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第十一節

「シェリム、アヴィーラが苛める!」

「きゃぁぁっ! 抱き着いてこないでください! せめて服を──きゃぁっ! 脱がさないでください!」

 シェリムは俺の抱擁から必死に抵抗する。

「なんだよみんなして俺をのけ者にして! 分かった、出て行けばいいんだろ?」

「ワンピースとメイド服を持って行かないでください!」

「メイド服は俺とブランシェの愛の結晶だ! お前なんかに渡すか!」

「それは勝手ですが、でしたらワンピースを置いていて行ってください!」

 シェリムがワンピースの袖をつかむ。

「こらっ! 破れたらどうするんだ!」

「それで困るの私だけですよね!?」

「分かった分かった、ほら」

 俺はワンピースから手を放す。

 シェリムは急いでそれを頭からかぶる。

「聞いていたなら仕方がないわね、もう女の子に──」

「何のことだ?」

「え?」

「いや、俺はそろそろ着替え終わったかと思って来たばかりだから、何喋ってたかなんて知らないぞ?」

「え、でも、さっき『話は終わったかね?』って入って来ましたけど……?」

「話してて、それが途切れたから終わったのかなと思っただけだ」

 俺はこの手の言いわけならいくらでも言える。

 伊達に柚奈とずっと一緒に暮らしてるわけじゃない。

 命がけだからな!

「ま、聞かれても大して困らないけどね」

 アヴィーラがふん、とない胸を張る。

「ところでシェリム、尻は大丈夫か?」

「え? いきなりなんですか?」

「いや、さっき渾身の力でカンチョーしたからな、痔になってなければいいんだが」

「あ、あれは、大丈夫です! とても痛かったですが、もう大丈夫です」

 シェリムが尻を押さえながら、赤い顔で言う。

「まあでも、一応念のため、怪我してないか確認しておこうか。ほら、穴尻出せ?」

「結構ですっ!」

「いいから!」

「きゃぁぁぁっ!」

 俺が強引にシェリムをうつ伏せてスカートをめくろうとすると、またあの力で吹き飛ばされた。

「いてててて……俺は善意で言ってるんだぞ? 若くして痔になったら大変だろ?」

「それくらい治せますし、この身体はそもそも犬のものですっ!」

「ブランシェをかえせぇぇぇぇぇっ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 いきなり脇の下に手を突っ込んでやったが、即座に吹き飛ばされた。

「とにかく! あなたはさっさとご飯食べて学校に行ってください!」

「今日は休みだ!」

「ええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 涙が出そうな声で叫ぶシェリム。

「無理です! こんなモンスター一日中相手にしていらせません!」

「ま、頑張って。魔力使ってでも止めなさいよ!」

「うう……分かりました……」

 シェリムはしぶしぶ了承する。

「う……そろそろね……」

 アヴィーラが自分の身を抱き、少し苦しい表情をする。

「くっ! じゃあ任せたわよ!」

「……分かりました。かなり不安ですが。魔力の続く限り頑張ります」

 アヴィーラはその言葉を聞き、満足そうに目を閉じる。

「ふう、ではノワールの起きて来る前に、シェリムへのセクハラだけは済ませておくか」

「なんでですかっ!?」

「悪いな、これも決まりなんでな」

「決まってません! 私の1メートル以内に近づいたら容赦しませんよ?」

 シェリムが威嚇しつつ俺と距離を取る。

 その姿は、悠然とした神のそれではなく、痴漢に相対して「大声上げますよ?」と言ってる女の子のそれだ。

「それでもだ!」

 俺は仰向けになり、滑るように畳床を這い、シェリムに突撃する。

「え? きゃぁぁぁぁっ!」

 地面を寝そべっていくという事は、例の吹き飛ばす魔法が使いにくい。

 いや、対処が分かってしまうと、対応できてしまうので、一度しか通用しない。

 だが、その一度は、最高のものにしたい。

 虚を突かれたシェリムの隙を狙って、俺の頭部は狙い通りシェリムのワンピースの下に潜り込む。

 ワンピースを下から見上げる格好の俺がそこに見たものは、ブランシェのために買った白いパンツと、白い足があった。

 無駄毛の一つもないつるつるの足の先には、確かにアヴィーラが選び、俺が買ったブランシェ用のパンツがあった。

 シンプルな白だが、アヴィーラのこだわりが盛り込まれた逸品だ。

 パンツのラインを消すため、境界線が簡易なレースとなっていた。

 それはシェリムの長い脚の分だけ俺から離れていた。

 もっと近くで見たい。

 だが、起き上がると、吹き飛ばされる。

 そんなジレンマが俺を襲う。

 だが、幸運の女神は、この女神ではなく、俺に微笑んだ。

 思いがけない俺の動きに動揺したシェリムは、俺に足首を掴まれたことに驚いて、しゃがみ込んだのだ。

 そう、しゃがみ込んだのだ。

 当然、シェリムの尻と股間の真下には俺の顔面がある。

「え? あっ! きゃぁぁぁぁっ!」

 柔らかく暖かい弾力が俺を包む。

 尻に体重を預けてしまったシェリムは慌ててすぐには立つことが出来ず、俺の顔の上で動揺していた。

 その筋肉の動きが俺の顔に伝わってくる。

 俺はそこで思いっきり深呼吸をした。

 オウ、スィーツ。

 なんだかシェリムの匂いを濃厚にしたような香りが俺の肺を埋め尽くす。

「うわぁぁんっ! なんか吸われたぁぁぁっ! もう嫌ぁぁぁっ!」

 泣きながら這って逃げる、おそらく女神。

「さて、日課もこなしたことだし、そろそろノワールを待つか」

「セクハラを日課にしないでくださいっ!」

 号泣寸前の涙目で俺を睨むシェリム。

 シェリムは何としかして俺に仕返しをしようと企んでいる顔をしている。

 もちろん、仕返しされたら倍返しするし、シェリムもそれが分かっているから実際には攻撃してこない。

「にゃあ?」

 そんな意味のない緊張感の中、俺を癒す声が聞こえた。

「ノワールッ!」

 俺は次の瞬間シェリムのことを一切忘れてノワールを抱きしめた。

「にゃぁぁ、貴大!」

 小柄なノワールは、一瞬緊張したように身を固めたが、相手が俺と分かると力を抜いて、自分からも甘えてきた。

 小っちゃくても柔らかいノワールの身体を全身で堪能する。

「今日はずっとノワールと遊ぶぞ?」

「にゃぁ! 貴大と遊ぶ!」

 ノワールはぎゅっと抱きしめ返してくる。

「とりあえずは朝風呂だ!」

「うんっ! あさぶろ!」

 俺とノワールが連れ立って風呂に行こうとする。

「とっ、止まってください!」

 それをシェリムが両手を十字にして止める。

 なんという脇の甘さだ。

 俺は迷わずそこに手を差し入れた。

「俺が止まれると思うかぁぁぁぁぁっ!」

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

「くおっ!」

 俺は思いっきり吹き飛ばされた。

 柱にぶつかった俺は、背中に激痛を感じる。

 痛い、だが後悔はない。

 俺は昨日から脇の下フェチになったのだ。

 女の子の脇の下に手を入れられるなら、死んでもいい!

「で、何だったっけ?」

「どうして何事もなく話が進められるんですかっ!」

「何事もなかったからな」

「……私が正式に神になったら、一番最初にあなたに天罰を加えますっ!」

 半泣きで怒るシェリム……ん?

「お前ってまだ神じゃないのか?」

「神ですけど、まだ子供ですから、何かを司る神ではありません」

「ああ、そんなこと言ってたな。だから神通力みたいなものもないと」

「一般的に全ての神が持つ力は持っています。ですが、何かを司れば、その方面で特に優れた能力を発揮します。それこそ人の運命を左右するような力を持ちます」

 シェリムは右手を胸に当てて、自慢げに言う。

 まあ、つまりこいつは神見習いってところかな。

「私は新世代の神として、時代に合った何かを司ることになっています」

「それって、戦神は無理って事じゃないか? この軍縮時代に」

「ふんがー!」

「いてぇっ!?」

 シェリムが突然襲いかかってきて、俺の腕を噛んだ。

 どことなく品のある女の子だと思っていたので、この不意打ちは効いた。

「いてててっ! やめろって、離せって!」

 シェリムは興奮しているのか、目が尋常じゃない。

「ふぁふぁふぃふぁふんふぃんふぃふぁふんふぇふ!」

「何言ってるか分からないし、息が生暖かいからやめろ!」

 俺が言うと、何か反論しようとする顔をし、はっと我に返ったようで、俺から離れた。

「す、すみません……取り乱しました」

 シェリムは真っ赤になりながらうつむいた。

 こいつがいきなり切れるんだ、余程言われたくない事だったんだろうな。

「あー、うん。お前の夢を否定して悪かった」

 人として、夢を語る否定するのは駄目だろう。

 それに比べたら、セクハラなんて、何と軽い事か。

「……本当は無理だって分かってます。だけど、私は可能性が消えるまで、夢を見ていたいのです……」

「悪かったよ、戦神になれるとむぐう」

 シェリムを慰め、これから性的な慰めに移行しようとしてた俺は、いきなり口を口で塞がれた。

 いや、もちろんシェリムじゃない。

 そういうハプニングはそう珍しい事じゃなく、ギャルゲではしょっちゅうあるが、どうも今回はそうじゃないらしい。

 俺と、俺の前にいたシェリムの間には、ノワールがいた。

 近すぎてよく見えないが、この匂いはノワールだ。

 ノワールが俺に抱き着きながらキスをしていたのだ。

 おそらく何か意図があったわけじゃないだろう。

 しばらくほっとかれて、構って欲しくてやったに違いない。

 そういう女の子が嫌いかと言われれば全力で否定するが、あまりにもいきなりすぎるだろ。

 俺、こう見えてこれがファーストキスなんだぜ?

 まあ、ファーストキスをいきなり美少女に奪われるというのは、ある種、男の夢ではあるが。

 ふむ、そうだな、俺は今、とても幸せな状況なんだな。

 それならこのまま、身を任せよう。

 ノワールは貪るように俺の唇に吸い付き、甘えてくる。

 頬をノワールの鼻息がかかりまくってるが、まあ、そういうところも可愛いっていうか可愛い。

 小柄だが、全身が柔らかいノワールが、全身で俺に甘えてくる。

 ノワールのキスは長く、いつもなら止めるシェリムも止める気がないのか、まだ落ち込みから回復していないのか、割ってこない。

 そんな状態が延々と続くかと思われたが、三分くらいしてから、十分に満足したノワールが身を起こした。

「にゃぁぁ……」

 ごちそうを食べたような満面の笑みのノワール。

 唇を離してからもごろごろと甘えてくる。

「まったく、悪い子だな」

 俺は可愛い恋人に囁くような声でそう言って、ノワールを撫でた。

「にゃぁぁぁぁ♪」

「そういえば、ノワールはどこでキスを覚えたんだ?」

「あのね、貴大のゲームをずっと見てたの」

 ニコニコと笑いながらいうノワール。

 俺がやるゲームと言えば、まあ、九割九分ギャルゲーだ。

 それならキスが愛情表現だと思っているのもしょうがないな。

「そうか、それならもっと深い絆で結ばれる愛情表現を教えようか?」

「にゃあ! おしえて!」

「ストップです!」

 出て行こうとする俺とノワールを、シェリムが止める。

 今度は脇を警戒して、腕の位置は低い。

「なんだよ。俺はこれからノワールといちゃいちゃするんだぞ? お前も入りたいなら来るか?」

「結構ですっ!」

「結構ですは肯定だっ! ふごぉっ!」

 俺は飛びかかろうとして、既に完全に警戒していたシェリムに吹き飛ばされた。

「いててて……なんだよ、お前から『結構ですね』と言ってきたんじゃないか」

「言ってません! とにかく! 猫の子といちゃいちゃするのはあの悪魔も同意したからいいですが、一線を超えないように私も見張りますっ!」

「なるほど、見てる方が好きなのか」

「そんな趣味はありませんっ!」

 つまり、俺がノワールといちゃいちゃしてるのを、ずっとこいつが見てるって事か。

 おいおい、それって……。

 …………。

「……いいな」

「はい?」

「見られてたら、燃える」

「変態ですかっ!」

「まあ待て。これはとても赴き深い情景なんだぞ? 俺とノワールがいちゃいちゃする、それを恥ずかしそうにお前が見てる。お前は想像するだろう、ああ、あんなに優しく愛撫されたらどうなっちゃうんだろうってね。俺はノワールを可愛がると同時にお前も可愛がってるんだ」

「……はあ」

 腐った魚を見る目で俺を見ていたシェリムは、最後には腐った魚みたいな目で俺を見ていた。

「そういえばそろそろ柚奈が起きてくる時間だな」

「……えっと、さっき一度着替えてる時にここを開けて行きましたけど。今日は友達と出かけると言ってました。私は撫でられて、抱きしめられて、秘密は喋るなと厳命されましたし、悪魔の人が怯えてましたけどけど、何があったのですか?」

「あいつはお前をブランシェだと思ってるからな。秘密は俺が教えて欲しい。そうか、今日出かけるのか昼どうするかなあ。あ、とりあえずお前はブランシェってことで通してくれ」

「どうしてそうなったのか分かりませんが、分かりました」

「そうだな。そうしないと、毎日お前らを全裸で押入れに押し込むことになるからな」

「いやいややったみたいに言わないでください! それに押し込むときいつも私の胸を揉んでますよね!?」

「覚えてたのか!」

「当たり前です! 女の子がセクハラされてそれを簡単に忘れるとでも思ったのですか!」

「いや、それ以上のセクハラで上書いてるからさ」

「自覚があるならやめてくださいっ!」

「そう簡単には、やめられないんだよ……」

 俺は遠い目でそう言った。

「……とりあえず、適切な施設に相談しべきだと思いますよ?」

 いろいろなものを諦めたような表情でシェリムが言う。

「にゅわー」

 で、しばらく構ってやらなかったので甘えてきたノワールの頭を撫でてやる。


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