第1話
革命的な技術革新により、遺伝子組み換えの技術が向上し
思いのままに生物の、植物の遺伝子を組み換えることが可能となってから
18年の時が流れた、今我々のいる2015年の延長線上ではない
いわばパラレルワールドの2020年。
一人の新米介護福祉士が、とある施設の門をくぐろうとしていた。
その娘の名は、小金井ひなた。金色の髪、色白の肌、
健やかに育った健康な身体。そして…
金色の耳に、金色の尻尾。
…そう。彼女は、ゴールデンレトリバーと人間の遺伝子を組み合わせて生まれた
”介助犬耳っ娘”だったのである!
介助犬耳っ娘 ひなたさんの日常
第1話
青く晴れた空の下、私はとある施設の正面玄関をくぐった。
特別養護老人ホーム、○○園。
介護福祉士になって初めての仕事。
緊張するけど…頑張るぞ!
「あの…初めまして。私、今日からこちらで働かせていただく予定になってます
小金井ひなたと申しますが」
「小金井さんですね。ちょっと待ってて下さい。今リーダーを呼んできますので」
入口を入ってすぐの事務所にいる、中年の女性にそう伝えると
すぐにリーダーを呼んできてくれた。
「初めまして、小金井さん。私が特養ユニットのうちの一つ、
さくらユニットのリーダーの佐藤です。小金井さんは
うちのユニットで働いていただく予定になってますんで、今日からよろしくお願いしますね」
爽やかな眼鏡のリーダーは、そう言うと早速私を更衣室へ案内してくれる。
「出勤したら、まずはここで着替えちゃってください。
ちなみにウチの施設では制服ってのは基本的に決まっていなくて、
特に服装に関しては制限もないです」
ただ、ジャージやジーンズはあまりビジネス的ではないので
絶対にダメとは言わないけどダメです、と佐藤リーダーはつけ加えた。
そういえば、制服の無い施設、というのも最近は普通になってきていると
専門学校の授業でも習ったな…
案内された更衣室で、私は早速着替えた。
一応前もって、汚れてもいいような服を持ってくるようには言われていたので
準備は万端だ。
更衣を済ませて出てくると、再び施設内の案内が始まった。
職員用の玄関、タイムカードのある場所、トイレの位置などなど…
一通り案内してくれる佐藤リーダーの説明に、
私は頑張ってメモしながらついていく。
そして…いよいよ、今日から私が働くユニットへと案内されることになった。
緊張のあまり、尻尾は下を向いている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ!そんな緊張だなんて…」
どうやら、緊張しているのが佐藤リーダーにはバレバレみたいだった。
尻尾があると、嘘がつけないので恥ずかしい。
自分では見えないけど、顔が真っ赤になっているかもしれないと思うと
緊張はするわ恥ずかしいわでもう散々である。
「みんな一旦集まってー!」
佐藤リーダーの一声に、それぞれ仕事をしていたスタッフが手を止めて集まる。
「こちら、今日からこのユニットで一緒に働く
小金井ひなたさんです。」
「こ、小金井ひなたです!実務経験は全くないので、
みなさんどうかよろしくお願いします!!」
私が自己紹介をすると、続いてスタッフの皆さんが自己紹介してくれる。
「初めまして。私は鈴木と申します。どうぞよろしくお願いしま~す」
「高橋です。よろしくお願いします!」
少し年配の女性の鈴木さんと、
高橋さんは30代、といった感じの男性だ。
今来ているスタッフは佐藤リーダーを含めて3人。
この後時間になると、遅番、そして夜勤が来るまで残る遅番その2、
というようにスタッフが出勤するという流れになっていると
佐藤さんは説明してくれた。
時刻は9時をちょっと過ぎたところ。
「今日は最初だし、日勤ということで鈴木さんについて色々と教わって下さい」
ということで、私は鈴木さんに色々と教わることになった。
緊張を隠せない私の尻尾は、相変わらず下を向いている。
そんな私の尻尾を見て、鈴木さんもまた
そんなに緊張しなくても大丈夫よ、と声をかけてくれるのだった。