったから、こうやって他の人に仕事を取られたんだ。当たり前だよ」

「リオン……。違うわ。これは私の実力が足りなかったからよ。私が上手く感情を乗せられないから……」

「そんなことないよ」

「いえ、そんなことあるわ。しかし困ったわね。これだと仕事がひとつなくなっちゃうじゃない……。講師の仕事だけでリオンは生きていけるの……?」

「それはわからないや……」


 リオンは手紙を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。そして、その後は互いに語ることはなく、静かに時が流れていった。



--



 今日のキスは昨日よりさらに哀しめだった。


 いつもの草原、いつもの大好きな時間帯だというのに、哀しく寂しい音色が響いていた。何かを失った時というのは、こうも哀しい音色になるのだろうか。


 そして今日は夜のキスもなかった。リオンは何か思うところがあるのだろう。私を抱かずに一人で寝てしまった。そんな私も久しぶりの孤独を感じながら、おままごとセットのベッドの上で眠りについた。

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