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ゲンジュウ!  作者: ポンタロー
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第一二章

第一二章


「おー、派手にやってるなー」

 二〇階建てのビルの屋上から、双眼鏡を片手に外道は一人呟いた。

 ターゲットのドラゴンとの距離は約五〇〇メートル。ドラゴンは今もギャースとか言いながら口から炎を放ち、あちこちにばら撒いている。

「あの辺はまだいいが、工場辺りに行かれるとまずいな。大惨事になりかねん」

 外道は冷静に状況を分析する。

「さて、そんじゃ手早く終わらせますか」

 そう言って、外道はスナイパーライフルを構えた。

 そして、まずはドラゴンの体の一部に適当に狙いをつけ発砲。

 しかし、銃弾はあっさりとドラゴンの皮膚に当たって弾かれる。どうやらライリンの言った『鋼鉄並みの表皮』というのは伊達ではないらしい。

 それならばと今度は目に狙いを定めて一発。標的との距離、約五〇〇メートル。天候は晴れ。ほぼ無風。外す理由はない。

 スナイパーライフルから放たれた銃弾は、今度は正確にドラゴンの右目に着弾した。

「あっ、抜けた」

 どうやら、目まで鋼鉄とはいかなかったらしい。

 ドラゴンはけたたましい雄たけびを上げて暴れまわっている。どうやら怒らせたようだ。口から吐き出される炎の威力が明らかに増している。

「さて、セカンドフェイズに移りますか」

 しかし、外道は全く動じずに、スナイパーライフルを持ったままビルの階段を降りていった。


 ビルを降りた外道は、そのまま天夏父、豪傑の所有する真っ赤なオープンカーへと乗り込み、ドラゴンへと接近。その距離、わずか二〇〇メートル。

 ドラゴンは、まだ目を撃たれた怒りに我を忘れており、辺りを火の海にしながらその場で地団駄踏んでいる。

「はーい、いい子でちゅねー。ご褒美あげまちゅよー」

 オープンカーの運転席から、赤ちゃん言葉で外道が構えたのはロケットランチャーだった。

 ライリンのアイアンメイデンズを壊滅させた時に使った物だ。

 それを躊躇うことなくドラゴンに向けて発射。ロケットランチャーから放たれた一撃は、空気を切り裂くような轟音と共に、ドラゴンの腹に命中した。

「GYAAAAAA!」

 直撃を受けたドラゴンは、悲鳴こそ上げるものの弱った気配はない。

 しかし、外道はそれすらも予想していたかのようにニヤリと笑った。

「だよな。そうこなくちゃ」

 ロケットランチャーを助手席に投げ捨て、外道は車のハンドルを握る。

 ドラゴンは、ロケットランチャーを撃った外道を、残った左目で睨みつけている。どうやら外道を敵と認識したらしい。憤怒の形相で向かってきた。

 しかし、それでも外道は不敵な笑みを崩さず……

「さて、ファイナルフェイズだ」

 と言って、オープンカーを走らせた。


 ドラゴンを引き連れたオープンカーは、そのまま居住エリアを失踪。一定の距離を保ちながら、ドラゴンを誘導しつつ目的の場所に向かっていた。

 その体躯に似合わぬ速度で追ってくるドラゴンだったが、高層建築物の乱立するこのカジノ特区で、小回りのきくオープンカーを捕まえることはできない。

 長らく戦闘というものをしていなかった外道だが、どうやら体は鈍っていなかったようだ。

 体は自分の思った通りに反応するし、思考も明瞭。ここまで体が動くのは初めてかもしれない。

 数年ぶりの実戦なのにと不思議に思う外道だったが、本当は分かっていた。何故こんなにも体が動くのか。

 ずっと従順な兵士として戦ってきた外道には、そもそも自分の意思で戦うということがなかった。命令されたから戦い、命令されたから敵を倒す。ただ、それだけ。

 その戦いに何の意味があるのかも、何故、敵を倒すのかも外道は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。

 自分のいた組織が壊滅してからもそう。

 何故、自分が生き続けているのか分からなかった。ただ、死にたくはなかった。命令を出す上官もいなければ、他の兵士もいない。しかし、だからといって、自分も後を追うようにして死ぬのは嫌だった。だから、生きた。ただ、それだけ。

 はっきり言ってしまえば、少し前までの自分は何のために生きているのか分からなかった。生きる目的があるわけでもない。そんなもの今まで必要なかったから。別に夢があるわけでもない。そんなものを持つことが許されない世界で生きてきたから。

 ただ、死にたくなかった。だから生きる。ただ、それだけ。

 しかし、今は違う。ペットがいる。恋人がいる。その他二名……もとい、妹みたいな奴と、きっちりギャンブルの未払い分を取り立てねばならない女もいる。

 やっと人生が楽しくなってきたところだ。今までの人生が灰色だった分、きっちりと楽しまなければならない。それを、こんなちょっと硬くて炎を噴くだけの怪獣もどきに壊されてたまるか。

 そう思うと力が湧いてくる。それは外道にとって初めての経験だった。

 そう、自分は、生まれて初めて自分の意思で戦うのだ。

 これまでの人生は決して良いものではなかった。しかし、今は感謝してる。自分の守ると決めたものを守れる強さを与えてくれたことを。

 ハンドルを握る手に力がこもる。そして五分後、外道の駆るオープンカーは目的の場所へと到着した。


 目的の場所に着くと同時に、外道は車を止めた。

 そして、ミラーを一瞥。ドラゴンは雄たけびを上げながら、外道の乗る車以外、何も目に入らないかのように、真っ直ぐに外道へと向かってくる。その距離は、五〇〇メートル……四〇〇メートル……三〇〇……二〇〇、今だ!

 ドラゴンが十分に近づいたのを確認して、外道は一つのボタンを押した。そして、すぐさま耳を塞ぐ。

 その直後、ドラゴンの雄たけびの一〇倍はありそうな轟音が辺りに鳴り響いた。

 そして、轟音と共に、ドラゴンの走り抜けようとした九階建てのビルと、一一階建てのビルが倒壊し、そこを走り抜けようとしたドラゴンの上に崩れ落ちた。


 要は、ビルの爆破解体と同じだった。

 通常、ビルの爆破解体は周囲に被害を及ぼさないよう、緻密な計算の元に爆薬をセットし、できる限り垂直に倒れるように爆破される。

 しかし、今回はそれを横に倒れるように爆破したのだ。もちろん、ドラゴンの走り抜けるであろうポイントを想定して。そして、計画は見事成功した。

 いかに鋼鉄並みの皮膚を持つドラゴンでも、ビル二棟分の重量の前には為す術がない。

 崩れたビルに押しつぶされたドラゴンを見ながら、外道は特に感慨に耽ることもなく、ポツリと呟いた。

「残念だったな、ドラゴン君。お前はシルヴァリオンじゃ最強クラスの幻獣らしいが、この世界の最強はな、人間なんだよ」


▲▲▲

 外道がドラゴンとの戦闘に勝利した頃、ちょうど女達の激闘も終焉を迎えつつあった。

 すでに、天夏とライリンはズタボロ。ルーンだけは三匹のお友達に守られ(その三匹はボロボロだが)、無傷で元気にポコハンを構えている。

「とにかく、ルーンがペットなのは仕方ないとしても、アンタが兄ちゃんの恋人なんてウチが絶対認めへんからな!」

 顔にバッテン印の引っかき傷を作った天夏が叫ぶ。

「何故、お主の許可が必要なのじゃ。ソトミチの告白をわらわは受け入れた。それで問題ないはずじゃ!」

 天夏に負けじと、顔に青タンのできたライリンも叫んだ。

 ただ一人、ルーンだけがポコハンをしまって三匹の手当てを開始している。

 険悪な雰囲気が続く中、突然、天夏のスマホから着信音が響いた。

「ちょっと待って。あっ、兄ちゃんからや!」

「何! ソトミチは無事なのか?」

 喧嘩の最中というのも忘れて天夏に詰め寄るライリン。ルーンも手当てを中断して天夏に駆け寄る。

「もしもし? えっ、終わった? さっすがウチの兄ちゃん。えっ、違う? またまた照れんでもええやん。今、どこにおんの? うん、うん。分かった。ちょっと待ってて、今迎えに行くから。えっ、一人で帰れるから来なくていい? 兄ちゃんの意見なんて聞いてへんよ。いいって言っても行くから、大人しく待っとき。そこから一歩でも動いたら、天夏神拳最終奥義『唯我独尊掌』を叩き込むで! え・え・な!」

 そう言って、返事を待たずにスマホを切る天夏。そして、ライリンとルーンに向き直る。

「兄ちゃん、勝ったって。ウチ、迎えに行ってくるから、アンタらは留守番な」

「何を言うておるか。こういう場面では、恋人が一番に迎えに行くところじゃろうが!」

「……ペットが最初」

 またも睨み合いを始めた三人は、状況に気づき我先にと玄関を飛び出した。

▲▲▲


「ソトミチ♡」

 ドラゴンを撃破し、倒壊したビルの近くにいた外道の右腕に、ライリンが抱きついた。モニュンという柔らかいながらもしっかりとした弾力を併せ持つ二つの果実が、外道の右腕に押し付けられる。外道は、先ほどまでの冷徹な戦士の顔から一転、だらしなく鼻の下をビヨーンと伸ばした。

「むっ!」

 その外道の顔を見たルーンが、自分も外道の左腕に抱きついた。

 ムニョっという、弾力重視ながらも程よい質感の双丘が、外道のリビドーにドラゴンスープレックスをお見舞いする。

「むむっ!」

 またも恍惚の表情を浮かべる外道に、今度はライリンが反応した。

「こら、ルーン。ソトミチはわらわの恋人じゃぞ。ペットの分を弁えぬか!」

 ルーンも負けじと言い返す。

「ペットなんだから、ご主人様に甘えるのは当たり前。ライリンこそ、後から来たくせに図々しい」

 外道を挟んで、バチバチと火花を散らす美少女二人。そんな二人をよそに、外道は今、感動に震えていた。

(「こ、これがあのギャルゲーの世界にしか存在しないと思っていた、ハーレムというやつか。よ、ようやく俺にも春がきた。俺を巡って美少女二人が対立。な、なんという素晴らしいシチュエーション。な、涙が止まらない」)

 心の中で感動に打ち震える外道。

 そんな外道に、久々登場の内道君が苦言を呈した。

(「ちょっとちょっと、外道君。感動するのはいいんだけど、いい加減に止めた方がいいと思うよ」

「何でだよ。ちょっとくらいいいだろうが。美少女二人が俺を取り合ってんだぞ。こんな夢のようなシチュエーション、もう二度と味わえないかもしれん。今の内にしっかりと堪能しておかなくては」)

「こらー! アンタら、ええ加減にせえーーー!」

 いつの間にやらやってきた天夏が、外道から二人を引き離す。

 不満顔を浮かべるルーンとライリンに向かって、天夏は着いて早々に説教を始めた。

 少し残念に思いながらも、そんな様子を微笑ましそうに眺める外道。

 そこで外道は気が付いた。

 第六感とでも言うのだろうか。彼の戦士としての研ぎ澄まされた危機察知能力が、外道に最大限の危機を警告する。

 外道が周囲を見回すと、死んだはずのドラゴンの口の中から、体長四〇センチほどの蠅? のようなものが現れ、こちらに向かって何かを飛ばそうとしていた。

 狙いは自分ではない。……ルーンだ!

「危ない!」

 そう叫んだ時には、外道はすでにルーンを突き飛ばしていた。

 一瞬の間を置いて、何かが腹を突き抜ける感覚、腹の真ん中にどでかい穴を開けられたような感覚が外道を襲う。

 しかし、倒れる前に何とか反転して、持っていた拳銃を蠅に向けて発砲。

 拳銃から放たれた三発の銃弾は、全弾命中し、蠅はその場に崩れ落ちた。

 そして、それを見届けた外道は、静かな笑みを浮かべてゆっくりと意識を失った。



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