第1話「悪夢の始まり」
お疲れ様です。これからの東アジア情勢を予想して執筆しました。ぜひお読みいただきたいです。
-2024年8月7日-
-大韓民国京畿道烏山市-
-大韓民国空軍北部戦闘司令部-
ここは大韓民国空軍の北部戦闘司令部。旧北朝鮮方面空域の監視を担当。司令部が所在する基地は旧米空軍烏山基地を前身として現在は南部の基地から移駐した戦闘航空団が駐留して北に睨みを効かしている。
司令部の一角にある防空指揮所では大韓民国の上空の民間機や軍用機といった全ての航空機の動向を監視する対空レーダーを使い監視していた。
昼の休憩も終わり多くの職員が業務に復帰した昼一番に指揮所に緊急を知らせるベルが鳴り響く。レーダーが領空に接近する複数の目標を捉えたのだ。現況を示すモニターには赤色の点で示さた接近する航空機が[UNKNOWN]と表示されている。
ここ大韓民国空軍北部戦闘司令部の全ての職員がことの異常さにあたふたと状況に対応していた。
「これは一体………?」
「司令!黄海上NWより所属不明機・機数20、東海上Eより所属不明機・機数30接近」
「不明機、通告に従いません!」
「至急、ソウル基地に連絡を」
空軍司令官はすぐさま各基地に指令を発していく。
-同日-
-大韓民国首都ソウル市-
-ソウル空軍基地のとある一室-
「………なぁ申、この前の焼肉屋どうだった?あそこの肉とキムチは最高に旨かったろ?」
「とても美味しかったです。さすがグルメの韓と呼ばれただけありますね。韓少佐の舌は素晴らしいです。今度またいい店教えてください。」
「おう!任せとけ」
ここはこじんまりとした小さな一室。とても簡素な作りでソファが4脚に長机が置いてあるだけの部屋だ。その部屋にシンとハンともう1人の男の男3人がソファに座り雑誌を広げ談笑していた。
一見見ると3人はただ座って気楽に話をして暇をしているように見える。
「申、また新しい情報が入ったら教えてやるよ。今度はいい感じのバーがあったからそこに入ってみる。」
韓が答える。
「よろしくです。バーってことはあれ?例の女性と行かれるので?」
申は怪しい微笑みを浮かべ茶化す。
「おいおい、あまり他人のプライベートは弄るもんじゃないぜ?弄って良いのはほら…」
「おい。あんまり女の話をすんな。俺は聞きたくもない。」
もう1人の男が口を出し不機嫌そうに話す。
「おっなるほど、成のことですか。まぁあんまし怒んなよ、成。前に女に逃げられてからって…」
ウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーー!
申が言いかけた瞬間、けたたましいサイレンが基地内に鳴り始めた。
「スクランブル」
サイレンを聞いた3人は一斉に立って走り部屋を飛び出した。
部屋を出たそこは巨大な格納庫の内部だった。格納庫内で一際異彩を放つ物がある。それは整備員が集う中心に駐機されたF15Kスラムイーグルである。ここには単座型と複座型の2機が並んでいた。
これらの機体の元は米国のマクドネル・ダグラス社製のF15Eストライクイーグルであり、2002年3月にF-15Kスラムイーグルとして大韓民国空軍に採用配備されて以来、空軍の主力戦闘機となっている。
そう、彼らは韓国空軍所属の戦闘機パイロットである。彼ら3人はすぐさま割り当てられた1人と2人の組に分かれた。それぞれ機体に付けられたハシゴを上り単座型と複座型のF15Kスラムイーグルのコクピットに乗り込む。
HMD(Helmet Mounted Display)システム搭載のヘルメットを被り、整備員の安全確認がとれた機体からパイロットはエンジンを掛ける。
エンジンスタートにより双発のF110-STW-129エンジンの燃焼室にジェット燃料油、圧縮機に空気が注入され排気ガスとともにジェットエンジン特有の唸るような轟音が響き渡った。
「Slam01,Slam02,Order Vector 250,Climb Angels 20, Contact Channel 1, Read back.(スラム01、02、方位250度、20,000フィートまで上昇、チャンネル1でレーダサイトとコンタクト、復唱せよ)」
防空指揮所より無線で複座型の1号機パイロットの申と成、単座型の2号機パイロットの韓に向けて指令が下る。
「Slam01 Roger. Order Vector 250,Climb Angels 20, Contact Channel 1.(スラム01了解。方位250度、20,000フィートまで上昇、チャンネル1でレーダサイトとコンタクトする)」
複座型の1号機パイロットの申が指令を復唱する。
「Slam02 Roger. Order Vector 250,Climb Angels 20, Contact Channel 1.(スラム02了解。方位250度、20,000フィートまで上昇、チャンネル1でレーダサイトとコンタクトする)」
遅れて単座型の2号機のパイロットの韓が指令を復唱した。
「スラム0102。滑走路が使用可能です」
2機は管制隊からの指示を元に誘導当直軍曹の誘導に従い滑走路へと前進する。
今日の空は見渡す限り快晴だった。見えるのは5000ftぐらいで少量の層積雲と遥か上空の微かな巻層雲程度だ。上層風がやや強いみたいだが飛行には全く問題ないだろう。問題は気温が35℃オーバーの茹だるような暑さだ。コクピット越しだが肌に当たる強烈な紫外線だけでも外の気温が感じ取れる。
格納庫前ではスクランブル機のバックアップのため、追加の機体を急いで整備する兵士の姿が見られた。最近は緊急発進と仮想敵国の脅威が増しているため、機体の兵装にはフルで機銃弾と空対空ミサイルが装着されている。
この真夏の炎天下の中で整備する兵士には重労働だ。
「Slam01.Wind calm.QNH1013.94.Target “H05”area
.non sea state. runway 02 Clear for takeoff.(スラム01。風は微風。飛行場気圧1013.94hPa。目標「ホテル第5」空域。シーステイトの心配なし。2番滑走路からの離陸を許可する)」
離陸準備中のパイロットにソウル飛行場と接敵予想空域の気象情報、飛行場内の気圧が管制士官から報告された。
パイロットはすぐさま報告された観測データを戦闘機のコンピュータに手動で入力を行う。これによって各種計器が適正化され計器使用下の飛行体制が万全になった。
続いて簡易的な機体チェックが行われる。エルロンやエンジンの加減圧が主だ。これも正常だった。
これによりパイロットは離陸の準備が全て完了したことを確認した。
「…Tower,Slam01 Just Cleared for takeoff.(管制塔、スラム01これより離陸する)」
1号機がスロットルをかけて離陸する。続いて2号機も離陸を開始した。
飛び立った2機のF-15Kはしばらくして指定高度に達すると、管制塔の指示にあった所定のレーダーサイトと交信を図る。
「Slam01,Airbone.(こちらスラム01、離陸に成功した)」
「Slam01,Loud and clear,Rader contact.Order Vector 250,Climb Angels 20(スラム0102、無線機の感度良好。レーダーで捕捉した。方位250度、20,000フィートまで上昇せよ)」
「Slam01,Roger.(スラム01、了解)」
ここで1号機は交信を終える。後に続く2号機も離陸に成功したとレーダーサイトに報告した。
離陸した2機はF15Kの持つ音速を2倍も超えるF110-STW-129エンジンによって数分もかからずに現場空域に達しようとしていた。
「…韓少佐、また連邦機でしょうか?最近やたら多いですね。」
「奴さん結構羽振りいいって聞くしな。それにしても最近はマズイ情報もあるらしい。」
やや不安そうな申中尉が現場空域まで余裕があったため質問し、それ対して韓少佐は答えた。
4年前の2019年、中華人民共和国は突如、朝鮮民主主義人民共和国、マクマホンライン(中国とインドの係争地)、南沙諸島に同時侵攻し1ヶ月足らずで占領。
北朝鮮軍の大半は事前の工作により懐柔させられており、ほとんど抵抗なく人民解放軍は侵入占領。金正恩総書記は逮捕処刑された。
マクマホンラインではインド軍を数と質の両面で打ち負かし占領。
南沙諸島は人民解放海軍の空母配備新型艦載機J23、最新鋭高性能駆逐艦群によりベトナム・フィリピン・ブルネイの連合軍は破れ堂々と占領した。
アメリカを中心とした国々が侵略行為を非難したが中国政府は無視。実効支配を強め国連総会・安保理で今回の件について正当性を発表し過半数の国に受け入れられた。経済力に物を言わせた中国に誰も大きく反発できなかったのだ。
翌年2020年には国名を中華連邦と改名し、法律を強化し共産党による一党独裁制を揺るぎないものにした。
そして2023年の今年、連邦と大韓民国国境上空や台湾海峡、日本の尖閣諸島上空では連邦機による領空侵犯が多発している。
「上の情報では奴さん、北の国境周辺に地上軍を集結させているらしい。」
韓少佐が怪訝そうに申中尉や成少尉に伝える。
「ホントですか?無線でこの話をしてたら拙いんじゃ・・・。」
「いや俺たち幹部連中ではもう広まってる話だ。近々ややこしいことになりそうだぞ。それより目標機はどこだ?見えないぞ。」
「それって俺たち拙くないですか?このままじゃ俺た―」カッ
成少尉が言いかけた瞬間、彼らの乗った機体がいきなり爆散した。
2号機の韓少佐は申中尉、成中尉両名の乗った1号機が突然爆散したのを見て一瞬思考が止まった。
「ブレイク!畜生!」
だが戦闘機搭乗歴10年のベテランである彼は咄嗟に危険を察知し操縦桿を右手前に倒し左のラダーを思いっきり踏んで左90°旋回で回避機動を行った。
「なんだ今のはっ?」
韓少佐は炎を上げながら海に落下していく1号機の残骸を見ながら叫んだ。自分の前で突然爆散した1号機はミサイルアラートが全く鳴っていなかった。通常、対空ミサイルを探知した場合、戦闘機のレーダーはミサイルが接近している警告を鳴らす。しかし、申中尉の乗機のアラートは全く鳴っていなかった。
『これは撃墜されたのか?それとも事故か?まさか・・・』
韓少佐はなぜ1号機が爆散したかを素早く考察し1つの可能性が思い浮かんだ。
「Slam02,This is "K"orean "A"ir "D"efence "C"ommand. Slam 01 disappeared from a radar. Report the situation.(スラム02、こちら韓国防空司令部(KADC)。スラム01がレーダーから消失した。状況を報告せよ)」
その直後、司令部から彼に無線が届いた。
「This is Slam02! Slam 01 shot down! Slam 01 shot down!(こちらスラム02!スラム01が撃墜された!スラム01が撃墜された!)」
「Slam 02. What kind of thing is it?!(スラム02。どういうことだ?!)」
「I say again! Slam 01 shot down! Negative contact. Is where a Taget posion?(繰り返す!スラム01は撃墜された!ターゲットを捕捉できない。目標はどこだ?)」
韓少佐は司令部に返答を返しながら今の撃墜について1つの答えを掴んでいた。
「Precaution! Almost same position! Precaution!(警戒せよ!目標の高位は変わらない!警戒せよ!)」
『これはマズイ・・・奴さんとんでもないもの装備してやがる・・・』
彼は1つの推測を元に新たに旋回を取ろうとした。
「The target is Lase(敵はレー)」カッ
彼は司令部に報告しようとした瞬間、強い光と同時に彼の意識はそこで途絶えたのだった。