12 恋愛戦争に勝利した
私の存在がライバル二人にバレてしまった。
しかもよりによって悪女らしい言葉を聞かれてしまった。最悪だ。
「謎の女! どこにいるの! 出てきなさい!」
活発女が叫ぶ。
私はどうすればいいかを必死で考えていた。そして思いついた。名乗らなければいいのだと。ずっと黙ってればいいのだ。そしてさっきの声は幽霊の仕業にでもしておけば乗り切れる。
しかしそう簡単にはいかなかった。
「出てこないならワタシがキスしちゃうわよ! リオンと!」
なんと、高らかにキス宣言してきたのだ。
いけない、私だけのリオンが奪われちゃう。実態を持っているだけの、ただの活発女にリオンが取られちゃう。
そして私は決心した。名乗ることを。
「私はここよ!」
「どこよ!」
「だからここだってば!」
「だからどこなのよ!」
「あなたの目の前にいるじゃない!」
「ワタシの目の前にいるのはリオンだけよ!」
「姉さん、リオンの手、手から聞こえる」
「手……?」
やっと気づいてもらえた。このまま埒が明かないかと思った。
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それから私は二人に認識された。私がマルシェ・カリーナという名前だということ。とある魔女の呪いでオカリナの中に魂を封印されてしまったことを伝えた。身分もどうせ言っても信じてもらえないと思ったけど一応伝えた。
「へー、マルシェ・カリーナさんっていうのね。マルシェ城のカリーナ。実に嘘っぽいわね。……まあいいわ。ワタシはミーファよ。ドゥレソラ・ミーファ。それでこっちの男は私の弟でドゥレソラ・シドって言うの。……と、自己紹介はこんなところでいいかしら」
「あ、はい。そのくらいで充分です。そしてミーファさんとシドさん、もう結構です。さっさとお帰りくださ--」
「じゃあ自己紹介も終わったことだし本題に入るわよ。カリーナさんはリオンの何なの?」
さっそく来た『私はリオンの何なのか』という攻撃的な質問。私が発しようとした『さっさとお帰りください』を遮ってまで飛んできた質問だ。回避はできない。
ここは正面からぶつかって答えるか、それともちょっとだけ横に逸れて答えるか……。
「活発女! そっちこそリオンの何なのよ!」
「ワタシはリオンの許嫁よ!」
「えっ……。そ、それ本当?」
「本当に決まってるじゃない!」
お、終わった……。幼馴染くらいだったら勝ち目があるかと思っていたけれど、さすがに許嫁には勝てない。
私は負けだ。
そして私が諦めようとしたそのとき、メガネくん改めシドくんが口にした。
「姉さん、嘘はよくないよ。姉さんはただの幼馴染だろ?」
「何言ってんの? ワタシ、許嫁なんだけど」
「カリーナさん、ボクの姉はすぐ嘘をつきますのでご注意を」
「あーもー! こんな時は嘘ついて誤魔化すのがセオリーなのよ! それをアンタは見事に壊しちゃって!」
ほっ、よかった。とりあえず許嫁という最悪な関係ではなかったみたい。
でもミーファはリオンと幼馴染。それは揺るぎない事実となった。
「で、カリーナはリオンの何なの? ワタシが答えたんだから、アンタも答えなさいよね!」
「私は……」
「私は? その先は何かしら?」
ぐっ!
私はなんて答えたらいいの?
私はリオンの楽器です! リオンだけのオカリナです! めちゃくちゃなキスも済ませてます! とでも答えればいいの? それでこの恋愛戦争に勝てるの?
わからない。なんて答えればいいかわからない。
そもそも、今の私って本当に何なの?
見た目はオカリナ、中身はオトナになれないコドモようなオンナ。それが今の私。
そう、私はそんなオカリナ。そして、かつて悪役令嬢と呼ばれた意地悪い女。
「どうしたの? 答えられないの?」
ミーファの急かす声が聞こえる。
何かしら答えないと。でも、私は本当に何なのか……。
と、悩みに悩んでいたそのときだった。
「カリーナさんは僕の全財産をつぎ込んだ大切な方です。ただそれだけです」
リオンが私の代わりにに答えたのだ。全財産をつぎ込んだ大切な方だと。
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 全財産? それ本当? 本当なの?」
ミーファはリオンと私を交互に見ながら焦るように聞いてきた。
そして私とリオンは同時に答えた。
「「本当です」」
こうして恋愛戦争は一気に終結した。
結果は私の勝利だった。