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11 大ピンチ

 快楽のサンドイッチから解放された私。

 すると、「あれ? リオンさん、何か胸ポケットに入れてます?」と、メガネくんがリオンに尋ねてきた。


「ああ、オカリナを入れてるんだ」

「オカリナですか! それは珍しい! ちょっと見せてもらってもいいですか?」


 テンションが上がったと思われるメガネくんは私を見たいと申してきた。

 うむ、まあメガネくんならイケメンだから見られても良いぞ。といった言葉をもちろん心の中でつぶやく。


 そして私はリオンの手によって、胸ポケットから外の世界に出された。


「花柄のオカリナとはこれまた珍しい! どれどれ……。触り心地もつやつやで美しいですね! よく手入れされているのがわかります!」

「まあ、なんてたって、昨日なでてつやつやにしたからね」

「リオンって楽器に対する愛情ハンパないからねー。どうせ一晩中なで続けてつやつやにしてたんでしょ?」

「ま、まあそうだね」


 な、なんと!

 私は昨日、なでられながら眠ってしまっていたのだけれど、私が眠ったあともずっとなでられていたのかしら……?


 どうなのかはわからないけど、想像するだけでも楽しいわね。


 そうして私が妄想の世界に入り込んでいたところ、「ねえ、リオン。ワタシ、リオンがオカリナ吹くところを見てみたいなー。聞いてみたいなー」と、甘えるような声で活発女がリオンにお願いしてきた。


 オカリナを吹いてほしい。それはつまり、私たちのキスを見たいと言っているといっても過言ではない。


「ち、ちょっと待ってて」


 そう言うとリオンは二人に背を向け、そして私に小さく声をかけた。


「カリーナ、話聞いてた? オカリナを吹いてほしいっていわれたんだけどさ……」

「もちろんいいわよ。私たちの演奏をあの二人に見せつけてあげましょ」


 私も二人には聞こえないように、そしてリオンにだけ聞こえるように囁いた。



 活発女にメガネくん、見てなさい!

 私たちの灼熱よりも熱くてとろける甘いキスを!



 こうして私が心の中で二人に宣戦布告を掲げたところでリオンは、「いいよ。僕たちが奏でる音を聴いてよ」と言いオカリナを口にした。


 ライバルの前で行われる熱いキス。

 それは優越感を感じながらのキスだった。


 オカリナの音色も爽やかだけど少し力強く、たくましい音になった。



--



 しばらくの間、私たちの演奏という名のキスは続いた。


 ライバル二人は目を瞑って私たちの音を聴いていた。心身に沁み渡らせているようだった。

 そして聴き終えたあと、感想を口にした。


「ほんといい音色だねー。心がスッキリするわ」

「うん、ボクもスッキリしたよ。風を感じるような素晴らしい音色だった」

「私もスッキリしたわ。なにせ強力なライバルの前で行われたキスだったんだもの。ああ、最高の気分」


 私は愉悦感に包まれながらスッキリしたことをつぶやいた。


 ……って、え? 言った? 私、言っちゃった?



 すると、「ねえ、リオン。今の女の声は何?」と、活発女が訝しげにリオンに尋ねた。


 まずい。バレてしまった。


「あ、いやあ、今の声は何だろうなあ……わからないや、ははは……」


 リオンはとぼける。しかし追撃は終わらない。


「それにさっき『僕たちが奏でる音を聴いてよ』って言ってたと思うけど、『僕たち』の『たち』って一体誰なの? もう一人はどこにいるの? いるんでしょ、『たち』の女がこの近くに」


 活発女は驚くほどに鋭かった。リオンがうっかりと私の存在を匂わしていたことにも気づいていた。


 そして私は二人に名乗るしかない状況となった。

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