第5夜
結局昨日の夜はあの後に何もせず帰った。話し合いで時間が遅くなり、いちごも相変わらず気づいたらいなくなっていたからだ。
次の日。俺が学校に着くやいなや滴生が俺に話しかけてくる。
「ねえ、蓮月君。昨日はあんなこと言ってごめんね。あのときは動揺しちゃってて。」
申し訳なさそうに、上目遣いで。こんなことされたら許すしかないだろ。もともと許すつもりではいたのだが。
「ああ、気にするな。それよりもホントに良いのか?」
「うん、それに関しては問題ないよ。時間もあるし子供と遊ぶのも好きだから。」
まあ滴生がそこまで言うのなら大丈夫なのだろう。こちらとしても素直に助かる。
「そうか。じゃあ今夜からよろしくな。くれぐれも無理はするなよ。」
「それはこっちの台詞よ。毎晩いちごちゃんと遊んでたんでしょ?私がいるんだから少しは頼ってよね。」
「ああ、ありがとな。」
こうして俺たちは、各自の持ち場へと帰る。余談だが、俺が自席へ戻ると滴生と俺の会話している様子を見ていた彬の幼稚な冷やかしが入る。親友よ、もう少し大人になってくれたまえ。
もはや日課となった深夜の公園通いだが、今夜からは今までと違う。どんなことに関しても2人というのは心強いものだ。
「あ、お兄ちゃん。しずかおねえちゃんは?」
「ああ、あいつならもうしばらくしたら来ると思うぞ。今のうちに今日はなにして遊ぶか考えておこうぜ。」
「うん、そうする!」
そして数分後。
「うう、どうしよう。なにもおもいつかないよぉ……。」
「ああ、高校生にもなって子供との遊びの1つも思い付かないとは……。これは滴生に頼むしかないな。」
遊びを思い付かず頭を抱える小学生と、完全に他力本願な高校生がいた。こんな組み合わせは二度と見ることができないであろう、貴重な数分であった。
俺たちが真剣に知恵を働かせていると、
「ねえ、あななたち何してんの?」
我らが待ち望んだ救世主の登場だ。
「おお!滴生よ、よく来てくれた。」
「あ、しずかおねえちゃん!」
小学生も高校生も年齢に関係なく滴生のもとへ集い、事情を説明する。
「ふぅん、大体事情はわかったよ。でも遊びなんて少し考えればたくさん出てくるでしょ。例えば……おままごととか?」
「「はっ、その発想はなかった。」」
揃って驚愕の声をあげる俺といちご。その様子を見て滴生は呆れたように俺に言う。
「ねえ、いちごちゃんはともかく蓮月くんは高校生でしょ。何で思考レベルが小学生と同じなのよ。」
「……返す言葉もないな。まあ、お陰で助かったよ。ありがとな。さて、そうと決まればさっそくおままごとの準備だ!」
「おーー!」
俺といちごは高らかに拳を突き上げ、準備に取りかかる。
「まったく、立ち直りだけは早いんだから。……私も手伝うよ。」
ぶつぶつとぼやきながらも手伝ってくれる辺り、こいつも良いやつなんだな。まあ俺が言うまでもないが。
さて、アイデアは出たものの、はっきり言っておままごとなんて幼稚園の頃に数回やった程度でどうすれば良いのか全くわからない。ここは下手に動かず2人に身を任せよう。
「いちご、俺はなにをすれば良いんだ?」
「お兄ちゃんはねえ……おとうさんやくやって。それでね、しずかおねえちゃんにはおかあさんやくをやってほしいの。いちごはね、ふたりのこどもやくをやる!」
俺があたふたしているうちに滴生が答える。
「うん、分かった。それじゃあ始めようか。」
子供の扱いに慣れてやがる。何回遊んでも慣れない俺とは大違いだ。
こうして、深夜の公園で幼女と高校生2人による奇妙なおままごとが始まった。
「ただいまー。」
これはお父さんである俺だ。気だるそうな雰囲気を装い、仕事に疲れた父親役を演じる。我ながらなかなかの再現度だ。
「あら、おかりなさい。お仕事お疲れ様。」
お母さん役の滴生が、料理を作るふりをしながら俺を出迎える。
「おかえりー!」
そしてこれがいちごだ。もともと子供だから演技の必要はない。当然のことながら三人のなかで一番役にあてはまっている。
「ねえおかあさん、きょうのよるごはんなに?」
「今日はいちごの好きなハンバーグだよ。」
「ほんと?やったー!」
いちごはまるで本当に夜ご飯が好物だと知らされたかのように喜ぶ。
「よかったな、いちご。」
「うん!いちごね、ハンバーグだいすきなの。おにいちゃ……じゃなくておとうさんもハンバーグすき?」
「ああ、ハンバーグに限らず肉なら何でも好きだぞ。そんでもって多分お母さんも肉は好きな方だと思うぞ。だろ?」
「そうね。好きか嫌いかで言えば好きな方の部類に入ると思うわ。」
「そうなんだ。じゃあきょうのよるごはんはみんながすきなものだね。」
と、ここで滴生がご飯が完成したことを俺たちに伝える。
「じゃあみんなでたべよ。」
「ああ、そうだな。」
そして3人で声を合わせて、
「「「いただきます!」」」
こうしているとまるで本当の家族みたいだ。普段一人暮らしの俺には羨ましく感じられる。
「うん、おいしい!」
「そうだな、最高のハンバーグだ。」
「どう?少しは疲れを忘れられたかしら。」
「ああ、これで明日からも頑張れるよ。ありがとな。」
俺たち3人はこれがおままごとだということを忘れるほどこの雰囲気を楽しんでいた。すると
「なんだかほんとうにおとうさんとおかあさんみたいだね。」
いちごが唐突にそんなことを言い、それによって俺たちは現実に引き戻された。俺と滴生は一連の流れを思い出してみる。ちらっと滴生の方を見てみると、顔が少し赤らんでいる。おい、そんな顔すんな。こっちまで恥ずかしくなってくるだろ。
「ね、ねえ、いちごちゃん。今晩は蓮月君だけじゃなくて私も一緒に遊んだんだけどどうだった?」
気まずくなった雰囲気を壊すように滴生がいちごに問う。
「すごくたのしかったよ!」
俺たちの気持ちを1ミリも察することなくいちごは明るく答える。
「じゃあ、次からも一緒に遊んで良いかな。」
「うん、いいよ。またあそぼうね!」
その答えを聞いて滴生の顔が一瞬にして明るくなるのが分かった。
「うん、また3人で一緒に遊ぼうね。」
こうして滴生初参戦の夜は幕を閉じた。
未だに友人に推敲を手伝ってもらってます。あと、もうしばらくの間不定期投稿をお許しください。




