第2話「キリングフィールド」
お疲れ様です。続きをどうぞ。
-2031年5月14日-
-中華連邦極東自治区第2経済特区長野ブロック-
-木曽山脈山中[4:20]-
「…敵支配地域に侵入、各車警戒を厳にしろ」
「了解」
「次いで各車、先頭車両にしっかりついて行けここあたりは霧が多い。気を抜いたら最期だ」
霧の満ちた旧長野県内県道406号線(大笹街道)を装甲車の隊列が進んでいく。
先頭を進むのは25mm機関砲装備の92式装輪装甲車1両。次いで12.7mm機関銃装備の92A式装輪装甲車3両である。この4両からなる中華連邦軍装甲車部隊がいろは坂のようにカーブを帯びた急勾配の坂を登っていく。
先頭に続く2両目の車両にはこの部隊の指揮官が乗車していた。
「…趙上尉(大尉)、まもなく左前方に梯子山が見えます」
運転手の若い兵士が指揮官である趙に目標を報告する。
霧が濃くて見えないが事前に報告のあった近くの特徴的な地形から部隊の大まかな現在位置が推測された。
「目的地まで近いな…。このエリアは敵の待ち伏せが予想されている。注意して進め」
「はっ!」
運転手は明瞭な声量で趙に返事を返し運転に集中する。
「…趙上尉、作戦司令部の郭中校(中佐)から状況報告が求められています」
「わかった。代われ」
この部隊を指揮する趙浩然上尉は通信上士(通信上等兵)からインカムを受け取り司令部の郭公文中校に繋ぐ。
「郭中校。こちら黒虎部隊隊長、趙です。」
「おぉ趙上尉。現況はどうなっている」
「敵の姿は未だ見えません。現地協力者からの情報によるとこの先の高原に拠点があるとのことですが。次の地点に着き次第追って連絡します」
「そうか。引き続き慎重に進みたまえ」
「了解。終わり」
そう言って通信を切る。部隊は順調に霧の濃い山の奥へと進んでいく。部隊が進むこの道路は比較的形状を保っているが手入れがなされていないためひび割れが酷い。装甲車が進むたびアスファルトの軋む音が鳴る。
『今のところ問題ないか』
キッ
いきなり2号車の30m先を進む先頭車両が止まった。後ろの車両もブレーキをかけて止まる。
「っ!1号車!どうしたっ?」
趙が1号車に回線を繋ぎ問いかける。
「がれきが道をふさいでますのでどかします!」
どうやら前方にがれきがあるらしい。
「やめるんだ。気にせずに進め。1号車いいな?」
「………」
「1号車、1号車いいな?聞こえるか?」
「………」
趙大尉の呼びかけに1号車からの返信は無かった。
「…上士(上等兵)、全車に連絡しろ。随伴歩兵は降車して戦闘準備、乗員は車内から外周警戒。3号車の歩兵は1号車の様子を見て来い」
「了解。趙大尉より、全車…」
返信がないことを不審に思い部下たちに警戒を呼びかける。
趙自身もレッドサイト装着の03式5.8mm自動歩槍を持って外に繰り出す。外の気温は9度と冷え兵士たちの口からは息が白く着色して出ている。冬季戦闘服でどうにか寒さは防げているが突き通る冷気にブルっと震えてしまう。
周囲は全くの無音の上に濃霧のせいで20m先すら見通せない。視程は最悪だ。
そんな中、3人の兵士が通信の途絶えた先頭の1号車に近づく。
「ん?…おい!大丈夫か!?」
1号車の周囲に連邦兵6人の死体が転がっていた。兵士が近寄って身体を診てみるとどれも眉間などの急所を撃ち抜かれている。
「これは?」サンッ
1号車に近寄った3人の兵士は声を出すこともなく一斉に意識が飛んで膝をつき倒れた。
「…3人偵察に出したが帰ってきませんね…」
「どうしたんだ…敵か?」
趙大尉と部下の上士は周囲を警戒しながら会話する。
「それに他の兵士が妙に減っているような…?」
「どうもおかしい。私は一回司令部に連絡を入れるから車内に戻る」
「わかりました。お気を付け」サンッ
突然、趙の話す目の前で上士の頭が弾け脳髄が飛び散る。
趙は部下の頭が弾けたのを前に何が起きたのか全く理解できなかった。次の瞬間には趙は頭に感じた一瞬の痛みとともに視界は真っ暗になった。
「…よし。これで車外のやつはこれで全員だ」
ここは装甲車部隊から数百m離れた場所。双眼鏡を覗く男は木陰に伏せて連邦の車両群と頭を吹き飛ばされる指揮官風の男が地面に倒れたのを観て呟いた。その男の数m横では茶髪にショートヘアの少女が匍匐姿勢になって伏せていた。少女の外見は細い腕にスラっとした肢体、年齢は10代前半見える。一見普通の中学生に見えるのだが、普通の中学生と違うのは彼女がM24対人狙撃銃のスコープを覗く姿と周りに転がる空薬莢の光景である。
「…………」
「…よくやった。任務は終わりだよ」
少女に寄り添って男は少女の頭を優しく撫でた。
「さぁ家に戻ろう…」
少女は男の言葉にコクンと頷き男の後に続いてM24を背中にしょってその場を離れた。




