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斜陽のレジスタンス  作者: 藤原守理
第1章「侵略されるまでの世界」
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第4話「サラリーマンと黒い槍」

-2030年7月16日-

-福岡県福岡市博多区某所[2:00]-




『うわぁぁぁあぁ?!』ガタッ



 彼、今年で30になる伊藤(いとう)(かける)は急に目が覚め、ベッドから起き上がった。




『またあの夢か、・・・もう一回寝るか』



 そう言ってまた枕に顔を埋めた。





 数時間後、結局彼は眠りにつくことが出来ずに朝を迎えてしまった。ぼさぼさの髪を掻きながらジャージからカッターシャツ長ズボンに着替える。テレビをつけ、昨晩タイマーをして炊いておいた白米飯と湯煎した湯にわかめと味噌を入れて作った味噌汁、カップ納豆を掻き込むように食べる。食後、箱買いしてある缶コーヒー開け一気に飲み干し背広を着て支度をした。


 忘れずに髭も剃る。


 そうして伊藤はいつものリズムで9時に職場へと出勤するため博多駅へとぼとぼ歩いて行った。




 ここ最近、博多駅にかかわらず全国各地の駅周辺の裏路地は半島難民の巣窟と化していた。一歩誤って踏み入れてしまうと金目の物と身分証明書を剥ぎ取られて、その後行方不明になると市民の間でもっぱらの噂となっている。朝のニュースでもどこそこで殺人・強盗事件が多発していると流れていた。


 古来よりアジアとの交流が盛んで第一の難民受け入れ地となったここ福岡県は難民の流入で都市部を中心に治安が非常に悪化した。

 しかしながら、かつてから広域地域指定暴力団の一拠点であった福岡ゆえに県の警察官は経験豊富なベテラン揃いであり、半島難民の多く暮らす県庁所在地の福岡市では大都市にもかかわらず、犯罪件数は政令指定都市の中では平均以下に収まっている。




 そんなことはどうでもいいと考えている伊藤にとってもっぱらの問題はいつ結婚するかであった。

 彼は年収として平均的で建築系の中小企業の正社員である。昇進について本人はそんなにいって興味がなく趣味は月に3回以上は行うサバイバルゲームであった。



 「サイバイバルゲーム」とは(ゲーマー曰く)紳士が嗜む高貴なスポーツである。

 プレーヤーが各自気に入ったBB弾仕様のエアガンや装備を持ち合わせ、決められた範囲のフィールドで撃ち合いをするアウトドアなゲームである。これは日本で発展したゲームであり、海外ではペイント弾のエアガンを使用したゲームがあるが最近は「Airsoft War」として海外でも人気が出ている。

 傍から見たらいい年した大人が鉄砲持ってはしゃいでいるにしか見えないが。




 そんな特殊な趣味のせいか体力は付いたが彼女がここ10年近くできていない。親は早く孫が見たいなど過剰に迫って来るため結婚は重要な悩みであった。





『まぁいくら悩んでも相手がいないとなぁ・・・』



 結婚したいけれども奥手でもある彼は一行に彼女すらできる気配はなかった。




「しかしまぁ食えるだけましか、……ってなんだあいつら?」







 駅に向かっている伊藤や多くの人々の前方に数人の普通ではない雰囲気を持った集団が姿を見せ始めた・・・。











-同日-

-福岡県対馬市上対馬町-

-航空自衛隊・海栗島分屯基地[10:30]-





「α目標、イーグル01の指示に従い識別圏外へ280度変針、飛行中」

「了解。引き続き監視を続行せよ」

「了解。監視を続行する」





 ここ航空自衛隊海栗島分屯基地のオペレーションルームでは24時間レーダーに現れる不明機の動向を監視、領空に近づく恐れがある場合は不明機に対して通告を行い、春日の西部航空方面隊司令部に対領空侵犯措置(スクランブル発進)の要請を行う。




「α目標、レーダー外へ飛行。終わり」

「了解。終わり」




「・・・ふぅー」


 牧田(まきた)海斗(かいと)三等空曹はレーダーから目をそらし緊張を解くと思わず息がはき出した。



『ここ最近、やたらめったら連邦機が接近してきて気を休める暇がない・・・。』




 この海栗島分屯基地ではスクランブルの要請措置が今年に入ってもう400件近くになる。この数年前までは連邦機の多くはレーダーに感知されてすぐにレーダーサイトから送られる無線通告を聞いて針路を変えて領空に近づいてくることはなかったのだが、2年前あたりから通告を無視して領空に近づく機がほとんどのためスクランブルの要請が絶えなくなっている。



「牧田。交代よ」


 そう声をかけてきたのは同期WAF(女性航空自衛官)の久佐木(くさき)神奈(かんな)三曹だ。




「もうそんな時間か。そんじゃちょっくら休ませてもらうよ」




 牧田はそう言って椅子から立ち上がり久佐木の横を通りすぎた。久佐木は牧田の座っていたクッションの凹んだ椅子に目をつける。



「りょーかい。・・・あぁそれとちょっと気になったんだけど」

「なんだ」




「また太ったぁ?」



 椅子の凹みを見て久佐木は目元を細めて言った。



「うるせぇ。お前はストーカーか何かか?」




 牧田は一見パッと見ると普通の体格をした男性ではあったが体重は80kg、体脂肪率は30%、規定より数値が超えている、定期検査ではしょっちゅう医官に小言を言われることが同僚の間で話のネタになっていた。「運動不足の自衛官」と。

 実際には全く違うのだが・・・。




「まぁまた記録更新してたら教えてね。ネタにすっから」

「死んでも嫌じゃい!それより仕事しやがれ!」





 そう言い放った牧田はオペレーションルーム、そこに繋がる通路を通って屋外へ出て新鮮な空気を吸った。

 外は朝日が大方昇りきって初夏の暑さを催している。牧田は海がよく見える縁へ身を乗り出した。すると、ポケットからライターと「echo」1本を取り口にくわえ火をつけた。


 美味しそうに煙を吸い込みやがて吐き出す。喫煙が市民権を失ってから久しいが愛煙家である彼にとっていつでも好きな時に吸えないのは辛く感じていた。




「それにしてもいつ見ても心落ち着くな・・・」



 海栗島分屯基地は島丸ごと基地になっており、周りは母なる日本海に取り囲まれている。そのため海好きな牧田にとってはここはオアシスだった。他の隊員からしたら娯楽が限られるためただの監獄島に感じるらしいが・・・。




『それにしてもいい景色・・・』

「ん?」



 彼は空に一点黒い粒を視界に捉えた。






『鳥か・・・?』




 そう思ったのだが、




……………ゥゥゥゥブゥーーーン



『・・・これは?!』


 すると、微かに聞こえる風を切る独特な音を耳にした。









 頭で目標を認識する暇もなく、その直後、亜音速で長細い黒い物体が頭上を通り抜けレーダーサイトに直撃していた。

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