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第六節

「きゃぁぁぁぁぁぁっ! 何普通にめくってるんですかっ!」

「いや、穿いてるかどうかの確認をだな」

「穿いてなかったらどうするつもりだったんですかっ!」

「だったらお前の銀色の乙女パーツが見えるだけだろ?」

「そんな平然と! っていうか、何で色まで知ってるんですかっ!」

「さっき見えたし」

「うわぁぁんっ!」

 どうしてだか分からないが半泣きになりながら、シェリムが言う。

「いいですか? 女の子にとって、ここを見られるということは、自害も辞さないほど恥ずかしいんです! そう簡単に見られたくはありませんっ! それだけは覚えておいて配慮してください!」

 シェリムは強い語気で俺を睨みながら言う。

「じゃあ、パンツはいいのか?」

「はい?」

「今の話だと、パンツは見られてもいいって事じゃないのか?」

 さっき俺に怒った言葉が「穿いてなかったらどうするつもりだったんですかっ!」だったしな。

 つまりはその前に「パンツを穿いてたからよかったものの」って付くってことだ。

「見られたら嫌に決まってますっ! 単にましだったというだけです」

 シェリムは拒絶に近いくらい強く抗議する。

「分かった分かった。次から気をつける」

 俺が言うと、言い方が軽かったのが気に入らなかったのか、少しじっと俺を見つめていたが、諦めたようにため息をついた。

「そんなわけだ、俺を信用しろ、アヴィーラ!」

「出来るわけないでしょうがっ! この女の敵!」

 なぜだか分からないが、アヴィーラの態度はさっきよりも強硬になっていた。

「どうしたんだよ?」

「うるさい! あんたの言うことなんか信用するかっ!」

 戸惑う俺と、怒るアヴィーラの後ろで「そうでしょうそうでしょう」と満足そうに頷くシェリム。

 シェリムのくせに生意気だ、神だけど。

「まあ、どうでもいいけどさ、お前もこれからここに住むんだろ?」

「最初の拠点はここね。そのうち世界を支配するから、相応しい場所に移るけどね」

「じゃ、ずっとここだな。とりあえず、ここに住むんなら住ませてやってもいいけどさ、生活費くらい何とかなるし」

 うちの仕送りは、母さんが後ろめたいからなのか結構多い。

 まあ、大半は柚奈に渡してるんだけどな。

「だーかーらーーー! 最初だけよっ! それにあんたはあたしの下僕だから、喜んで提供しなさいよ!」

「ああ、そう言えばそんな事言ってたな。ま、そんなことはどうでもいい、住むんなら色々買い物もあるだろ?」

 俺は激昂するアヴィーラの言葉をスルーし、そう続けた。

「……まあ、そうね? そういう物は下僕が調達──」

「だから、買ってくるものがあったら店が開いてるうちに買ってこい、ほら、金やるから」

「……うん」

 アヴィーラは素直に金を受けとる。

「まず何が欲しいか考えて計画を立てるんだ」

「うん……えっと、まず着替えよね……」

 アヴィーラはぶつぶつとつぶやきながら計画を立てていた。

「……優しいんですね、彼女には」

 シェリムが不満を帯びた声で言う。

「妬いてるのか?」

「妬きませんっ! ただ私にももう少し優しくして欲しいだけです!」

 それを妬いてるって言うんじゃないのか? と思ったが、まあ言わないことにした。

「分かった分かった、もう少しお前にも優しくしてやるよ」

 俺はシェリムの頭を撫でてやると少しだけ溜飲が下がったのか、おとなしくなる。

 そうしてしばらくアヴィーラがぶつぶつ言っているのを眺めていた。

「よし! とりあえず服屋に行ってくる!」

 アヴィーラが立ち上がり、部屋を出ていった。

「行ってこい、気を付けてな」

「行ってらっしゃい」

 俺とシェリムがアヴィーラを見送った。

「さて、やっと二人っきりになれたな」

 俺はそうシェリムに言う。

「はい? 二人きりも何も、さっきまでもノワールはいましたが二人っきり……ああっ!」

 シェリムははっとして俺を見上げる。

「そう、もうすぐ日が完全に暮れるな。そして、協定を結んだアヴィーラは出かけてしまった」

「ひっ卑怯です! 悪魔に勝るくらい卑怯ですっ!」

 シェリムが半泣きで俺を睨んで、身を守るように身体を抱く。

「何とでも言え、もうすぐお前は自分から俺に寄ってくるようになるんだ」

 俺は銃を突きつけて圧倒的優位から自分の犯罪を説明する、刑事ドラマ終盤の犯人のように笑う。

 ただ、ここには踏み込んでくる刑事さんはいない。

 俺は完全に犯罪を成り立たせることが出来る。

 今は極端に警戒して俺を拒んでいるこいつも、もう少ししたら尻尾を振って寄って来るわけだ。

 それは快感で仕方がない。

「くっ……駄目……もう、限界……」

 シェリムの意識が途切れ始める。

 やっと来たか。

「さようならシェリム。次に会うときには大人の女性に──」

「よく考えたら、服屋がどこにあるかなんて知らないわよっ!」

 勢いよくドアを開けたのは、さっき出ていったばかりのアヴィーラだった。

 まずい、気づかれないように追い返さないと!

「たすけ「さわむらって服屋がこのそばにあるからそこに行け」」

 俺はシェリムの言葉を隠すように大きな声で言う。

「ん? 何か言ったの、神の人?」

「たす「さわむらは閉まるの早いぞ? さっさと行かないと!」」

「え? うん……」

 アヴィーラはシェリムの態度を訝しげに見ながら出ていこうとして戻ってきた。

「ああっ! そう言えばそろそろ神の人の意識がなくなる時間だわっ!」

 くっ、気づかれたか。

 シェリムは安堵の顔で意識を完全に失った。

「こっちの心配はいいから、お前はさっさと行け!」

「駄目、約束したんだから!」

 アヴィーラは俺が追い出そうとしても、出てはいかなかった。

 これまでか……。

 俺は肩を落とした。

「どうしたのですか、ご主人さま?」

 そんな俺に話しかけてくれたのはシェリムだった。

 ああ、なんだかんだ言ってこいつも神だから優しいよな。

 今日はちょっと色々やりすぎたかも知れない。

 ……ん? ご主人さま?

 シェリムが俺のことをご主人さまなんて言うか?

 もしかして、ブランシェか……?

 振り返ると、そこにはシェリムの姿があった。

 いや、シェリムよりも少しその瞳から理知的な光が消え、もう少し無垢な光が輝いている。

 無垢で従順な瞳は、まさしく俺の愛したブランシェのものだ。

「あれ? 私、言葉が喋れます! あっ! 人間になってます!」

 ブランシェが自分の手足を見ながら驚く。

「ご主人さま! 私人間になりました!」

 尻尾があったら全力で振ってそうな笑顔で、俺に報告するブランシェ。

「そうか、よかったな、ブランシェ」

 俺はそう言いながら頭を撫でてやる。

「はいっ! 嬉しいです! ご主人さまとお話が出来るのが嬉しいです!」

 ブランシェが興奮気味に俺に擦り寄ってくる。

 俺はいつもやるように、頭から背中、そして尻尾を──。

「ちょっと待った」

 存在しない尻尾を撫でようとして、アヴィーラに止められる。

「なんだよ、今飼い犬とスキンシップしてるところなんだぞ?」

「あたしにはセクハラにしか見えないわよ。とにかくやめなさいよ。あたしの見てるうちはそういうことはさせないわよ?」

「くっ、これで駄目なのか……シェリムより厳しいな」

「……え? あたし、これより凄いことさせられたってこと?」

「まあな」

「うわぁぁぁぁぁんっ!」

 アヴィーラはなけなしの魔力で俺を攻撃するが、やはり俺は吹き飛ぶだけだった。

「大丈夫ですか? ご主人さま?」 

 一緒に吹き飛んだのに、まずは俺を気にするブランシェが愛らしい。

「あの人は誰なのですか? 見たことありませんが、とてもイライラする匂いがします」

 ブランシェがアヴィーラを睨みながら俺に聞く。

「うーん、まあ、悪魔のアヴィーラだけど、ノワールでもある」

「ノワール! 通りでイライラすると思いました! あの猫も人間になったのですね?」

「あー、うん、そうだけど、あいつは違うんだよ」

 よく考えると、ブランシェがノワールと会うことはないんだよな。

「あいつはノワールの身体を乗っ取った悪魔なんだよ」

「ノワールを乗っ取った悪魔? ……それはそれで憎い敵です!」

 ブランシェはアヴィーラを睨む。

 ふむ、ブランシェにとってノワールは敵じゃなく、イライラする仲間なのか。

 さすがは群生動物、一緒に行動する奴はみんな仲間の側なんだな。

「そこの悪魔、ノワールを返しなさい!」

 ブランシェは本来シェリムがかくあるべきという様子でアヴィーラと向き合う。

「はあ? 神でもないあんたに何が出来るっていうのよ?」

 馬鹿にした様子のアヴィーラ。

 そう言えばブランシェって子供の頃から噛んじゃ駄目だと教えてきたから、ノワールも噛んだことないんだよな。

 どう攻撃するつもりなんだろう。

 ブランシェの攻撃って吠える位だけど、もしかして物凄い咆哮でアヴィーラを震え上がらせるとか。

 ブランシェは大きく息を吸い込む。

 アヴィーラが少しだけ警戒する。

「返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してください! 返してくださいぃぃぃぃっ!」

 文字だけ見てるとヤンデレみたいだが、どちらかというと駄々を捏ねているように見える。

 犬が吠え続けるってこういう事か。

 これは怖くはないが物凄くうっとおしい。

「返してください! 返してください! 返してください!」

「ああもう、うるさいっ!」

「……わふん」

 俺の教育の賜物で、うるさいと怒鳴られたら吠えるのをやめる。

「全く、うるさい犬ね。あたしの邪魔するんじゃないわよ」

「ノワールは返してくれるんですか?」

「昼になったらね」

 アヴィーラはふん、と腕を組みながら答える。

「分かりました。それならいいです」

 ブランシェはあっさり引き下がる。

「とにかく、俺とブランシェはこれからいちゃいちゃするから邪魔はするなよ?」

「するわよ! 駄目だって言ってるでしょうがっ!」

 アヴィーラは俺とブランシェの間に入る。

「じゃあお前といちゃいちゃしてやろうかぁぁぁぁぁっ」

 至近距離のアヴィーラを、俺は全力で抱きしめてやる。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 案の定というか俺は吹き飛ばされる。

 今度は一人で。

「いてえ……」

「大丈夫ですか、ご主人さま?」

 ブランシェが心配そうに俺に駆け寄ってしゃがむ。

 ぺたん、としゃがむ感じがブランシェのおすわりを彷彿させる。

 ブランシェがじっと俺の様子を窺う。

 そのブランシェをぐいっ、と引っ張って俺の身体の上へ引き倒す。

「あっ、ご、ご主人さま……」

 ブランシェの身体が俺の上に乗っかり、俺はそれをしっかりと受け止める。

 ブランシェのは柔らかい身体が重力で俺に押し付けられ、シェリムと全く同じ甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。

「ご主人さまっ!」

「ははは、うわっ!」

 ブランシェは嬉しさ余って俺の顔を舐め始めた。

「おまっ! ちょっ! やめっ!」

 美少女に顔を舐められるという思いがけない出来事に、俺は戸惑った挙句、それを受け入れた。

 生暖かくてくすぐったい感じがいい。

 唇も舐められてるけど、これはキスじゃないだろうか。

「はい、そこまで~」

 物凄く冷めた声のアヴィーラが、ブランシェを蹴って、俺の上から転がして落とす。

「何をするんですかっ! 私はご主人さまと遊んでいるのですよ?」

「あー、悪いわね、あんたの身体に宿ってるもう一人の奴に止められてるのよ、あんたがこいつに性的なじゃれあいをしないようにね」

「性的? 性的とはなんですか?」

「その……男と裸で抱き合ったり……」

 アヴィーラが真っ赤な顔でそっぽを向く。

 ちょっと違うと思うが、その尋常なく恥ずかしそうな表情が可愛かったのでよしとしよう。

「それは交尾ですか?」

「ちがっ……わないけど……」

 アヴィーラの声が徐々に小さくなっていった。

「私は甘えて遊んでいただけですよ? あ、でも、人間になれたのなら、確かにご主人さまと交尾が出来ます!」

 ブランシェは俺を満面の笑で振り返る。

「ご主人さま! 私に子供を生ませてください!」

「分かった」

「分かるなっ!」

 俺の顔面が蹴られる。

 ちなみに俺はまだ寝転んだままだから、蹴られたときアヴィーラのパンツが見えた。

「全くあんたたちは……ま、いいわ、あたしの魔力が貯まるまではこの拠点から動けないし、あんたたちの監視くらいしてあげるわ」

 ここにいる誰も望んではいないのに、アヴィーラはしょうがないわねえ感を出しまくってそんなことを言う。

「まあ、三人でっていうのもいいのかもな」

「よくないっ! この変態っ!」

 俺は更に蹴られた。

 なるほど、アヴィーラを怒らせるとパンツが見られる仕組みなんだな。

「それよりアヴィーラ、さわむわ行かなくていいのか?」

「あっ! そう言えばそろそろ閉まるんだっけ?」

「いや? そうでもないけどな」

 深夜までやってるってことはないが、辺りが暗くなってもやってたのは知ってる。

「さっき、もうすぐ閉まるって言わなかったっけ?」

「ああ、あれ、嘘」

「つくなっ!」

 またアヴィーラに蹴られ、白いパンツを見上げることになった。

 ちなみに白といっても、シルクだったりレースだったりするわけじゃなく、コットンホワイトだ。

「まあ、でも閉店間際は焦るだろ? そろそろ行ってこいよ。服はともかく、その白パンだってあんまり長いこと穿いていたくないだろ?」

「? その……白……パ…………うがぁぁぁぁぁっ!」

 俺の言ってる意味がわかるとアヴィーラの顔は真っ赤になって、俺の顔を思いっきり蹴るというか踏みまくる。

 スカートは押さえたのでもう見えない。


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