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~異世界4日目~

 学校がようやく終わりました。これで執筆作業に集中……できるかな?

 前回よりちょっと長めです。

      ~異世界4日目~

 2人の旅は順調に進んだ。

 道中、光輝が異世界からきたことを話したが、アクアはすんなりとそのことを受け入れた。

 光輝のことを信頼しているからだろう。

 光輝がアクアに「お兄ちゃん」と呼ばれるようになった日から森の中を2日、森を出たところにある街道を進むこと2時間。そこにバコンクの街があった。

「結構距離があったな。でもまぁ、歩けない距離ではないな」

「そう。それでは、ガルジオさんの所に行く」

「そうか。それじゃ、行くとするか」

 2人はガルジオが経営する居酒屋に向かった。


 ガルジオの店に着き、まだ異世界の言葉がわからない光輝に代わってアクアが交渉を始める。

 最初は光輝を怪しんでいたガルジオだったが、光輝が自分のリュックから取り出した楽器、ハーモニカとオカリナを吹くと、途端に態度を変えた。

「いや、すばらしい。コウキと言ったかね?彼の演奏は実にすばらしい。彼ほどの実力があるのなら雇うのに何の問題もない。さっそく今日から店に出てほしいと伝えてくれ。それと、2人には部屋を用意しよう」

「ありがとう、ガルジオさん」

「いやいや。アクア、君が連れてきてくれたコウキという男にはとても期待しているよ。礼を言いたいのはこっちの方だ。それより、アクア」

 と、声をひそめてアクアにしか聞こえないように言うガルジオ。もっとも、光輝にはこの世界の言葉は理解できないのだが。

「いつの間に彼氏なんてできたんだ?しかもヒト種」

 途端にアクアの顔が真っ赤になる。

「ち、違う!まだそんなんじゃ……」

 目をそむけ、言い返す語尾ははっきりとは聞き取れない。

「はっはっは。まぁ、がんばれ」

 そう言ってガルジオは、光輝とアクアが当分の間寝泊まりする宿の場所を告げ、鍵を渡した。


 宿に向かう途中、光輝がアクアに話しかけた。

「なあ、アクア。これ、どう思う?」

 光輝が取り出したのは1本の剣である。錆もなくまだ使えそうなものである。長さが150センチもあり、持ち歩くのにとても不便そうだ。

 光輝はこの剣を森の中で拾った。

「私には普通の剣にしか見えない」

「まぁ、そうだよな。魔剣とか伝説の剣とかがそこら辺に落ちてるわけないよな」

 などと話しながら歩きつつ、剣を見る。

 と、そこには羽根を生やした小さな少女が映っていた。

「なっ!?」

 光輝がとっさに振り向くと、剣に移っていた少女とまったく同じ少女がいた。

「あちゃぁ、しまったぁ……」

 その少女が呟く。

「はぁ。まさかだよね。私の不可視の魔法が解かれるなんて」

 魔法が解かれたことがよほど悔しかったのだろう。

 一方、光輝はその少女を見て驚いている。

「アクア、こいつってフェアリーか!?」

「そう。けれど、フェアリー族は普通人里に姿を現さないはず。こんな街中にいるのは珍しい」

「そうなのか。まぁ、俺に何かしそうだったから、部屋に運んでとりあえず訊くか。アクア、眠らせられるか?」

「簡単」

 アクアがフェアリーの少女に魔法をかけて眠らせると、光輝はその少女を手のひらに乗せて宿に向かった。


 宿にて。

 光輝とアクアは持っていた荷物を置き、部屋を見回した。

 特に広くはない、2人用の部屋だ。

 部屋に置いてあるテーブルの所に座り、フェアリーの少女をテーブルに置く。目をこすっていて、ちょうど寝起きといったところだろう。

「さてと。アクア、このフェアリー少女から話を聞き出してくれ」

「分かった、お兄ちゃん」

 そしてアクアはフェアリーの少女に質問を始めた。

「質問をする。まず、あなたの名前は?」

「名前?私はエレキ・ルートシア。フェアリー族出身の19歳よ」

「そう。それでは次に、あなたはお兄ちゃんに何をしようとしていたの?」

「お兄ちゃん?そのヒト種の男が?へぇ、エルフとヒト種の兄妹ねぇ。まぁいいわ。あいつに何をしようとしていたか、だっけ?それなら答えは簡単。いたずらよ、いたずら。たんに驚かせようとしただけよ」

 まぁ、失敗しちゃったけど、と呟くエレキ。

「なぁ、アクア。こいつ、なんだって?」

「彼女はフェアリー族出身で、名前はエレキ・ルートシア。19歳。お兄ちゃんに何をしようとしていたかというと、ただのいたずら。

 その答えを聞いて光輝は思わず脱力する。

「は?いたずら?何でまた」

「フェアリー族は総じていたずらが好き。彼女は偶然目に付いたお兄ちゃんにいたずらをしようとしたのだと思う。ただ、フェアリー族は住処を出るときは必ず不可視の魔法を使っているから普通は気がつかないはず。お兄ちゃんはどうやって気が付いたの?」

「えっとだな、確か剣をふと見たときにエレキが映ったんだが……」

「お兄ちゃん、その剣を見せて」

 アクアはそう言ったかと思うと剣を手に取り、柄に巻いてある古びた布を解いた。

 すると、いつもは無表情なアクアが驚きの表情を浮かべる。

 普段は見せない表情の変化に不安になったのか、光輝はアクアに声をかけた。

「なあ、アクア。どうしたんだ?その剣がどうかしたのか?」

 しかし、アクアは返事をしない。どうやら放心状態になっているらしい。

「アクア?大丈夫か?」

「あ、お兄ちゃん。ごめん」

 光輝が軽く肩を揺すると、何とかアクアが気が付いた。

 そして、衝撃の事実を口にした。

「お兄ちゃん、この剣は普通の剣ではない。この剣は古の剣の1つ、魔喰いの剣」

「古の剣、っていうのはまぁ、そのまんまなんだろうけど、魔喰いの剣、ってのはなんなんだ?」

 光輝が疑問を口にする。

「この剣には特別な力があり、この剣に対する攻撃、魔法の行使、その他あらゆる全ての干渉を吸収する。そして、魔力を流して剣を振ることによって、純粋な魔力の刃を飛ばすことができる。それが名前の由来」

「あ~っと、エレキの不可視の魔法が効かなかったのも、この剣の効果か?」

「そう。この剣を通してお兄ちゃんが見たから」

「そっか。で、もう1つ。魔法の行使は今ので分かったけど、攻撃とかはどうなるんだ?衝撃が吸収されるのか?」

「少し違う。剣や刀など武器を用いた攻撃の場合、衝撃を吸収するだけでなく、相手にそのまま衝撃を返す。ちなみに、魔法の行使など物理的な干渉でない場合は、魔喰いはその記憶を蓄積し、使うことができる」

「ということは、雷の魔法を吸収していったら、雷をまとった剣に出来るのか」

「そう」

 と、剣について話していると。

「ちょっとー!私のことを無視しないでよ!」

 エレキが羽根をパタパタとはばたかせて2人の目の前を飛びまわる。

 そんなエレキにアクアが対応する。

「あなたはこの剣の文字が読める?」

 そう言って剣の柄に刻まれている文字を見せる。

「ん~、これは精霊語ね。……って、魔喰いじゃないの、これ!ほ、本物!?どこで手に入れたのよ、これ!」

「おそらく本物だと思われる。実際にあなたが使っていた不可視の魔法を吸収した。手に入れたのはプンペノンにある森の中」

「なるほどね。だから私のことに気が付いたのね、あの男は。ん?ということは、あの男は剣の所有者?」

「そういうことになる。そして、お兄ちゃんにはイシダコウキという名前がある。私はアクア・クラウディア」

「ふ~ん。見たところ、アクアだっけ?アクアたち2人は旅をしてるみたいだけど、どこに行くつもり?」

「目的地はない。ただ西に向かって旅をしている」

「そう。へぇ、西に、ねぇ。おもしろそうね」

「何?」

「ねぇねぇ、私も連れて行ってくれない?」

「……どこに?」

「決まってるじゃない。アンタたち2人と一緒によ」

 エレキのその物言いに、しばらく言葉を発することができなかったアクアだが、自分には理解できない会話に不安になった光輝がアクアを復活させる。

「アクア、何の話をしてるんだ?」

「えっと、お兄ちゃん、彼女は私たちの旅について来たいって」

「つまり、一緒に旅をしたいと、そういうことなのか?」

「そう」

「う~ん。まぁ、いっか。旅は人数が多いほうがいいからな。よし。その、エレキ・ルートシアだっけ?エレキに了解したって伝えてくれ」

「わかった」

「あ、そうだ。こっちの世界の人間が増えるからさ、こっちの言葉、あとで教えてくれよな?」

 光輝の願いなら二つ返事で了解するアクア。それでも、光輝と2人で日本語を話すのも楽しみなのに、とほんの少し顔に出る。

 そんなアクアの心の内を知ってか知らずか。

「日本語は俺とアクアの秘密の言葉にするか」

 と光輝が言う。

 これにはアクアも喜び、上機嫌でエレキに話す。

「あなたの願いは聞き入れられた。旅に同行してもいい事になった」

「本当に!?きゃっほ~!これで今までの退屈な生活から解放される~」

 どうやらエレキ、これまでの生活はとてもつまらなかったのだろう、とても喜んでいる。

 こうして光輝の旅は2人から3人になったのだった。



 夕方、光輝はアクアやエレキと一緒にガルジオの店に向かった。

 ちなみに、3人の立ち位置はと言うと、光輝の右側にアクアがいて腕をとり、エレキが光輝の頭の上に乗っている。

 さて、ガルジオの店に着いた3人。この場合の店とは、居酒屋の方である。光輝はガルジオに挨拶をすませ、開店前の居酒屋で早めの夕食を作ってもらった。今はその夕食を食べているところである。

「なあアクア」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 光輝の呼びかけに食事の手を止め光輝の方へ顔を向けるアクア。

「この剣だけどさ、どうしたらいいと思う?俺が持ってて平気か?」

 魔喰いを示す光輝。

 アクアは小首をかしげる。

「……?どういう意味だか説明してほしい」

「つまりさ、この剣を元の持ち主に返した方がいいんじゃないか、って思ったんだけど」

 光輝が説明する。しかし、アクアは首を横に振る。

「魔喰いは持ち主を選ぶ。お兄ちゃんが拾ったということはお兄ちゃんが魔喰いの所有者になったということ」

「……なあ、所有者になったからって、何かしなきゃならないってことはないよな?」

「もちろん何もない。ただ、魔喰いを持っていると知られると盗賊などに狙われやすくなる」

「それなら、ばれないようにしないとな。それと、剣を触れるように鍛えた方がよさそうだな」

 それからは、アクアの通訳を交えて3人で雑談をしながら食事をした。

 ついでに、エレキは光輝から分けてもらったものを夕食としている。

 そして食後。ガルジオがやって来た。

「さて、あと5分位で店を開けるから、コウキ君はステージの方で待っていてくれ」

 アクアが通訳し、それを聞いた光輝はステージの方に向かう。アクアもそれに続き、エレキは飛んでついていく。椅子を2つ用意し、光輝とアクアはそこに座る。そして待つこと数分、客が店に入って来た。

「よお、ガルジオさん。今度は男女のペアを雇ったのか?」

「いや、違う。楽器をやるのは男の方だよ。コウキといってね。なかなかの腕前だよ。違う地方の出身らしくてね、隣の女の子が通訳をしているらしい」

「ふぅん。……ん?あれはエルフか?何でまたエルフとヒト種が一緒に」

「それはなんだか聞きづらくてな……。ああ、そうだ。それに、よく分からんが、おもしろいのがもう1人いるぞ」

「どこにいるんだ、おもしろいのって?」

「ほら、男の方の頭の上を見てみろよ」

「んん?……な、まさか、あれってフェアリー族か!?」

「おそらくそうだろうな。まったく、すごい男を雇ったもんだ」

「ま、俺はいい音楽を聴かせてくれりゃ、それでいいんだけどな」

 そう言って、客は席に着いた。

 そんなこんなで十数分。店の席がほとんど埋まった。

 客たちは料理を食べ酒を飲み、音楽が始まるのを今か今かと待ちかまえている。

 と、そこにガルジオが現れた。

「さて皆さん、今日は新しい楽士が来ています。紹介しましょう。コウキさんです」

 と、客たちの視線がステージにいる光輝に集まる。光輝は立ち上がり礼をする。

「コウキさんは旅の途中でこのバコンクの街に寄ったそうです。扱う楽器は私も始めて目にするもので、ハーモニカとオカリナという楽器だそうです。それではどなたか、曲の注文をどうぞ」

「それじゃあ……」

 そして演奏が始まった。


 およそ2時間。光輝は途中に休憩をはさみながら演奏をして、今日の仕事が終わった。

 こうして1日目の仕事を終え、ガルジオから日当をもらって宿に戻った。

 その途中。

 アクアは光輝と出会ったいきさつをエレキに話した。光輝が異世界から来たということも。

「ねえアクア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「アクアはコウキのことをどう思っているの?」

「お兄ちゃんはお兄ちゃん。とても優しいヒト」

「違うってば。コウキを異性としてどう思っているか聞いてるのよ」

「……別に」

「ふぅ~ん。それなら」

とここでエレキは意地の悪そうな笑顔を浮かべ、続けた。

「私がコウキをもらっちゃおっかな~」

 すると、アクアの顔が一気に赤くなった。

「あ、それは、その、やめ……」

「ふふっ。冗談よ。頑張ってね」

 いたずらが成功したとばかりに、機嫌がよさそうにくるんと旋回して光輝の頭の上に乗った。

 やがて、三人は宿に着いた。

 夕食はすでにガルジオのところで済ませてある。

 三人はこれからの旅について話し合った。

「さて、と。次の行き先なんだが、この近くにこの国の歴史とか、魔喰いについて書かれた資料が保存されてるところはないか?」

光輝がアクアとエレキの2人に訊く。エレキはアクアの通訳入りで。

「う~ん、私は知らないわね。アクアは何か知らない?」

「確か、ここから北北東に、馬、もしくは馬車で4、5日のところにあるハイノという街に行き、そこからさらに西へ約10日のところにあるカズマトンという街にならそういう施設があるはず」

「そうか。だったら次はハイノ、そしてカズマトンだな」

「わかった。そのように記憶しておく」

 旅の行き先が決まった。と、そこでエレキが提案をした。

「それなら、ハイノには職業神の神殿があるのよ。ハイノは素通りせずに神殿によって行きましょうよ」

 エレキが観光的な雰囲気でそう言った。

「職業神の神殿ってなんだ?」

 アクアの通訳を聴いて首をかしげる光輝。その質問にアクアが答える。

「職業神とはこの世界で信仰されている神々の1柱で、職業を司る神。他には戦いを司る戦闘神や全ての神々を統べる主神など、8柱いる。そしてその神々を祀っているのが神殿。職業神の神殿では新たに職業に就いたり、職業を変更したりできる」

「へぇ。そんなところがあるのか。あ、そうだ。アクア、俺も職業に就けるのか?」

「もちろん就ける。そもそも、職業神の神殿で就ける職業は戦闘向けの職業だけ。ヒト種は元から戦闘能力を持っているわけではないので、神殿を利用するのはほとんどがヒト種」

「そうか。だったらおれも何か職業に就いていた方がいいか」

「職業に就くのは自由。お兄ちゃんの好きなように決めてほしい」

「ああ。ハイノに着くまでに決めておく……」

 と、いきなり光輝が指を口に当てて静かにするように指示した。

「お兄ちゃん、何かあったの?」

「どうしたのよ、コウキ?」

「どうやら、街が襲われているらしい」

 戸惑う2人に、光輝が言葉を発する。

 驚いた2人が耳を澄ませると、東の門の方から微かに叫び声や武器の触れ合う音が聞こえてくる。この宿は東の門に近いから聞こえるのだろう。

「さてと、どうするかな。魔喰いを試してみるべきか」

 光輝が剣を手に取る。

「お兄ちゃん、街を襲う規模ならば相手は大人数。危険」

「そうよ。あぶないわよ!」

「いや、それでも、だ。試運転っていうのもあるけど、滞在している街くらいは手助けしないとな。アクア、エレキ。俺は行くけど、2人はどうする?」

 光輝は2人に問いかける。

「お兄ちゃんが行くのなら私も行く。お兄ちゃんの援護をする」

「私も行くわ。久しぶりに暴れられるしね」

 そして3人は東の門の方へ走って行った。


「おいおい、マジかよ……」

 光輝が呟いた。それも当然のことで、東の門はすでに街を襲った盗賊団と思われる集団の手に渡っており、バコンクの防衛側が内側にバリケードを作ってかろうじて膠着状態になっていたからだ。

 光輝は盗賊たちに囲まれている近くに近づいたものの、追い返す方法が思い浮かばず、路地に身をひそめていた。

「どうするかな……。これじゃあ何もできないな」

「大魔法で押し返す?」

「いや、よくわからないけど、それって周りに被害が大きいやつだろ?そんなのは今は使わない方がいい」

「そう……」

「私はあんまり攻撃魔法は得意じゃないのよね……」

 と、そのとき、光輝たちが隠れている路地に十数人の盗賊たちが現れた。

「やばっ!」

「おっと、こんなところにガキがいるじゃねえか。おい、捕まえるぞ!」

 盗賊たちが光輝とアクア、エレキに襲いかかる。

 幸いにも、路地はそこまで広くなく、人数で囲まれることはない。

 しかし。

「はぁ、はぁ。おい!なんだこいつら!?もっと応援呼んで来い!」

 光輝の魔喰いとアクアの攻撃魔法、エレキの撹乱魔法を受けて盗賊たちは攻めきれずにいるが、続々と応援が集まり、中々終わることがない。

 と、エレキが声を上げる。

「コウキ!後ろに回り込まれたわ!」

「なに!?」

 見ると、路地の反対側からも盗賊たちが集まってきた。

「マジか……これはヤバいな」

 と光輝が呟いたとき、光輝を頭痛が襲った。

「がっ、ぐあぁぁ!?」

 そして、アクアとエレキ、盗賊たちは信じられないものを目にする。

 光輝が宙へ浮かび上がった。

 盗賊たちはその光景に呆然とし、動きが止まった。

「お、お兄ちゃん……?」

 アクアが呟く。その瞬間。

「うあぁぁ!?」

 光輝の体が光り、衝撃波が飛び、盗賊たちを吹き飛ばす。

 不思議なことに、衝撃波はアクアやエレキにはかすりもせずに盗賊たちを目指して飛んでいく。

 そして、光輝が口を開いた。ただし、その口から出た言葉は光輝のものではなかった。

「ふぅ。下界は相変わらず騒がしいわね。まぁ、別にいいわ。あなたたち、アクア・クラウディアとエレキ・ルートシアだったわね?あなたたちと一緒にいた、この男の体を借りた者として名を名乗るわ。私は星を司る神、天空神よ。偶然ここを天界から見ていたら、何とも降り心地が良さそうな男が死にそうだったから、思わず降りてきちゃったわ。ま、この男がやろうとしていたことを助けるくらいならしてもかまわないでしょう?」

 そう言うと、光輝……天空神はさらに高く飛び上がる。

 その姿を見て、盗賊たちは動揺をする。やがて、今空を飛んでいる男が十数人もの盗賊を一蹴したという情報を知ると、我先にと外へ逃げ出す。

「ふふっ、逃がさないわ」

 そう言って、天空神の右手が盗賊たちに向けられる。

 すると、何の前触れもなく盗賊たちの上に黒い球体が現れ、次の瞬間には盗賊たちを呑み込んでいた。

「また来世で会いましょう。もっとも、あなたたちに来世があれば、だけれど」

 天空神は随分と物騒なことを言って地上に降りてきた。

「この男は返すわ。天界に持って帰りたいくらいだけど、あなたたちから奪うわけにもいかないし」

 そして光輝の体が再び光った。

「……ふぅ。実に奇妙な感覚だったな。意識はあるのに自分で体を動かせない。それでいて体は動いているなんてな。それにしても神様ってすごいもんだな。空に浮かぶのなんて初めてだし。……って、そりゃそうか」

 そんなのんきなことを言う光輝に、心配して話しかけるアクアとエレキ。

「お兄ちゃん大丈夫?」

「大丈夫なの、コウキ!?神様を降ろすなんて相当負担がかかるんじゃないの!?」

「ああ、大丈夫だ。問題ない」

 宥めるように言う光輝。と、何かに気が付いたような顔をする。

「あれ。俺っていつからエレキの言葉がわかるようになったんだ?」

 光輝が呟くように言うと、どこからか天空神の声がした。

『ああ、それはたぶん、私があなたに降りたからだと思うわ。短い時間とはいえ、神である私が降りたのだから、それだけ影響があったということよ。ああ、それと、あなたに一つ贈り物をしたわ。腰についているその袋は、下界では奇跡の袋と呼ばれているものよ。袋の口に下界での私の象徴の星が刻まれているわ。これからの旅に役立つと思うから大切にしてね』

「天空神か?どうして俺らの旅のことを知ってるんだ?」

『それは、天界にいれば知らないことなんて何もないのよ。連れの人を大切にね』

 天空神の言葉が終る。

 そして辺りが一瞬静寂に包まれ、街のあちこちで盗賊が消えたことに歓喜の声が上がった。

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