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斜陽のレジスタンス  作者: 藤原守理
第1章「侵略されるまでの世界」
12/26

最終話「大分撤退戦・後編」

-2030年8月30日-

-大分県大分市-

-昭和通り・大分城址公園[16:00]-



「やっと撤退か…でも」

「あぁ今は敵が逃げてるぞ。援軍も来たし攻めどきじゃないか?」




 佐川と伊藤はこのタイミングでの撤退に疑問を示す。



「はい。そうですが後方の撤退終わった今、我々に時間はありません」



 久瀬は茶封筒から一枚の航空写真を取り出してテーブルに広げる。



「これは?」

「これは2時間前、RF15が奇跡的に撮影した対馬空港の航空写真です」

「『奇跡的に』?」

「こちらの偵察衛星は侵攻当初に破壊されました。対馬島の状況を把握するため一時的に航空優勢をこちらが奪還した隙に、RF154機が高高度から直接偵察しました。対馬上空に差し掛かったところ先遣攻撃隊が潰し損ねた敵対空ミサイルによって全機撃墜、そのうちの1機が撃墜の寸前この画像を送ってきました」




 説明した久瀬は乾ききった唇に唾液を絡めた。



「この写真の通り、空港の駐機場に敵戦闘爆撃機が複数写っており、どれも爆装が完了されています。現在、空自が大分市上空の防衛が出来るのは敵の数を他にいることも考え精々1時間」

「1時間…」

「これを過ぎれば我々は丸裸です」



 

 佐川伊藤橘の3人は状況を理解した。地上の見かけは敵が敗走しているように見えるが1時間もすればこちらが逆に空から爆弾の雨で焼かれることになる。



「…なら、どうする?」

「目の前の敵は我々を市内に引き止めるための囮です。なのでこちらがこない限り何もしてきません。よって至極簡単、全員この場から走って逃げます」



 この一言のあと、全部隊は港の船に向けて全速力で撤退を始めた。









-2030年8月30日-

-大分県大分市-

-大分川・弁天大橋[16:20]-




「はぁ?!マジかよ!」

「橋が…」



 大分川に達したところ、弁天大橋が落とされていた。自衛隊の戦車隊普通科部隊、義勇兵部隊は浮き足戸惑う。



「他の橋も落とされてる!」

「おい、どうす」



 何か言いかけた男の身体を瞬時に数発の銃弾が貫いていった。



「?!敵だ!身を隠せ!」

「戦車までいるぞ」



 隊員たちが遮蔽物に身を隠すと川岸から戦車1輌と数多の歩兵が姿を見せる。銃撃戦が始まった。



「時間がないってのに」

「戸惑うな!さっさと潰して逃げるぞ!」

「戦車、前へ!隊員は戦車後方左右に分散して進め!」



 佐川、久瀬の指揮に隊員たちは対応し前進し始める。









 90式戦車内部では敵19式戦車を照準していた。


「装填まだか?!」

「装填完了!」

「撃て!」

 掛け声と同時に大きな砲撃音と衝撃が車内に走る。

砲弾はほんの1秒ほどの飛翔で目標の正面に命中するも弾かれた。



「敵戦車、健在!硬すぎる!」

「っ!装填」カッ




 90式の砲塔下部に敵戦車の砲弾が貫通、爆散した。爆発した戦車の破片が飛び散り周囲の隊員を殺傷する。




「3号車やられた!」

「どうすれば…」


 3輌の戦車からの砲撃に連邦の戦車はびくともしなかった。久瀬は目の前に陣取るまるで無敵な敵戦車をどうするか考える。何か方法はないか。

 ふと辺りを見回すと近くに高いマンションが見えた。



「そうだ!羽柴二尉!ここを任せてもいいか?」

「どうしました?!」



 89式小銃を撃つ羽柴(はしば)市子(いちこ)二尉が振り向く。



「あれが見えるか?あの高いマンションから対戦車ミサイルを敵戦車に放つ。戦車は上からの攻撃に弱い。俺が分隊を率いて向かう。君がこの部隊を指揮しろ!困ったら別部隊の隊長と協力しろ」

「…わかりました。お任せ下さい!敵を惹きつけます」



 羽柴がビシッと敬礼をする。




「頼んだぞ。優秀な部下を持てて俺は恵まれている。後は…」



 任せた、と言って久瀬は羽柴の肩を右手でポンッと軽く叩いて歩き出した。普段の彼の硬い表情と打って変わって今の表情は微かに笑みをこぼし哀愁を漂わせているように見える。






「待ってください」


 羽柴が急に歩き出した久瀬の腕を掴む。彼女は久瀬の身を引き寄せ瞳を見つめた。



「…ですが…隊長。まるで死ににいくみたいなこと言わないで下さい…。私はあなたがいないと…その…困ってしまいます…」



 羽柴はまっすぐ久瀬の瞳を見つめている。羽柴は表情の微かな変化から久瀬の諦めに似た感情を感じ取っていた。


 対する久瀬は羽柴の顔を見て驚く。羽柴の瞳から涙が流れたからだ。今までの長い付き合いでもこのような姿は見たことがなかった。




「絶対に帰ってきてください。絶対に」


 そう言って久瀬の腕から手を離した羽柴はサッと後ろに向き返り走り去っていった。








「………そうだな」


 久瀬は掴まれてた腕の箇所をさすった。











 そのあと、久瀬は戦い慣れている佐川と伊藤、佐川にどうしてもついていくとすがった橘の3人を指名して計4人で110mm個人携帯対戦車弾(パンツァーファウスト3)を背負ってマンションに向かっていく。










「撃って走れ!時間がない!」

「無茶言わんでぇ!これめっちゃ重いんやで?!」



 64式小銃で立ちはだかる敵兵へ腰だめにして撃つ佐川とMP5で後ろから追撃してくる敵を撃ち倒す橘、久瀬と伊藤がそれぞれパンツァーファウスト3を1門ずつ背負って非常階段を駆け上がっていく。








「死ね小日本人(シャオリーベン)!」


 階段の角からナイフをもった連邦兵が先頭の佐川に襲いかかった。



「っ!」



 佐川は64式小銃を盾に剣撃をかわしカウンターに1発殴り入れる。そして拳を受けて怯んだ相手の胸もとを掴んだ。



「落っちね!」



 佐川は勢いに任せ連邦兵を階段から外に投げる。断末魔を挙げた連邦兵が地上に落ちてドスっと鈍い音がした。



「無事か?」

「問題ない」



 息をやや切らす伊藤と平気な久瀬が遅れて上がってきた。



「…ハァハァ、ここなら撃てそうだ」



 伊藤が背負っていた重量13.9kgもあるパンツァーファウスト3を下ろした。



「ったく…こんな重いもん担いで走ってたのは拷問だったぜ…」

「まぁそう言わずに」


 伊藤は嫌味を吐きつつも久瀬の指示に従ってパンツァーファウスト3の点検をする。点検を終えた「重いもの」を再び肩に乗せスコープを覗く。


「伊藤さん、さっき説明していた通りの手順で戦車を照準してください」

「わかった」

「…よく狙って…」




 久瀬と伊藤がパンツァーファウストを構え敵戦車に狙いを定めて……










「撃て!!!!!」




 トリガーを引き弾頭を発射した。















ダンッ!



 弾頭は狙った通り正確に飛翔して敵戦車の砲塔上部を見事吹き飛ばした。その光景に3人は歓声を上げる。





「おぉやったぞ!!!」

「やりましたね!!!」

「やったぞ、久瀬さん……って久瀬さん…?」





「…ウプッ………?」



 久瀬は自分の身体をさすると手には血がべっとりと付着していた。







「ざまぁ…み…やが…れ」



 発射体制になっていた久瀬は撃たれた。階段下から死にかけていた連邦兵はトリガーを引いた拳銃を手にもって笑っている。






「クソッ!」



 佐川は笑っている敵に小銃で止めを刺すと久瀬に駆け寄り状態を診て止血をする。



「大丈夫か!久瀬さん!」

「貫通銃創だ!しっかりしろ!」

「久瀬さん!しっかり?!」



 3人の声を聴きながら久瀬の意識は次第に薄れていった…。









 障害になっていた敵部隊は戦車を失い全滅した。自衛隊と義勇兵たちは速やかに自分たちの戦車などを破壊放棄して小舟に乗って対岸へと渡った。こうして最後の全部隊は撤退に成功し船で海上へ脱出していく。


 最後の船が陸から500m離れたところで北西から連邦の爆撃機の大編隊が次々と爆弾を投下し、大分市全域が炎上してくのが見えた。


 爆炎が街を飲み込んでいく。歴史ある大分城、客引きの声で賑やかだった商店街、楽しく友達と通っていた学校、住み慣れた家々が見るも無残に破壊されていく。大分出身の市民や隊員たちは思い出の場所が破壊されていく光景に悲しみのあまり嗚咽を上げて泣いていた。


 街が、生まれ故郷が燃えている。



 無事に本州へ避難を果たした人々は連邦に復讐を誓う。故郷を奪い大切な人、仲間を殺した連邦を。




 2030年9月4日、日本政府の鳩岡首相は突如全自衛隊に戦闘を停止しろと命令、防衛省統合幕僚本部の反対派幹部や右派政党の国会議員を以前から内通していた連邦軍特殊部隊に処理を任せ暗殺。9月10日、日本は連邦に無条件降伏をしたのだった。


これで本章は終了です。

次回から第2章「占領下の日本」を描きます。

次回もお楽しみに!

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