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第三節

 確かにアヴィーラじゃない。

 その女の子は、じっと俺を見て、俺の姿を認識した。

「貴大!」

 そして、俺に飛び込んできた。

 顔から俺の胸にダイブだ。

 ちょうど、ノワールがやるように。

「っとっとっ!」

 小柄とはいえ、猫のノワールよりもかなり重いこの子を受け止めて、俺はふらついた。

「にゃー、貴大に甘えるの!」

 その、アヴィーラと寸分違わない女の子は、俺の迷惑など一切考えず、俺の胸の中で嬉しそうに頬ずりをしている。

 ああ、この空気も読まずひたすら俺に甘えてくるのはあいつしかいない。

「なあ、お前、ノワールか?」

 俺は胸の中の女の子に聞く。

「ノワール? うん、ノワールはノワールって言うんだよ? 貴大が付けてくれた名前なの」

 ノワールという、俺の猫と同じ名前の女の子は、嬉しそうに俺に笑いかける。

「こ、これは……」

 抱き続けた夢が叶ったというのか?

 俺は、信じた。

 誰に馬鹿にされても、信じ続けた。

 夢にしてもあまりにも馬鹿馬鹿しい妄想だと言われたが、それでも信じ続けた。

 信じ続ければ、きっと神様は俺に気がつく。

 そして、その夢が、今、叶った!

「ああ……神様……」

 俺は神に感謝した。

 信じれば、どんな夢でも必ず叶う。

 簡単なようだが、簡単ではなかった。

 疑ったこともあった。

 そんな夢みたいなこと、叶うわけがない。と。

 だが、最後には思い直して信じ続けた。

 信じてよかった!

「えっと……呼びましたか……?」

 隣で銀髪の小娘が何か返事した。

「ちょっと黙ってろ、俺は神に祈ってんだ」

「だから、私、神ですけど……シェリムファーヴェルデューっていう、結構正統な血筋の」

「知らん」

「そうですか……」

 シェリムはがっかりと肩を落とした。

「? 何の話?」

 ノワールが不思議そうに首を傾ける。

「うん、ノワールがな、人間になったのが嬉しいんだよ!」

 俺は胸の中のノワールを抱きしめる。

 小さなノワールは、抱きしめると本当に小さくなる。

 だけど柔らかいしいい匂いするし、普通の女の子だ!

「人間? ノワールが? ……あ! ほんとだ!」

 ノワールは自分の手足を見て驚いた。

「ノワール、人間になった!」

 嬉しそうにごろごろ転げまわるノワール。

 うん、アヴィーラの服って、結構ミニだから、そう暴れると見えるんだよな。

 アヴィーラの奴、ああ見えて純白か。

 ふふふ、可愛いなあ。

「あ! あのね! 貴大に言いたいことがあった!」

 ぴょん、と俺の胸に戻ってきたノワールが俺を見上げる。

「何だい? 言ってごらん?」

「あのね! キャットフードは飽きたの! 前に食べたペドフリーチャムの方がいい!」

「そうかー、でもな、これからは人間だから猫の食べ物なんて食べなくてもいいんだよ?」

 俺はノワールの頭を撫でてやりながら言ってやった。

「人間の食べ物! おいしい? おいしいの?」

「美味しいものも沢山あるさ。毎日食べさせてやるからな!」

「にゃあ! 貴大だいすき!」

 ノワールは俺の首に手を回し、ぎゅっと抱きついた。 

 アヴィーラの身体のままのノワールは、柔らかくていい匂いがした。

「俺もノワールが大好きだぁぁぁっ!」

 俺はノワールを抱きしめ返した。

「にゃぁぁ♪」

 ノワールは嬉しそうに目を細めた。

 ノワールを育ててよかった!

 そう思わずにはいられなかった。

「あのー……」

 遠慮がちな声がするので振り返ると、物凄く冷めた目で、シェリムが俺を見ていた。

「なんだ? 俺は今ノワールを堪能してるところなんだぞ?」

「でもそれ、悪魔の身体ですよ……?」

「身体は元々ノワールのものだ! あのアヴィーラって奴の魂が勝手に入ってきただけだ!」

「いえ……容れ物はそうですが、その姿かたちはあの悪魔の魂から形どったもので、その身体はあの悪魔の形なんですよ……?」

 俺が悪魔の身体とじゃれ合うことに不満だったのか、俺の夢を根本から崩そうとするシェリム。

 確かに身体はアヴィーラのものだ。

 例え元の身体がノワールのもので、今宿っている魂がノワールのものだとしても、魔王の娘とか言ってたあいつの形をしていることに間違いはない。

 それなら、それならどうすればいい……?

 俺は悩む前に一直線に結論を導いた。

「どうもする必要ないじゃん」

「え?」

「俺、別にアヴィーラの見た目嫌いじゃないし」

 悪魔とはいえ美少女だからな。

 俺がノワールを抱き寄せると、ノワールは嬉しそうにじゃれついてきた。

「で、ですが……」

「それにあの小生意気な奴が、俺を慕って頬ずりしてると考えるとさ、何か興奮するだろ!」

 シェリムは俺が悪魔の身体と抱き合っているのが本当に気に入らないらないらしく、睨むような瞳で俺を見ている。

「あのひと、だれ?」

 ノワールは見たこともないシェリムに警戒しつつ、俺の後ろに隠れる。

「あー、これはシェリムなんとかって奴だ。ノワールに分かりやすく言えば、ブランシェだよ」

「ブランシェ! 犬!」

 ノワールはさらに警戒を増し、俺の背後で俺の体をぎゅっと抱きしめた。

「あー、今は神が宿ってるから、大丈夫……そう言えば、シェリム、ふと思ったんだが、悪魔は朝になると魂が維持出来なくなったけど、神はどうなんだ? 夜になったらブランシェに戻るのか?」

「え、いえ、その……」

 シェリムが明らかに狼狽える。

 そうだ、神と悪魔は対の存在だ。

 悪魔の魂が昼に維持できないなら、逆に夜は神の魂が維持できなくなるんじゃないか?

 そうしたら、あれだ。

 ちょっとロリで小生意気なアヴィーラだけじゃなく、見た目俺と同じくらいの歳で、歳相応の身体を持ったシェリムも俺の手に……。

 いや、違う、俺はブランシェと話がしたいんだ!

 それ以外目的なんかない!

「そ、それを聞いてどうするんですか?」

「俺はブランシェと話がしたいんだよ。ああ、可愛いブランシェ……俺のブランシェを返して欲しいだなんだ!」

「そ、それならどうしてさっきから私の身体ばっかり見ているんですか?」

「気のせいだ」

「そんなことはありません! 今も全く目を離してないじゃないですか!」

 豊満とは言えない胸を抱いて、シェリムが一歩二歩後ずさる。

「まあ言わなくても、その反応でだいたい分かったけどな」

「……その通りです。徳の高い神ならともかく、私は夜になると、魂が存在しなくなります……」

 認めるのが悔しそうにシェリムが言う。

「ひゃっほーーーいっ!」

 俺は全力で飛び上がって、天井にスーパーマリオした。

「ほ、本当に宿主に会いたいだけですよね!?」

「もちろんだよ。いやー、楽しみだなあ。あの身体が俺の……おっと」

「絶対何かするつもりですね!?」

「いやだなあ、僕が神様の身体中を撫で回したり、服を脱がしたりなんて畏れ多いことするわけないじゃないか」

「いやぁぁぁっ! 具体的になったぁぁぁっ!」

「ノワールも! ノワールもして?」

 泣き叫ぶシェリムを視姦しつつ、えろい事を可愛がられると思ってせがんでくるノワールを見ていると、俺は部屋の気配に気づいた。

「む、もう来たのか? まずいな……」

「どうかしましたか? 私が今以上にまずい事態は想像できませんがっ」

 少し怒りながら、シェリムが聞く。

「柚奈が来た!」

「? こんな朝早くからお客さんですか?」

「妹だ。一緒に住んでて主に俺の世話を焼いてくれている」

「貴大さんの、お世話……? それは大変ですね」

 シェリムが皮肉なのか実感を込めてなのか、ため息と共に言う。

「まずいぞ、おい、隠れろ、声出すなよ?」

 俺は二人を押入れに押し込める。

 押入れには布団が入っていた分のスペースがあり、二人だと結構狭いが他に場所もない。

「ちょっ……貴大さん!?」

「貴大ひどい!」

 抗議する二人の声を断ち切り、戸を閉める。

 押し込めるとき、シェリムの胸を触ったが、出てくる頃には覚えてないだろう。

 さて、俺は布団に入って、寝ていようか。

 もぞもぞと布団に潜り込んで目を閉じる。

「お兄ちゃん、朝だよ?」

 その瞬間、柚奈が入ってきた。

 俺は今起きたように、目を開く。

「ああ、うん……そうだな……」

 俺はゆっくりと起き上がる。

 部屋の入り口には柚奈が、既に学校の制服を着て立ってこっちを見ている。

「あれ? お兄ちゃん、起きてたの?」

 柚奈が首を傾けて俺を見る。

 傾いた首につられて、肩までのストレートの髪も傾く。

「え? なんで?」

「だって、お兄ちゃんって、もっと寝起き悪いよね?」

 す、鋭いな。

 さすが俺のことを親より知ってる奴だけはある。

「ん……まあ、起きてたんだけどな……柚奈が起こしに来るまで寝ていようかと思ったんだよ」

「そうなんだ、じゃバンザーイ」

 柚奈が言うので、俺は言われたとおり、万歳すると、柚奈が俺の来ているスエットの上を脱がす。

「はい、今度は下ね~」

 そして、スエットの下を脱がせる。

「じゃ、右から~」

 俺が右手を上げると、そこに制服のワイシャツの袖が通る。

 こうして俺はいつも通り柚奈に服を着せられた。

「じゃ、私は洗濯機回してくるから、ご飯出来てるから食べててね」

「ああ、悪いな」

 柚奈はにっこり笑って部屋を後にした。

 それを確認してから、俺は押入れを開けた。

「…………」

 そこにはノワールの口を押さえ、呆然としているシェリムがいた。

「ふにゃっ! この犬ひどい! あのね、貴大、この犬、ノワールの口を押さえたの!」

 ノワールが半泣きで俺に甘えてきた。

「そうか、でも押入れではおとなしくしてなきゃ駄目なんだぞ?」

 俺はその頭を撫でながら優しく諭す。

「ふにゃ~……」

 ノワールは俺に甘えたら、もうどうでもよくなったのか聞いてなかった。

「…………」

「どうしたんだシェリム? 隙のあるふりをして、俺にくすぐって欲しいのか?」

「やめてくださいっ!」

 呆然としたままのシェリムに声をかけたら怒られた。

「あ、あの、私は壁を通して見ていたのですが……」

 シェリムがまだ少し信じられないという顔で俺を見ていた。

「いつも、あんなことをされているのですか?」

「何がだ?」

「その……着替えとか……」

「見てたのかぁぁぁぁっ! 自分だけ見やがって! お前も着替えろぉぉぉぉっ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺が感情に任せて、思いっきりワンピースのスカートをまくり上げると、再び吹き飛ばされた。

 ちなみにパンツはセクシーな黒だった。

 痛いけど、それが見られただけで満足だった。

「ううっ……! もういやぁ……」

 泣きながらしゃがみこむシェリム。

 神とはいえ女の子だ、悪いことをしたかな。

「ごめん、さすがにやりすぎた」

 シェリムはじっと俺を見て、俺の反省を確認している。

「……分かってくれるならいいです」

 シェリムは涙目のまま立ち上がる。

「ねえねえ、ノワールならやってもいいよ?」

 ノワールがばっさばっさとミニのスカートを上下しながら言う。

「そうか! さすが俺の育てた猫! じゃあ早速──」

「させませんっ!」

 俺とノワールの間に、シェリムが立ち塞がった。

「何でだよ、ノワールがさせてくれるって言ってるし、合意の上の行為だぞ?」

「あの悪魔が合意してません! 悪魔が合意しない限りさせませんっ!」

 シェリムにきっ、と睨まれる。

「なんでお前が悪魔の味方するんだよ? お前の敵だろ?」

「敵ですけどっ! 女の子の身体が陵辱されていくのを見てはいられませんっ! 神ですから」

 そう言われると、何とも言えない。

 合意の上なのに女の敵扱いされてちょっと傷つく。

 俺はノワールの着替えを諦めた。

 俺もノワールもがっかりと肩を落とす。

「で、何の話だっけ?」

「……もう、とっくにどうでもいいのですが……貴大さんはいつもあの女性に着替えさせてもらっているのですか?」

「そうだけど?」

「…………」

 俺が答えると、シェリムがうわあ、という感じの表情をする。

 ん? 何か俺、おかしいのか?

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