終章
こうして、俺の夏休みは終わった。
ナツコさんと出会い、別れてからも、俺は夏が来る度にこの田舎を訪ねた。
だが、何度神社の裏の公園に足を運んでも、もう彼女に会うことは無かった。
そして、気がつくと俺は二十五歳になっていた。
ナツコさんが死んだ年に、俺はなってしまっている。
そのことに気がついて、数年ぶりに俺はこの公園を訪れたのだ。
神社裏の公園にある木に背中を預け、俺はタバコに火をつけた。
大きく吸い込み、肺に煙を送り込む。
そして、ふうーと勢い良く、煙を吐き出すと、ゆらゆらと煙は拡散していった。
あれから俺は、ナツコさんとの宿題を果たすべく、悩んだ末に、父親と暮らすことにした。
その後も決して仲良しとは言えないまでも、それなりに溝を埋めながら親子という関係を築いていると思う。
ナツコさんが最後に言った言葉は、俺に届いていた。
ありがとう、と彼女は言った。
だが、俺は何もしていない。
むしろ、俺の方が礼を言わなくてはならなかったのだ。
だが、それを言う相手はすでにこの世には居ない。
自分の思いを伝えられない辛さを、俺はあの夏に知ったのだ。
俺は木陰でナツコさんを思い出しながら、もう一度タバコを口にした。
煙が空に吸い込まれるように登っていき、そして雲になっていく。
それを見つめる俺の視線の先に広がる空はナツコさんを思い出させる。
「あぁ、今日もいい天気だ。」
空は、あの日と同じ色だった。
終