第2夜
やばい。とてつもなく眠い。理由は分かっている。昨日の夜に幼女、いや、いちごと遊び、その後で宿題の存在に気付いたからだ。勿論早起きして終わらせたのだが、人間慣れないことをするもんじゃない。朝から今までずっと眠気と戦っている。まずい、このままでは……眠けに……負け…
「おい、亜悟。起きろよ。」
「おお、我が友彬よ。よくぞ俺を睡魔から救ってくれた。」
「は?何言ってんだ。それより亜悟、弁当食おうぜ。」
「弁当か。悪いな彬、今日は弁当持ってきてないんだ。」
勿論作れていないのが宿題のせいであることは言うまでもない。
「おいマジかよっ。じゃあ今日は一人で食ってるわ。」
「おう、悪いな。そうしてくれ。」
こうして俺は昼食を食えず、午後の授業は空腹と睡魔の連携攻撃を耐えることになった。辛すぎる。
重い足を引きずりながら家に着くと
、まずいちごのことを考える。果たして本当にあいつは今夜も公園にいるのか?また明日とは言っていたが、普通深夜に2日連続で幼女がいることはないだろう(まあ1日でもいる時点であり得ないのだが)。だが、もしものことがあるといけない。それに夜の公園に行くこと自体は嫌いじゃない。と言うかむしろ好きだ。
そんな訳で俺は今夜も夜の公園へ足を運ぶ。
昨日は意識していなかったが、空を見上げるとほんの少しだけ欠けた月が浮かんでいる。つまり昨日は満月だったということだ。
夜の公園は月明かりと電灯に照らされ、夜とは思えないほどの明るさだ。しかし人がいないことが、今の時間帯の公園の異世界感を演出している。いや、人影は一つだけある。
「あ、お兄ちゃん!」
案の定いた。何とも複雑な気分だが、いなかったらいなかったで心配するんだろうと考えると一概にいない方が良かったとは言いづらい。
「ねえ、きょうはなにするの?」
さて、今日のシンキングダイムだ。今度こそ一発で正解を当ててみせよう。
「そうだな、今日はかくれんぼでもするか。」
「うん、かくれんぼする!」
……昨日やったのが鬼ごっこだったから今日はかくれんぼという安直な思考はバレなかったようだ。
「じゃあまずはお兄ちゃんがおにやってね。」
そういうといちごはすぐに走り出す。俺は10秒数えてからいちごを探し始める。深夜の公園で幼女を探す高校生。完全にロリコンだな。
さて、そんな無駄口を叩いている場合ではない。真剣に探さなければ、高校生が小学生を見つけられないとなるとかなり恥ずかしい。悪いがここは本気を出させてもらおう。ここの公園で子供が隠れそうな場所は2箇所。滑り台の裏、水が抜かれたプールの中だ。しかしプールの周りには柵があるためいちごが乗り越えるのはなかなか難しそうだ。となると消去法で滑り台の裏ということになる。
俺は自信満々で滑り台の裏に回り込む。そして、
「そこだぁ!」
……しかしいちごの姿は見えない。どうやら予想は外れたようだ。それならプールか?一応確認したが勿論姿は見えない。その後、数分間探していたが一向に見つかる気配はなく、
「降参だ。いちご、出てきてくれ。」
恥ずかしながら俺はかくれんぼで小学生に負けたのだ。
俺が降参宣言をしてからしばらくすると、いちごが木ノ上から降りてきた。なるほど、その発想はなかった。
「やったー、いちごのかち!」
「ああ、負けたよ。しかし凄いな、よくあんな所に登れたな。」
いちごが登っていた木は枝は多いが高さがあり、小学生が上るのはなかなか難しいだろう。
「うん、いちごはきのぼりとくいだもん。じゃあつぎはお兄ちゃんがかくれてね。」
そうか、次は俺の番か。これはさっきの失態を取り戻すしかない。再び本気を出させてもらおう。見ていろよいちご。お前を降参させてやる。
……小学生相手に本気でかくれんぼをする高校生がそこにはいた。
数分後。
「お兄ちゃん弱いね。」
「何故だ、なぜ俺はこんなにも弱いんだ。」
「だってお兄ちゃんの足が見えてたんだもん。」
どうやら時の流れは俺の身体をしっかりと成長させてくれていたらしい。小学生気分でかくれんぼをしていると隠れきれなくなるのだ。遊具も元々高校生用には作られていないため、仕方のないことだろう。
「こんどやるときはちゃんとれんしゅうしてきてよ。じゃあまたあしたね!」
「おう、次は負けねえからな。」
いや待ってくれ。俺は何をしているんだ。小学生を深夜に一人で家に帰すのはさすがに危ないだろ。
「おい、いちご。家まで送ってやるよ。」
そう言って振り返るがすでにいちごの姿はなかった。いやはや、逃げ足が速いというかなんというか。
こうして俺といちごの2日目の夜は幕を閉じた。今夜分かったことは、幼女はまた明日と言ったら必ず来るということだ。子供の世界に社交辞令は存在しないのだ。
今回は見せ場が少ないですね。次回はもう少し冒険してみます。