~異世界9日目・10日目~
3話目を更新です。夏季休業で色々忙しくなりますが、がんばって投稿していきます。
~異世界9日目~
盗賊を退治してから5日目の朝、光輝はアクアとエレキに起こされていた。
「お兄ちゃん、起きて。朝になった」
「コウキ、起きなさいよ。朝になったわよ」
「ん~……。今起きる」
美少女二人に起こされるというのは、ともすれば非常にうれしいことなのだろうが、このときの光輝はまだ眠気が残っていたようだ。
「ふぁ……。おはよ、アクア、エレキ」
完全に起ききっていない頭で、光輝は今日までにあったことを思い出した。
盗賊たちを退治してからというもの、光輝はバコンクを救った英雄になった。
たとえば、バコンクを治める長から、街を代表して謝礼金として大銀貨20枚、中銀貨300枚、小銀貨5000枚が渡されたり、光輝が演奏しているガルジオの居酒屋が大盛況したりと、色々と影響があった。それもいい方向で。
ちなみに、この世界には3種類の硬貨があって、銅貨・銀貨・金貨がある。
さらに、銅貨と銀貨は小・中・大、金貨は小・大にそれぞれ分かれている。それぞれの価値は10枚で次の硬貨になるという十進法だ。
光輝の地道な市場調査によって、小銅貨が日本円で1円に相当することが分かった。
そんなことを思い出しながら、光輝はこれからの旅について考える。
光輝たちは今日バコンクの街を出る。
目指すはハイノの街。エレキの提案もあるが、光輝も神殿というものに興味があり、楽しみにしている。
光輝は2人と一緒に朝食を食べ、出発することを告げるためにガルジオのところへ向かった。
ガルジオは光輝が去ることを惜しがったが、引き留めはしなかった。
そして、長から届いたという馬車と、ガルジオの店のいい馬を3頭、光輝に渡した。
光輝たちはバコンクの街の住人に見送られて街を出た。
ちなみに、御者は光輝がやっている。何でもそつなくこなしてしまう男である。
バコンクを出た3人は、北北東、ハイノに向かっている。御者台にいる光輝の隣にはアクアが座り、頭の上にはエレキが乗っている。
道々、アクアに奇跡の袋や天空神について尋ねる。
「なぁアクア、奇跡の袋ってなんだ?これ、見たところ普通の袋にしか見えないんだけど」
「奇跡の袋と言うのははるか昔に神々が作ったもので、容量は無限、重量も無視することができる。所有者にしか開けることができない」
「あ~、それ聞いたことがあるわ。昔、自然神様の奇跡の袋を無理やり開けようとして、動物たちに殺された男がいたのよね」
「マジか……。まぁ、天空神もずいぶん使える物をくれたもんだよな。それで、その天空神はどんな奴なんだ?」
「天空神様は星を司り、神々の中で唯一未来を知ることができる。性別は女性。信徒の数は8柱の中で一番少ない」
「なんか、能力と信徒の数に差があるな……」
馬車を操りながら溜息をつく光輝。
「信徒が少ない神を信仰したって、周りからとやかく言われることはないよな?」
「特にそんなことはない」
「もしかして、コウキ、天空神様を信仰するつもり?」
「ああ。まぁ、こっちに来て最初に会った神だしな。何となくだよ」
「そう。わかった」
と、そこにエレキが口を挟んできた。
「ねぇアクア。アクアはどの神様を信仰してるの?私はフェアリー族だから自然神様を信仰してるけど。あ、アクアはエルフ族だから私と同じ自然神様?」
「あ~、いや、エレキ……」
「お兄ちゃん、大丈夫」
光輝が話をそらそうとするが、アクアはそれを引きとめる。
「私は信仰を捨てている。里を逃げだしたから。けれど、今はお兄ちゃんがいるからそれだけでいい」
「アクア……」
「へぇ~。ずいぶん信頼されてるじゃない、コウキ」
その後、夕方近くまで馬車を走らせ、その日の移動は終わりになった。
近くの林で果物を採ってきて、街で買った食料と合わせて夕食となる。果物は光輝が木に登って採った。まったくもって器用な男だ。
夕食後、光輝が淹れたココアを飲みながら、2人が光輝の元の世界について質問していた。ほとんどがエレキの質問だったが。
「それでそれで、光輝のいた世界はどんなところだったの?」
「ん~、どう説明すればいいのか……。まぁ、特徴を挙げるとすれば、四季があることぐらいだな」
「シキ?なにそれ?」
「つまり、季節の移り変わりを4つに分けたものだよ」
「季節って、乾季とか雨季とかじゃないの?」
「こっちだとそうなのか?」
「この世界では1年のうち4か月が雨季、残りの8か月が乾季になっている」
「そうなのか。俺がいたところだと、温かい時期が3カ月、暑い時期が3カ月、涼しい時期が3カ月、寒い時期が3カ月あるんだ」
「え?それじゃあ雨はいつ降るのよ?」
エレキが疑問を口にする。
「雨は1年中、いつでも降るんだよ。まぁ、暑い時期になる前にまとめて雨が降るけどな」
「へぇ~。それじゃあ次の質問ね」
3人の会話はそれから1時間続いた。
やがて夜も更け、エレキが最後の質問をする。
「最後の質問よ。心して聞きなさいよ?」
「ああ。何でも来い」
「それじゃあ……。コウキって彼女いたの?」
「……っ!」
「は、はぁ!?何言ってんだよ!?」
「コウキの女性関係を訊いただけよ」
「お兄ちゃん、彼女いるの?」
「ん……。まぁ、いることはいるな、一応」
光輝の答えを聞いて目に見えて落ち込むアクア。一方、エレキは別のところに食いついた。
「ねぇ、一応ってどういうこと?」
「ほら、俺がこっちの世界に来ちゃったからさ、連絡が取れてないんだよ」
「ああ、そういうこと。なるほど」
納得したようなエレキ。
そのままアクアの下ところ飛んでいく。
「まぁ、頑張りなさいよ。こっちじゃ一夫多妻は当たり前なんだし」
「そ、そういうのじゃ……」
顔を赤くするアクア。
「それじゃあ、もう寝るか。焚火は獣除けにもなるし、残しておくか」
枯れ枝で作った焚火に数本枝を追加する光輝。
「寝るって言っても、どこで寝るのよ?」
「馬車の中に決まってるだろ?なぁ、アクア?」
「大きい馬車だから問題ない」
「アンタたちって……。まぁいいわ。さっさと寝ましょ」
エレキが呆れたように何かを言いかけたが、結局何も言わずに終わった。
そして3人は馬車に入り眠りについた。
~異世界10日目~
翌朝、光輝は馬車の外にある気配に気づいて目が覚めた。
「ん……。朝か……」
身を起こし、頬を軽く叩いて完全に目を覚ます。
隣を見ると、アクアとエレキがまだ眠っている。
光輝は気配の正体を調べるために馬車から顔を出した。と、火が消えた焚火のそばに狐の耳と尻尾の生えた18歳くらいの少女が寝ていた。
「あれって、獣人か?」
光輝が顎に手を当てて考えていると、後ろから声をかけられた。
「ん……。お兄ちゃん、どうしたの?」
「ふぁ……。よくこんな朝早くに起きられるわね、コウキ。私はまだ眠いわよ……」
振り返ると、アクアとエレキが眠そうな顔で光輝を見ていた。
「おはよ、アクア、エレキ。なんだか、外に獣人みたいなのがいるんだけど」
「獣人?」
「アクア、こんなところに獣人の村なんてあっかしら?」
「ほら、あいつ」
光輝は焚火のそばの狐少女を示す。
すると、じっと少女を見ていたエレキが声を上げる。
「コウキ、あれって九尾の狐じゃない!」
「九尾の狐?九尾の狐って人じゃないだろ?」
「フェアリー族は魔物に敏感なのよ。それに、九尾の狐は人の姿になれるのよ。けど、何でこんなところに……」
「お兄ちゃん、あの九尾の狐はいつからあそこに?」
「いや、俺もさっき起きたばかりだからさ、よく分からないんだよな」
と、話し声が少しうるさかったのだろう、狐少女が目を覚ました。
「ふみゅう……。っ、はわわ!」
急にあわてだす少女。
光輝は馬車から出てその少女のところに歩いていく。
「どうした?こんなところで野宿なんて、物騒極まりないぞ?」
「あ、えっと、その……。助けてください!」
「助ける?どういうことだ?」
「えっと、……」
少女が馬車の方を見やる。
光輝もつられて見ると、アクアとエレキが顔を出していた。
「ああ、2人は俺の仲間だ。アクア、エレキ、来てくれ」
「今行く」
「いぇ~い」
2人が馬車から出てくる。
「こっちのエルフ族がアクア。フェアリー族の方がエレキだ。で、おれが光輝」
「そ、それで、皆さんに頼みがあるんです。私、盗賊に狙われてるんです。助けてください!」
「狙われるって、どうしてまた」
「お兄ちゃん、九尾の狐は捕まえることができれば高い値で取引される」
「なんか密猟しようとするやつが後を絶たないって噂よ」
「ん~、よし。困ったやつを見たら助けるべし。盗賊を追い払えばいいんだな?」
「助けてくれるんですか?ありがとうございます!あ、わたし、アイスといいます」
「分かった。それじゃあ、アイスは馬車の中に隠れててくれ。アクアも一緒にいて、護衛だ。エレキは俺と一緒にここに来るだろう盗賊を迎え撃つぞ」
「分かった」
「ま、どうせマシなのはいないでしょうけど、せいぜいいたぶらせてもらうわ」
そして、アイスがアクアと一緒に馬車に入った数分後。5人の男が現れた。
「おい、そこのガキ!ここに狐か狐の女を見なかったか!?」
「さて、何の事だか。狐なんていないぞ」
「とぼけるんじゃねえぞ。お前がかくまってるだろうことはわかってんだ!大人しくしねぇと身の為にならねぇぞ!」
「まったく……。エレキ、やってくれ」
「オッケー。任せて」
エレキが魔法を発動させるのと、盗賊たちが襲いかかってくるのがほぼ同時だった。しかし、盗賊たちはエレキの足払いの魔法で次々と転んでいく。そして、そこにエレキの魔法が襲いかかる。
ぼろぼろになった盗賊たちは、命からがら逃げて行った。
「何なのよ、あいつら!もう少しまともに戦えると思ってたのに!」
「まぁ、どうせはぐれ者の集まりだろうな」
そう言うと、光輝とエレキは馬車に戻った。
「お帰り、お兄ちゃん」
「コウキさん、エレキさん、お帰りなさい」
「ん。それで、アイスはもう大丈夫か?」
「そのことなんですけど、その……」
アイスが言い淀む。
「わ、私をもらってくれませんか?」
一瞬の静寂。そして。
「……はぁ!?」
「あ、いえ、もらうってそういうことじゃなくって、私をコウキさんの随獣にしてほしいんです」
「随獣?アクア、何だそれ?」
「隋獣とは人に自らを託した魔物のこと」
「ああ、そっか。九尾の狐も魔物だっけ。でも、何で俺?」
「それは、その……」
と、アイスが口ごもる。
「あ~別に言いにくいことだったら言わなくていいから。それで、随獣にするのに何か儀式みたいなものは必要なのか?」
「特にないわよ。お互いが認めれば自然になるから。随獣はご主人様と契約を結んだことになるから勝手に逃げられなくなるけどね」
「よく知ってるな、エレキ」
「まぁね。魔物には詳しいのよ」
「それじゃあ、俺はアイスを随獣として認める」
「ありがとうございます。コウキさんの随獣として頑張らせていただきます!」
「これで随獣になったわ。よかったわね、アイス」
「はい!」
「それじゃあ、朝飯にするか。アクア、手伝ってくれ」
「分かった」
こうして、光輝たちの旅に新たな仲間が加わった。