世界の終焉 end of the world
*パラドックスとは正しそうに見える前提と
妥当に見える推論から、
受け入れがたい結論が得られる事を指す。
*例:タイムマシンで過去に行ったとして
自分が生まれる前の自分の親を殺した時に
自分は産まれてこないということになる。
またそうなると自分が居ることはないので
親が殺されない。それで親は殺されないため
自分は生まれる。という循環ができる。
※スマホの方は画面を横にされると読みやすいです。
※一ノ宮 朔 (いちのみや さく)
梓川 綾瀬 (あずさがわ あやせ)
その時、世界は停止した。
それは突然の出来事で、俺が今見ているこの光景はまるでここが地球ではない
どこかに飛ばされたようなものだった。これは現実にある日常ではない。
これは誰がどう言おうと現実にない非日常であることは確実だろう。
その光景とはなにか、それは非常にシンプル。
自分自身の目で見えるものすべてが停止しているという光景だ。
先程まで俺の前を急ぎ足で歩いていたサラリーマンも足を止め、
息を止めたかのようにピクリとも動かない。
先程まで俺が歩いていたこの通りの横断歩道を挟んだ広場でアイスをこぼした
ばっかりの小学生でさえ動きやせず、こぼしたアイスも地に着地することなく、宙に浮いている。
そんなありえない非日常を目にして俺は不思議と冷静だった。
この光景を目にして俺が一番最初に行った行動はただ一つ。
周りを見渡すことだ。よく見渡してみると、
止まっている世界で動いているものがそこにはあった。
動いているもの、それはこのあたりでは見かけない制服で
俺と同じくらいの少女だった。彼女はどうやらずっとこちらを
見ていたようで自然と目が合った。
少しの間、視線がずれることは無かったが、
息苦しくなってきたので視線を俺から逸らした。
その様子を見た彼女はこちらへと駆け寄ってきた。
「あの・・・、私は死んだのでしょうか?」
彼女の一言目はそれだった。
そんなものは俺にも分からないので俺も同じように言う。
「あぁ、じゃあ俺も君と同じように死んだのかな?」
それを聞いた彼女は少しどこかでホッとしたのか顔にしわを寄せ、
笑みを作った。
「でも...生きてます、私たち」
「その通りだと俺も思う。俺たちはこうして生きている。
むしろ、世界が死んでいる...」
世界が死んでいる...か。
自分で言ったにしてはこの停止した世界に丁度良い例えだ。
「世界が死んでいる...ですか。でも、私は...生きたいです」
彼女は目を真っ黒にして俺のことを一直線に見てそう言った。
だが俺は違った。
「俺は...死にたかった。今日、死ぬはずだったんだ」
俺は足元を見つめた。停止したこの世界で。
時間が停止していなかったら今頃俺は自動車にはねられて
地に突っ伏していただろう。
「貴方...名前は?」
彼女の問いに俺は淡々に答えた。
「俺は一ノ宮朔。君は?」
「私は梓川綾瀬。君は死にたかったんだよね?」
彼女は名前を言ったあとに死にたかったんだよねと確かにそう言った。
「あぁ、確かに死にたかった...」
俺の言葉はそこで閉ざされた。
「でもさ、朔くん。世界は死んでしまっているよ...?」
彼女、梓川綾瀬は何かを知っているのかは分からないが
何かを見据えているかのような言い回しだった。
俺と彼女の出会いが世界を生き返らせる事になるとはこの時はまだ、知らない。