1.転校生
これは男性恐怖症の私と、女性恐怖症の彼との・・・不器用な恋物語である。
・・・初めまして。私の名前は倉本咲夜。
えー名前の由来は、私が生まれた日に満月が出まして〜・・・って言うのは置いといて、私は今友達に囲まれ本を呼んでいます。
「ねっ、咲夜!今日転校生がこのクラスに来るんだって!」
「・・・ふ〜ん・・・」
「それでね、それでね!男の子で、結構カッコいいらしいの!!」
「・・・へぇ〜・・・」
「それからね、それからね!関西から来たらしくて、関西方面の訛りが入ってるんだって!」
「・・・ほぉ〜ん・・・」
「もう!咲夜はどんな子か気にならないの!?」
「あぁあ!!」
私を囲んではしゃいでいた四人の友達のうちの一人が、私の読んでいた本を取り上げ、高々と腕を掲げ、怖い顔をして私を睨んできた。
本を奪い返そうとピョンピョンと飛び跳ね頑張ったが・・・何分背の低い私だ・・・。本を取り返す事を諦め、仕方なしに友達の会話に参加する事にした。
「・・・で?」
「だ〜か〜ら〜!」
「咲夜はどんな子か気にならないの?!」
カッと目を開き迫ってきた友達に私は若干体を引き、顎に指を当て、真剣に考えているかのように演出し、
「・・・・・・ならないねぇ」
と呟いた。
「何でっ!」
「ならないものはならないのよ」
「だから何で!咲夜の男性きょう「わぁ〜わぁ〜わぁ〜!!」・・・何よ」
危ない危ない・・・危うく私の秘密がクラスの男子に知られるところだった。
・・・そう、何を隠そう私は男が大の苦手なのだ。・・・その理由は・・・まぁ、また後で話すとして・・・。
「余計な事言わないの!」
「え〜?別にいいじゃ〜ん」
「そーそ。誰も聞いてないって・・・咲夜が男せ「わぁ〜わぁ〜わぁ〜!」・・・なんて」
「・・・もぉ、どうしてダメなの?」
友達のその言葉に、私はピクリと反応を示し、体をカタカタと震わせた。
「・・・男なんて・・・男なんて・・・男なんて・・・っ!ろくな生き物じゃないのよ?!」
若干涙目になりながら訴えかける私に、友達四人が引いている。・・・失礼な。
「何でそんなにダメなの?」
「そーよ?咲夜はクールビューティだって男子に人気だし・・・」
「風当たりもいいから女子にも人気なのに・・・」
「もったいない・・・」
「「「全く」」」
うんうんと頷き合う友達に、私は初めて殺意というものを覚えた。しかし大切な友達だ。手は下さないでおこう・・・うん、偉いな!私。
・・・と、まぁそれはいいとして・・・ここまで来たから私が男性恐怖症になってしまった訳を話しましょう。私が男が大の苦手になったのには、二つの訳がある。
まず一つ・・・それは私の兄と、弟に問題がある!
私には兄が二人いて、そのうちの一人は超がつくほどの遊び人で・・・毎日毎日毎日毎日、違う女の人を連れて帰ってくる。それを私が自粛したらと言えば・・・、
「あっちから寄って来るんだよ?・・・何、咲ちゃんヤキモチ〜?」
などとっ・・・ニヤニヤしながら迫ってくるのよ・・・っ!
アンタは本当に女の気持ちを考えた事があるのかと言いたいわ!
・・・そして二人目の兄は硬派で、清純派なのに・・・なのに・・・なのに、なのにっ!
酒が入ると超変態に早変わりしちゃうのよ!!
何度寝込みを襲われかけたか・・・っ!・・・あぁ・・・涙が出てきた・・・。
そして、そして・・・唯一の弟は・・・極度のシスコン・・・。
抱きついてくるのは日常茶飯事。そして時には、キスをしようと迫ってきたり・・・寝こみを襲われそうになったりと・・・っ!あぁ・・・本当に泣きたい・・・。
どうやら私の家系はみんな顔がいいらしく、さっき友達が言ったように私は『クールビューティ』・・・らしい。自覚はないし、したくもないしね。
・・・という風に、黙ってれば顔がいいって理由で兄達に寄ってくる方も寄ってくる方だけど、それでもっ!私は・・・男が怖くなってしまった・・・。
でも、まだその時はいい方だった。私が・・・私を決定的な男性恐怖症にしたのは・・・中学2年生の時に付き合った、彼氏のせいだった。
男が怖かった、けど・・・恋をしてしまった・・・。
好きだよと言ってくれた声に、照れたように笑う顔に、優しく触れる手に・・・あの人の全てに、心を奪われた。
なのに・・・なのにっ・・・あの人には既に恋人がいて、私との関係がばれると、私がしつこく告白してきたから、仕方なく付き合っていたと言った。
あの人から告白してくれて、嬉しくて、泣きそうな位嬉しくて・・・どうしようもなかったのに・・・。
それは簡単すぎるほど簡単に・・・崩れ去ってしまった。
あの日以来、私は男が怖い。
告白してくれる男の人の人為が掴めない。
真剣に告白してくれていると分かっている。
・・・でも・・・その言葉も今だけでしょ?どうせアナタも、私を置いて、どこかにいってしまうんでしょ・・・?
そんな思いが頭を離れない。
「・・・っ」
あぁ・・・ダメだ・・・。あの時の思いが、フラッシュバックしてしまう・・・。
・・・カタリと、肩が震えた。
「・・・咲?」
怖い・・・怖い怖い怖い怖い怖い・・・っ!
「咲?咲!咲!」
男が・・・怖い・・・。
「咲夜!!」
「・・・・・・え・・・?」
耳にダイレクトに響いた声に、私はワンテンポ遅れて反応した。緩慢な動きで顔を上げると、ほっとした表情の友達が目に入った。
「大丈夫?」
「え・・・?あ、うん・・・」
私は・・・また・・・。
「・・・ゴメンね?聞かれたくない事も・・・あるよね」
「うん、ゴメンね。もう聞かないから」
「と言っても、何かあったら・・・なんでも言ってね?」
「相談くらいは・・・乗れるでしょ?」
「・・・みんな・・・」
私は大きく目を瞠った。何も聞かずに包み込んでくれる友達に、涙が出そうだった。
ありがとう、ありがとう・・・そううわ言のように呟く私を抱き締め、友達は笑顔を見せてくれた。
・・・・・・・・・ん?ちょっと待てよ・・・?」
「・・・ねぇ」
「ん?」
「私の隣・・・空いてるよね?」
「うん。そうだね」
「今日、転校生来るんだよね?」
「うん。おまけにイケメン!」
「いや・・・それは死語でしょ?」
「そんな事ないって!まだまだいけるよ?!」
「あ・・・うん・・・そう・・・って違くて!という事は私の隣?!」
「「「「・・・・・・あ・・・」」」」
「いっ・・・いやぁぁああぁぁあぁあ!!!」
私の席は窓側の二列目の席で、一番後ろ。クラスの人数が合わないからと、私の左隣は居なく、右隣は女の子で、前の席も女の子。・・・まぁ、周辺に男子がいるのは無視して、こんないい席はないと思っていたのにっ・・・よりによって隣におっ・・・男が来るなんてっ!
「まぁまぁ・・・多分大丈夫だって!」
「そうそう!咲なら何とかなるって!」
「こっちからしてみたら羨ましいけど」
「そう思うなら代わってくれぇえぇえええ!!」
私がクールビューティとの代名詞を捨ててまで叫んでいるのに、何て薄情な子達なの!あ、チャイムが鳴っちゃった。それじゃーね、頑張ってね〜!・・・などとぬかしながら自分の席に戻って行ってしまった!
あぁあ!待ってっ、マイフレンド!そしてもう来やがったのかっ、クソ担任!!
っち!不貞寝してやる!!
・・・うるさいなぁ。どうやら本当に数分だけだけど眠ってしまっていたらしい。
ゆっくりと体を起こすと、教卓に先生と・・・誰?何かへらへらしている奴が立っているのが見えた。
・・・あぁ、転校生か・・・。ま、どうでもいいけど。・・・もう一眠りするか・・・。
私がそう思い、再び机に突っ伏しようとした丁度その時、
「えーっと・・・席はあそこで寝てる奴の隣、あの席でお願いね」
との声が聞こえて来た。
そしてコツコツと革靴の音・・・。次第に足音は近くなり、私の隣で止まり、椅子が引かれる音がした。
「倉本!当分教科書もないだろうから見せてやってくれな!」
「!!?」
その言葉に私は勢い良く体を起こし、大きく目を開き先生を凝視した。するとあんのクソジジイはハハハと笑いながら、仲良くな!と言い残し、教師を出て行った。
ちょっ!待てよ!私は男なんかと・・・っ!
「えーっと・・・」
「え?!」
聞こえて来た声に顔を横に向けると、転校生がこっちを見て、苦笑を浮べていた。
ドクリと、心臓が嫌に軋んだ。背中にブワッと汗が噴出し、体が小刻みに、誰にもばれてはいないだろうが、震えてきた。
怖い・・・。
「さっき自己紹介んとき、寝とったやろ?俺の名前は二ノ宮雅明・・・よろしゅうな?」
「!?」
笑顔を見せながら告げられた彼の名前に・・・私は息を呑んだ。
だって・・・だってまさか、私を男性恐怖症に追い込んだあの人と・・・同じ名前だなんて、夢にも・・・思わなかったから・・・。
「あ・・・えっと・・・」
言葉が上手く出てこない・・・こっちを見られて、一層恐縮してしまう。
恐怖で体が縮み込む。・・・・・・でも、私はこのまま、男が苦手なままでいたくない。少しでもいいから・・・克服したい。そして・・・もう一度恋をしたい。
その思いが、私を動かした。
「私は、倉本咲夜、です。えと・・・よろしくね?」
小さく、強張っていたかもしれないけど、笑顔を向けてみた。すると二ノ宮・・・君は何故か大きく目を瞠った。・・・と思ったらまた笑顔を見せて、よろしゅうなと言った。
・・・なんだろ?
少し・・・二ノ宮君の笑顔に違和感を感じる。
・・・ま〜、気のせいでしょ!
自分の中で勝手に納得させて、私は机の中から本を取り出し、読み出した。そろそろクラス中の女子に二ノ宮君の席が囲まれるんだろうな・・・と、人事に思いながら。
って言っても本当に人事だし?気にしない、気にしない。
これが、彼と私との不器用な恋の始まりでした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
誤字脱字、感想、意見等々・・・是非とも仰って下さい。
これからもよろしくお願い致します。