第2話「半島の電撃戦」
-2024年8月7日-
-大韓民国京畿道烏山市-
-韓国空軍北部戦闘司令部-
「スラムが撃墜された…?」
「そんな…馬鹿な?」
レーダー上のスラム01、02を示す表記が[LOST]に変わったのを見た北司令部で作戦指揮をする司令官、安空軍少将と部下の中佐がつぶやいた。
スラム02の韓少佐が最後の通信で「敵はレー」と残している。
「もしや?!」
安少将は韓少佐が伝えようとしていた通信の意味が解った。わかったと同時にマイクのスイッチを入れる。
「安少将より全空軍基地へ。待機している戦闘機は全て上空へ上がり黄海上より侵入してくる敵機を迎撃せよ!」
安はなるべく冷静を心がけながらも切羽詰まった声で指令を発した。
「安少将!如何なされました?!一体何があったというのです?」
「中佐、大統領及び国防省、国防大臣に珍島犬1号(最高非常警戒態勢。軍、警察、予備軍が最優先で指定された地域に出動する)の発動要請を!敵が来るぞ!」
「了解!すぐに繋ぎ」
司令部付きの中佐が青瓦台(韓国の大統領府)への通信をつなげようとしたとき職員の1人が異様な声を上げた。
「し、司令!緊急事態です!」
声の主である通信員が慌てた様子で報告する。
「一体どうしたのだ?!」
顔に冷や汗が浮かぶ通信員の様子を見て少将は嫌な予感がした。
「ソウルが・・・!ソウルが!」
少将の予感が的中した。
-同日-
-大韓民国光州広域市-
-光州空港空軍基地-
「ここ最近良く晴れてんなぁー」
作業の休憩時間を日光浴して過ごす玄元士(自衛隊では士長にあたる)はリラックスしていた。
彼は高校卒業後、空軍に志願してから2年になるが機体の整備士としての腕は優れていて仕事ぶりは品行方正で上官からの信頼が厚い。そんな彼だが休憩の時は決まって空港脇の野原でよく寝そべっている。
今日も変わらず彼は寝そべっていた。
「こうも変わらない毎日だけど何か面白いことでも起きないかなー」
と、つぶやた。すると、
ヒューーーーーーーーー
「ん?なんだこの音?」
彼はふと起き上がって音のする方を見ると、目の前が光り輝いたと思ったと同時に意識が吹き飛んだ。
-同日-
-大韓民国領海-
-大韓民国海軍第53戦隊旗艦「独島」-
「レーダーに感!右40度!目標数100・・・100です!」
艦内中央指揮所(CIC)レーダー操作員が砲雷長に伝達する。
「100だと………?!」
「はい!………目標対艦ミサイル発射!まっすぐ突っ込んでくる!」
レーダー員が狼狽する。
「慌てるな!こっちは艦隊を組んでいるんだ。そう安安やられてたまるか!」
「右対空戦闘!RAM(近接防空ミサイル)とゴールキーパー(30mm機関砲)レーダー管制!チャフ発射!」
砲雷長が命令を下す。
「僚艦。ミサイル群に向けてSM2を発射。目標群へ飛翔中」
「RAM、ゴールキーパー全ての対空兵装準備完了」
『これでひとまずは…持つか』
砲雷長が射撃員の報告を受けひとまずそう思った。
-旗艦「独島」艦橋-
「艦長、駆逐艦『栗谷李珥』から応答がありません!」
通信員が艦長に報告する。
「なに?連絡を入れ続けろ!」
「了解であります!・・・『栗谷李珥』!こちら『独島』!応答せよ!・・・」
『しかし一体どうしたんだ?なぜミサイルを撃たない・・・?』
周囲の艦艇が対艦ミサイルを撃ち落とすため防空ミサイルを放つ中「栗谷李珥」は一発も発射していなかったのだ。
『連絡すらつかんとはな・・・』
艦長がそう考えていたそのとき、「栗谷李珥」の方を見ていた対空見張り員が
「艦長!『栗谷李珥』の主砲が・・・」
「?どうしたんだ・・・いった」
艦長は見張り員が指差す方向を見ると動きが止まった。「栗谷李珥」の主砲Mk 45 5インチ(127mm)砲がこの「独島」に向いていた。
『なにが起きている…?』
絶句しているとその主砲から発射炎と砲弾が視界に大きくなるようにまっすぐこっちに向かってきたのだった・・・。
-同日-
-中華連邦北朝鮮自治区・大韓民国国境-
「全砲門斉射ぁー!」
中華連邦軍前線指揮官の射撃命令と同時に各陣地に擬装されていた
05式155mm自走榴弾砲、
衛士2 400mm6連装自走ロケット砲、
89式122ミリ自走多連装ロケット・システム、
96式300mm10連装自走ロケット砲、
170mm自走カノン砲
の計1000門の火砲が一斉に火を噴いた。
砲兵により一斉発射された各種砲弾ロケット弾はそれぞれに割り振られた戦略目標地点に向かって飛翔していく。
榴弾砲の一斉射と同時に、
「地上部隊全速前進!」
中華連邦陸軍の最新式戦車である155mm戦車砲搭載無人砲塔の19式戦車、40mm機関砲装備の17式歩兵戦闘車A型を筆頭に99式戦車、97式歩兵戦闘車、92式装輪装甲車で構成された機甲部隊計1500両と兵力100万を超える歩兵部隊一斉にが大韓民国領内になだれ込んでいった・・・。
8月7日突如連邦による韓国領内への侵攻が開始された。開戦の合図ともなった榴弾砲やミサイルの弾の雨は韓国の主要都市や軍事基地に着弾、市民や軍人を無差別に殺傷し第一波の攻撃だけでも数十万の市民が犠牲となる大惨事になっていた。
不意を突かれた韓国軍は反撃を行おうとするも領空に侵入してきた大量の連邦軍ステルス新型戦闘爆撃機「殲(J)-31」の波状攻撃で離陸準備で駐機していた戦闘機を地上で撃破され一瞬にして航空優勢を奪われた。空からの支援を受けられなくなった韓国陸軍は敗退の一途を辿っていた。
-2024年8月21日[17:00]-
-大韓民国慶尚南道昌寧郡-
「釜山に敵を近づけるな!弾幕を絶やすんじゃない!」
夕暮れに照らされる古墳群を尻目に激しい戦闘が行われる。
韓国南部最大の都市であり最後の砦である、釜山では避難民や敗残部隊の国外脱出作戦が行なわれていた。
港から数十kmの地点に築かれたこの防御陣地ではK30対空自走砲の30mm機関砲が低空で侵入してくる攻撃機に対空砲火を浴びせていた。30mm機関砲がブラストを噴いて炸裂弾を撃ち出すさまは壮観であった。対空砲火で連邦軍の攻撃機を迎撃している100m前方では韓国陸軍第5機甲旅団のK2戦車とK1A1戦車の数十輌が迫り来る連邦軍戦車隊と交戦している。
「やった!1輌やったぞ!」
K1A1戦車の120mm滑空砲から放たれたAPFSDS対戦車徹甲弾が敵96式戦車の装甲貫いて撃破した。火薬の臭い立ち込める車内で、装填手が閉鎖機を開けて撃ち終わった薬莢を排出し先の尖ったAPFSDSを砲室に詰め込む。
「次弾装填完了!」
『こちら2号車、弾が不足してきた。一時後退するため支援求む』
「了解。支援する」
直後に無線が入り味方の戦車が後進し始めたため接近してくる敵戦車に砲撃を浴びせ砲塔を吹き飛ばし撃破した。
「目標撃破」
「9時の方向!突破されるぞ!」
「り、了解!」
ホッとしたのも束の間、車長の怒声が飛び砲手は急いで指示された戦車に照準を向けた。
「?(何だ?あの戦車は?)」
その戦車には105mmや120mmより大きい口径に長い砲身、砲塔は96式や99式に比べて小さく、全体の角ばった見たことのないフォルムをしている。
おそらく連邦の新型戦車だろう。幸い、その戦車は装甲の薄いとされる側面を向けて進んでおり砲手はためらいもなくサイドスカートに照準を定めてトリガーを引いた。砲撃の反動で閉鎖機が後ろに後退し砲弾が砲身から飛翔していく。
「!命中!敵戦車沈黙!」
砲弾は狙った通り命中し戦車から白煙と炎が上がり、砲手は撃破したと確信した。
「!……いや?」
しかし、喜びもつかの間だった。
撃破したと思っていた戦車の主砲がこっちに向いているのが見えたのだ。次の瞬間には逆にこちらのK1A1戦車の装甲が貫かれ車内の乗員の命をむしり取っていった。
煙がすべて晴れてみると敵新型戦車のサイドスカートには少し穴が空いた程度でほとんど傷はなく問題なく動き出している。
『4号車がやられた!敵の新型戦車が多数出現!K2を前に出せ!』
『ダメだ!目の前の目標で精一杯だ!』
『対空砲がやられた!対空ミサイルも残弾わずか!全車各自で対空射撃!』
『!上空より敵機!』
防御陣地に突如、爆弾の雨が降り注ぎ韓国軍陣地を吹き飛ばしていった。
その後、新型の155mm砲搭載17式戦車を前に韓国軍の主力戦車は歯が立たなかった。その上、連邦軍の攻撃機や戦略爆撃機の絨毯爆撃で各個撃破されていく。
一方、洋上で作戦行動をしていた韓国海軍の象徴でもあったイージス艦2隻が艦内に侵入した連邦軍特殊部隊によって拿捕、他の艦艇は対艦ミサイルの飽和攻撃や拿捕したイージス艦からの近距離砲撃で撃沈もしくは大破した。
最後の砦であった釜山も陥落し大韓民国政府は全面降伏。数ヶ月足らずで連邦の占領下に入った。
かろうじて生き残った官僚や国民は海軍艦艇や民間船に避難民を乗せ日本やアメリカといった国々に亡命していった。