祈祷師
ーー
ギルドはかなり混雑してる。
「有希、転職カウンターはこっち。」
「ん。あり…がと。」
わたしと有希は2人で行動することになった。
朝陽と大地は別々に動くみたいだけど。
まず、ギルドの登録を済ませてから、一番の目的である転職をするために転職カウンターへ向かう。
今回は朝陽がいないから何事もなく終わりそう。
「みや…び。向こう…騒…がし…。」
「え?ほんとだね。」
有希が指差す方向から男の人の声が聞こえる。
「……!…………?……やろ!」
耳に入ってきた声は、聞き覚えのある関西弁。
「あ…さひ…?」
「みたいだね。ここはわたしに任せて。」
転職カウンターのお姉さんが忘れられなかったのか、おそらくデートに誘っているんであろう朝陽。
「ちょっとくらい大丈夫やって!ほら、ちょっとだけ一緒にお茶するだけやん!」
「お誘いはありがたいのだけれど…ごめんなさいね。私にも業務あるから。」
まったく私に気付いていない朝陽の後ろに回って
「このバカッ!人に迷惑をかけない!女の人に声をかけるのはいいけど、人に迷惑かけないようにしてね!」
「いった!って都姫かいな。迷惑って…せやな。転職カウンターやもんな。悪い。」
後頭部に張り手を一発。
有希の顔を見て彼女の目的を思い出したのか、案外素直に謝った朝陽。
ちょっと予想外だったね。
「いいよ。気をつけて?」
「了解や。有希、すまんな。」
有希は朝陽に声をかけられて、私の後ろにまた隠れながらも「いい…。だい…じょぶ…。」としっかり返事をする。
ちょっとだけ"目が覚めた"のかギルドの外へ向かった朝陽。
わたしも有希の転職進めてあげなきゃね。
「お姉さん、連れがすみませんでした。」
「ええ、私は大丈夫よ。転職でいいのかしら?」
「はい。ただ、わたしじゃなくてこの子です。」
有希に、前に出るように促すと素直に前に出た。
「おね…がいし…ます…。」
「うふふ、可愛い子ね。ここで転職できるのは10種類よ。剣士・戦士・騎士、魔法使い・祈祷師・僧侶、弓師・銃士、盗賊・暗殺者の中から選んで頂くわ。」
最初に私たちが言われた言葉と同じ発言をするお姉さん。この辺はNPCなんだなあ。
「ん。祈祷師…で…おね…がいし…ます…。」
「え?祈祷師になるの?僧侶じゃなくて?」
びっくり。ゲームのトップを目指したがる有希が、ヒーラーになるって決めたなら僧侶になると思ってた。
「ん。祈祷師…回復…も…付与…も…できる…。」
「まぁ、そうだけど。でも僧侶より回復力は落ちるよ?」
「大地…近接…アタッカー…、朝陽…タンク…、都姫…遠距離…アタッカー…。なら…純…回復…より…サポート…も…できた…ほうが…いい…。」
人差し指を顔の前に持ってくる有希。この合図は続きがあるときにするもの。
ゆっくりしか喋れない有希が続けて話したいときに、わたしたちが割り込まないように決めた、昔からの決まりごと。
「ゆき…レベル…低い。でも…役に…立ちた…い。だから…頑張…て…両方…やる。」
有希が人差し指を下げたので、わたしも口を開く。
「そっか。ならわたしも応援するよ!頑張ろうね!」
「ん。」
一言そう言って、有希はお姉さんに向き直った。
「祈祷師でいいのかしら?」
「ん。祈祷師…なり…ます…。」
「わかったわ。手にカードを乗せてカウンターの上に出してちょうだい。」
「ん。」
言われたとおりにした有希の手にお姉さんの手が乗せられ、わたしたちの時と同じように光る。
「わ…!」
有希が驚いてる。可愛いなあ。
「これで転職は完了よ。ステータスを確認してちょうだい。」
「あり…がと…ござい…ます…。」
転職が終わった有希と、ひとまず外に出てステータスを確認することにした。
ギルドの中だと人が多くて有希が落ち着かないって。
ただ、ギルドの周りはパーティの募集・仲間探ししてる人がたくさんいて、まだまだ人口密度が高い。
「始まりの草原にいこっか。あそこなら人少なくなってきてるし。」
「ん。あり…がと…。」
「いいよ、全然。わたしと有希の仲でしょ!」
「えへへ…なか…よし…。」
なかなかレアな有希の笑顔、来たーっ!可愛すぎるー!
天使のような有希をひとしきり撫で回した後、《始まりの草原》に向かう。
「ぷよぷよ…よしよし…。」
どうなってるのかな、FWO。
有希の足元にはスライムがいて、有希はそれを撫でてるんだけど!触るとターゲットに取られるはずなのに!
まったくわからないけど、有希が喜んでるし、いっか。
攻撃してきたら倒せばいいしね。
「ほら有希。ステータスの確認だよ?」
「あ…そっか…。またね…ぷよぷよ…。」
スライムの名前はぷよぷよになったらしい。
「ん。」
有希がステータスを開き、わたしに見せてくれた。
Yuki/祈祷師/無所属
Lv:20/STP:0
HP:920/920 MP1440/1440
STR:0
VIT:20
INT:220
AGI:0
DEX:0
LUK:0
「INT-VITなんだね。9-1かあ。いい感じだねっ!」
「ん。みや…び。スキル…どこ…?」
あ、そっか。最初の一次職はスキルないんだもんね。
「上位職の見習いになるまでJobスキルはないんだよ。武器にスキルがついてるから、武器だけ買いに行こっか!」
「ん。」
無表情で頷く有希。無表情も可愛いよね。
わたしたちはきたばかりの道を引き返し、武具屋へと向かうことにした。
最初のうちは集中力がいい感じだったのですが、最近続きません。1話書くと、集中力に欠いていい話が書けないのでしばらく1日1話更新になると思います。
申し訳ありません。




