第3.5夜
遂にやってしまった。今までは面倒を見るという名目があったからギリギリセーフだったが、家に連れ込むのは完全にアウトだ。
だがまあやってしまったものは仕方ない。今大事なのはいちごと何をするかだ。当然というべきか俺は家に人を呼ぶことがないので、多人数で遊べる物は何もない。さて、どうしたものか。
「そうだ。いちご、甘いもの好きか?何か作ってやるよ。」
「ほんとに?」
「おう、食べたい物とかあるか?」
「うーん、ホットケーキ!」
「よし分かった。めっちゃ美味いホットケーキ作ってやるよ。」
幸いにも、一人暮らしのお陰で料理スキルは無駄にある。ホットケーキミックスもある。一通り準備ができたら、フライパンを火にかけ、十分に温まったら生地を流し込む。部屋中に甘く美味しそうな匂いが拡がっていく。
「わぁ……おいしそう。」
いちごの口から本人も意識していないであろう言葉が漏れる。
「いちご、何か掛けるか?シロップとクリームとイチゴジャムがあるぞ。」
「イチゴジャムにする!」
いちごは迷わず答える。やっぱりか。
出来上がったホットケーキとイチゴジャム、クリームを机に並べ、二人で机の前に座る。クリームは俺が掛ける分だ。
「よし、いちご。好きなだけ掛けて良いぞ。」
「うん、わかった!」
そう言いながらいちごは、未開封の瓶に入っていたジャムを3分の1ほど塗っていく。おいおいマジかよ。いくら子供でもさすがに身体に悪いんじゃないか?まあ、俺もホットケーキの表面が見えなくなるほどクリームを塗るわけだが。
「じゃあ食べるか。」
「うん、いただきまーす!」
いちごは大量のイチゴジャムが塗られているホットケーキを頬張り、
「う~ん、おいしい!」
幸せそうに頬を弛める。俺も頬張る。うん、やはりこの甘さが癖になるな。身体の事とかどうでもよいとさえ思えてしまう。
数分後。
「「ごちそうさまでした。」」
俺といちごは揃って食べ終わった。
「どうだ、美味しかったか?」
「うん、すごくおいしかった!お兄ちゃんりょうりじょうずなんだね。」
「おう、それは良かった。また何か作ってやるよ。」
できればもう幼女を家に連れ込むことは遠慮したいが。
するといちごが俺の顔を見て何かに気づいたように近づいてきた。
「お兄ちゃん、ほっぺにクリームついてるよ。」
そう言って俺の口元のクリームを指で拭い、それを舐めた。可愛い顔して結構大胆なことをしてきやがる。
「あれ、お兄ちゃんどうしたの?かおがすこし赤くなってるよ?」
「ああ、いや、気にしないでくれ。何でもないから。」
そしてそんな幼女を相手に激しく動揺している高校生がいた。
「ふわぁ……」
ホットケーキを食べ終わってしばらく二人で話していると、可愛げなあくびが聞こえてきた。時計を見るともうそろそろ次の日も近づいている。
「眠いのか、いちご。」
「……うん。」
いちごは返事をするのがやっとという雰囲気だ。
「じゃあ今日は俺の家で寝ていくか。」
「うん、そうする。」
俺は布団をひいていちごを寝かせる。当然のことながら普段一人暮らしのこの家には布団が一枚しかなく、俺は床で雑魚寝だ。いちごは布団に入ると某眼鏡の少年もかくやという早さで眠りについた。その安らかな寝顔は俺の心を落ち着け、眠気を誘ってくる。さて、俺も眠るとするか。いちごは明日の朝早めに起きて家に送ってやろう。そして、俺は眠りについた。