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斜陽のレジスタンス  作者: 藤原守理
第2章「占領下の日本」
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第5話「潜入と潜水」

お疲れ様です。東アジアに戻ります。続きをどうぞ!

-2031年5月30日-

-中華連邦極東自治区第4極東経済特区(中国名)大阪(ダーバン)-




 日本占領後の大阪。

 日本に取って代わり中華連邦が支配するこの街は変貌していた。


 連邦の強引な中華連邦人優遇の経済政策が生み出した日本人失業者の群れと地方での戦闘激化で逃れてきた難民の流入による貧困街(スラム)が増加していた。そこを温床とした凶悪犯罪の激増と、分けて、日本侵攻時の混乱に乗じて庶民から強奪した物資の金で武装化した朝鮮人暴力団が幅を効かせている。

 街の表は華やかに彩られてほとんどの日本人が排除され連邦人が優雅に食事をとり、裏では「旧」日本人がヘコヘコと支配者の顔色をうかがいながら生きる、そんな二極化した街になっていた。裏通りでは薬物(ドラッグ)や銃が普通に売買され暴力団同士の抗争で銃声が鳴り止まない。外の人間が裏通りに一歩足を踏み入れれば生きては出てこられない。

 まさに日本にとって世紀末を現実化したような光景であっただろう。





 日本を占領した連邦は日本のすべての治安組織を解体してしまったため、進駐した各方面の軍が占領任務に治安維持を担うことになった。しかし、大都市の治安維持に連邦兵だけでは圧倒的に数が足りないと判断される。

 そこで大阪(ダーバン)では中華連邦第4極東経済特区政府(通称”第4極東”)の指揮下の元、幹部を連邦人、人員を旧日本人とした「第4極東武装公安隊(第4公安)」を発足させた。

















-同日-

-第4極東経済特区大阪北部管区中之島(旧大阪市北区中之島)-

-中華連邦陸軍第3軍区総司令部第1ゲート(旧大阪市中央公会堂)[13:00]-







 ここ連邦陸軍第3軍区総司令部では大阪を占領して7ヶ月になるが占領業務と肥大化した朝鮮人暴力団との交戦ですべての兵員は休みなく働いていた。




「証明書を」

「はい」


「……よし、そこのゲートを通れ。次」




 司令部の出入り口では警備の兵士と危険物探知ゲートで入館者のチェックを行っている。



「証明書を」

「はい」


 髭面中年太りの兵士は証明書を見て男の姿を眺めた。



「お前、日本人か」


 兵士は日本語で問いかける。



「はい」

「…で、どれどれ…ほう。新入りの掃除屋か」

「ええ」

「きっちり働けよ。前のやつは仕事をサボってなぁ」

「はぁ、はい!」

「そいつはなぁ、他の掃除屋の前で撃ち殺してやった」

「えっ」

「見せしめだったが奴らの恐怖した顔は絶頂だったな。以前お前のとこの同業者の妻を軍特権で見つけて目の前で犯してやった並に最高だったぜ」

「…………」



 単純な作業の門番に飽きていたのか、兵士は掃除屋の男をなじるように話をした。掃除屋の反応が面白いようで兵士はさらに挑発するかのように話を続ける。



「日本人ってのな、弱々しいもんだ。人権人権って叫んで全く使えない。労働意欲は薄いわ、そのくせ権利ばっか求めやがる。おかげで高度な仕事は俺らが。下賎な仕事はお前らがお似合いになったしな」


 

 兵士は掃除屋の頭を人差し指で差し顔を舐めまわすように見ながらゲラゲラと笑っていた。対して掃除屋は黙っている。





「…おい、(ファン)!後ろがつっかえるから早く通せ!」

「ちっ、わかったよ。ほら行けよ」




 掃除屋はそうしてゲートを通り抜けて中に入った。














 大阪市中央公会堂は1918年(大正7年)11月に、辰野金吾・片岡安らの設計で当時流行した西洋風建築として建てられた。建物は鉄骨煉瓦造(てっこつれんがづくり)地上3階・地下1階建て。意匠はネオ・ルネッサンス様式を基調としつつ、バロック的な壮大さを持ち、細部にはセセッションを取り入れており、アーチ状の屋根と、松岡壽によって天地開闢(てんちかいびゃく)が描かれた特別室の天井画・壁画が特徴となっている。

 各種の講演、会合などが催され、大阪市民に親しまれてきた。 ロシア歌劇団の公演、アルベルト・アインシュタインを始め、ヘレン・ケラーやガガーリンなどの歴史的人物の講演も行われた。



 現在は連邦陸軍が接収し第3軍区総司令部となっており、連邦軍人がいたるところで立ち話をしていた。




 掃除屋はその中を淡々と歩き掃除夫の集う待機室にまっすぐ入っていった。






 掃除夫待機室はかつての第1控室に物を少し置いただけの内装で変わったものはなかった。そこには2人の若い掃除夫がベンチに座っていた。




「少し遅れましたね」


 座る男の1人が小声で言う。



「ここにはあるか」

「いえ、ここにはカメラはありません。外は?」

「近くに連邦兵はいない。総司令部にしては警備がザルだな」


 新入りの掃除屋がそう言って荷物を下ろす。




「…そうか……それじゃ改めて初めましてだな」




 2人の男は一斉に立ち上がる。




「…俺は小鳥遊(たかなし)蒼太(そうた)、二等陸尉だ」



 新入りの掃除屋は名を名乗った。





「ようこそ、准陸尉の福村(ふくむら)(はじめ)です。こっちは…」

「三等陸曹の木嶋(きじま)一平(いっぺい)です」



 茶髪のロン毛で背が小さく、眼鏡を掛けた色白が福村。それと対称に丸刈りで真っ黒に日焼けした巨漢が木嶋。その2人も名を名乗った。

 掃除夫として雇われたこの男たちは日本義勇軍の隊員だった。






「遅れてすまない。入口の体臭臭い兵士にちょっかいかけられてな」


 小鳥遊は右手で臭いを払う動作をして呟く。





「あのデブですか?ご愁傷様です」



 臭いでしょうあいつ、と福村が付け足す。




「あぁ臭かった。………最近、掃除夫が殺されたそうだが…」

「幸い我々の仲間ではありません。しかし、元気で明るい少年でした…」





 2人は顔の表情をすこし歪ませた。




「…悪い。ここでするような話じゃなかったな。それより作戦状況はどうだ?大まかの情報は途中の機内で読んだが」








 小鳥遊が話を変えると、福村の後ろに控えた木嶋がポケットから小紙を取り出し福村に渡し、それを大きく広げ近くの床に置いた。




「…これは司令部用地と内部の見取り図です。今いるこの部屋の隣のトイレに我々の装備を隠してあります」


 福村が指差す箇所を小鳥遊が見ていく。



「…ご覧になられましたか?それじゃ詳しく話していきます。第1の工作として、我々掃除夫の施設完全退去が2000までとなっているので、その時間の20分前に我々が施設を出たというようにここの警備システムにダミーウィルスを仕込みました。警備の兵士も休憩でその時間帯はいないので作戦進行に影響はありません」


「…あとは装備を身につけたあと深夜の警備が薄くなる時間帯に忍び込み、書物庫で目標のブツを奪取、川に通じる地下水路を通ります。この赤いマーカーで示されたこれらの箇所に(あらかじ)めC4を仕掛けておきました。それを脱出途中に起爆、敵の混乱に乗じて脱出する作戦です」





 福村准陸尉が順を追って説明していく。




「…それなら予定通り、決行は今夜でいいな?」

「はい。明日に連邦軍の会議が大阪の中心部で開かれるようで夕方には高級幹部はここを離れます、それに合わせてここの警備の人員も少なくなるので今夜がいいかと」

「幹部どもがブツを持ち出す可能性は?」

「ここに忍び込んで4ヶ月ですがそうした可能性は低いと思います。私は書物庫での掃除担当で隙を見てデータベースを確認していますが、書物庫から移動された形跡は今までに全くありません」



「ん?だが、そんな風にデータベースを観ていたら閲覧履歴が残るんじゃないのか?」


 説明を聞いて小鳥遊は疑問思う点があった。木嶋がその疑問に答える。




「いえ、それなら問題ありません。書物庫管理の兵士は我々の賛同者です。彼は連邦軍のやり方に愛想が尽きたらしく、我々はその兵士の監視を数週間続け、彼が本当に連邦から離反したいか確信が持てたあと、街で密会して説得成功、今夜行動をともにロックの解除をしてくれるとのことです」



 事前に福村たちが敵兵士を買収していたようだ。



「そいつは信頼できるのか?」

「大丈夫です。大陸の諜報部に彼の個人情報を調べさせたところ母親が日本人で今回彼が話した生い立ちや思想が一致しているのと」



 木嶋が答え、続きを福村が答える。 



「私は戦前、京大大学院で心理学助教授を務めていました。その経験で彼の心理状態を診たところ、彼の真意は本当のようです。私が保証しましょう」

「助教授…?君のプロフィールを観たが本当だったのか」



 福村は20代前半の大学生に見える外見だが実年齢は45だという。



「…うん。まぁいい。決行は予定では翌日0100で変更はないな」

「はい」


「よし、それでは”掃除夫”の仕事をこなしていこうじゃないか…」




 3人は夜の決行に備えることになった。









-2031年5月30日-

-小笠原諸島父島洋上空港[13:40]-




 2025年に小笠原村に念願の空港が誕生した。造成に使われた新技術を活用する新型メガフロートは環境に与える悪影響は少なくなおかつ公害物質を自浄する効果を持つ優れたものであり、地元民の賛成多数で建築案が承認され3000m級の2本の滑走路を持つ官民共用空港が誕生した。この空港は民間の商業施設や民間機自衛隊機の修繕も行える航空整備基地としての運用も出来るように2027年より追加整備された。




 しかしこの空港には今、民間人はいない。

 その代わり駐機場に見えるのは…


日本義勇軍所属のf15MJ(7機)F2A(3機)KC767(1機)、

インドネシア空軍のSu30(2機)F16B(3機)、

オーストラリア空軍のF/A-18Eスーパーホーネット(4機)、早期警戒管制機E-7Aウェッジテイル(1機)

の計21機の航空機の姿があった。


 一方沖合には

日本義勇軍護衛艦「ふゆづき」「ひゅうが」、

オーストラリア海軍フリゲート「パース」、

シンガポール海軍フリゲート「ストルワート」、

サウジアラビア海軍フリゲート「メッカ」「アル・ダンマン」、

大韓民国海軍戦車揚陸艦「天王峰(チョンワンボン)」、

大型中型貨物船5隻

の計12隻の艦隊が停泊していた。









「……『連合国軍』ねぇ。こうして観ると壮大だな…」



 滑走路の端の岸辺から海を眺める男が1人そう呟いた。






 そこへ男の頭上を掠めてF15MJ2機が離陸コースに進入、男は風圧で吹き飛ばされる。





「ぶっへ?!」


 背から思いっきり押されたため海に落とされた。



「あばばば…おぇおぅえ」


 海水を飲み、溺れる男。そこへ!



「あんたなにやってんの!」



 男に浮き輪が投げられ咄嗟にしがみついた。



「麻里か!助かった!」

「助かったじゃない!恭介!立ち入り禁止んとこでなにやってんの!ほんとにもう」




 男の方は津田(つだ)恭介(きょうすけ)。彼女は川本(かわもと)麻里(まり)。この2人、幼馴染である。

 2人は石川県に生まれ中学まで一緒だったが高校はお互い別々に進学する。付き合いも無くなりこれからも別々になって会わなくなるかと思われたが、それぞれ理由あって高校卒業すぐに陸上自衛隊に入隊すると教育隊で再会し2人共驚き、再会が嬉しく笑いあった。今まで第14普通科連隊で勤めていたが日本侵攻当時、2人は別々で海外へ旅行に出ていたのだった。召集がかかったが日本は早々に敗戦、日本義勇軍に参加。小笠原の部隊に編入されたところ2人は偶然また再会して今に至る。




「…海がキレイだった」

「へ?」

「だーかーらーうみがー」ガンッ



 川本の投げた小石が海に浮かぶ津田の額にクリーンヒットする。



「と・に・か・く!早く来なさい!もうすぐ会議が始まるわよ!」






 そう言って彼女は走り去っていく。海に沈みゆく津田を置いて…。


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