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信号機の枝

作者: 黒うさぎ

夏休み。

「今日から夏休みね。お友達と遊びに行かないの?」

私はテレビのコマーシャルで出てきた遊園地に夢中です。

お菓子を手に持ったまま、ただ目をパチクリ、パチクリとさせていました。

「遥ー、聞いているのー?」

台所からお母さんがこちらを覗いています。

「ねぇねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「夏休みなのに、うちはどこも行かないの?アキちゃんのおうちも、キョウコちゃんのおうちも、家族みんなで海やハワイに行くんだって。うちもどこかに連れて行ってよ」

「そうねー…」

お母さんは困ったような顔をして台所へ戻って行ってしまいました。

お皿を洗っているお母さんの周りをうろうろしながら、どうにかして、さっきテレビで見た遊園地に連れてって行ってはもらえないか考えていました。

「宿題もちゃんとやるし、おつかいだって毎日行くから」

「ねー、お母さん、お願い」

お母さんは、にっこり笑って全然違うことを言いました。

「天気もいいんだし、ごはんの時間まで公園で遊んでらっしゃい」

私はすぐに連れて行ってもらえないことがわかりました。

どこにも行けない現実に打ちひしがれながら、ソファに寝転んで天井をみつめていると、電話が鳴りました。

忙しそうなお母さんが言いました。

「遥ー、ちょっと電話出てー」

私は、これ以上ないってくらい、にやにやして言いました。

「出たら遊園地連れて行ってくれる?」

「もう、しょうがない子ね」

お母さんは濡れた手を拭いて、自分で電話に出てしまいました。

「もう、しょうがない子ね」

母の真似をしながら、出ればよかったかなぁと、ちょっと後悔して見てみると、お母さんが電話を片手にこちらをチラチラ見ていました。

私、何か悪いことしたっけな。誰からの電話だろう。と、色々なことを考えながらテレビを見ているフリをしていると、電話を切ったお母さんが言いました。

「遥、ナオミおばあちゃんが遊びにおいでだって。どうする?」

電話が鳴る前までは、あれほど行きたかった遊園地のことなんて一瞬で忘れてしまいました。

「行くー!」

私はナオミおばあちゃんが大好きです。

「ねぇねぇ、お母さん。いつ連れて行ってくれるの?向こうに行ったらどれぐらいいられるの?お母さんも行くよね?あ、そうだ。おばあちゃんの好きなバウムクーヘン買って行こうよ」

息もつかずに話す私を見て、お母さんは呆れて笑っていました。



おみやげ。

私は、おばあちゃんに何かおみやげを持って行きたくて、その何かを探しに公園に出掛けました。

公園で目につくものなんてブランコやシーソー、アスレチック。

どれも持って帰れないものばかりです。

そんな存在感のあるものが見えないように、下ばかり向いて歩いていると何かに頭をぶつけました。

「あ゛っ」

痛かったのと、びっくりしたのとで、変な声が出ました。

見上げてみるとそこには大きな木がありました。

登れそうにもない、太くて大きな木でした。

「こんな木あったっけー?」

ひとり言を言いながらその木の周りをぐるぐる回ってみました。

「なんにもないなー」

口をとんがらがせながら帰ろうとした時、上から太い枝が降ってきました。

「鳥かなー」

木の上の方を見て、またひとり言を言いながら、その枝を拾って帰りました。

家に帰ると、早速引き出しの中身とにらめっこして、例の枝をどうしようか考えました。

リボンをつけてみたり、ぬいぐるみに持たせてみたりしましたが、納得がいきません。

頭を悩ませていると、お母さんの声がしました。

「遥ー、ごはん食べなさーい」

「はーい」

リビングに行くと、朝見た遊園地のコマーシャルがやっていました。

でも頭の中はおばあちゃんへのおみやげのことでいっぱいです。

そんな私を見たお母さんは、呆れて笑いながら言いました。

「遊園地はもういいの?」

「うん!」

あまりにも元気よく返事してしまった自分に照れ笑いをしました。

ごはんを食べて部屋に戻ると、学校から持って帰ってきた絵の具が目につきました。

この枝をきれいな色に塗ろう。そう心に決めた私はお母さんの所に行きました。

「ねぇねぇ、お母さん」

「今度はなぁに?」

またお皿を洗っているお母さん。

「おばあちゃんの好きな色って何色?」

「おばあちゃんはね、緑が好きだって言っていたわ」

「じゃあ、お母さんは?」

「うーん、お母さんは赤かな。どうして?」

「ううん、いいの!」

情報収集を終えた私は、新聞紙を敷いて図工の時間にはいりました。

おばあちゃんが好きな緑。

お母さんが好きな赤。

私が好きな黄色は真ん中。

私の大好きなふたりに挟まれている黄色が、とても嬉しそうに見えました。

色を塗り終えるとまるで信号機のようでした。

明日の朝には乾いているかな、きれいに乾くといいな。そんなことを考えているうちに眠ってしまっていました。



次の日の朝。

起きてすぐに枝を持つと新聞紙がくっついてきました。

「あれー、どうすればよかったんだろう」

悲しい気持ちをおさえ、ゆっくり、そーっと剥がしました。

「ちょっと汚れちゃったけどいっか」

枝を置いてリビングに行こうと振り返ると、にこにこ笑顔のお父さんがいました。

「おはよう。すごいな、遥が作ったのか?」

私は朝の挨拶も忘れて説明しました。

「うん。おばあちゃんにおみやげ作ったの。でも触ると手に色がついちゃうし、ここも新聞紙にくっついて汚くなっちゃったんだ」

それを聞いたお父さんは、とっても得意気な顔で、何も言わずに何かを取りに行きました。

戻ってきたお父さんは私にスプレー缶を渡しながら言いました。

「これをかけて乾かすと、絵の具は落ちないし、もっとピカピカになるぞ」

私はお礼を言うのも忘れて、必死に信号機の枝にそのスプレーをふきかけました。

「これでいいの?」

振り返るとお父さんは言いました。

「二、三日すれば完全に乾くだろうから、それまで絶対触るなよ」

ここにきてやっとお礼を言う余裕が戻りました。

「うん!ありがとう!」

お父さんと一緒に手を洗って、みんなで朝ごはんを食べました。

「ねぇねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「おばあちゃんのところ、いつ行くの?早く行きたいな」

お母さんはお父さんに聞きました。

「お父さん、今日行く?お父さんは土日を使わないと難しいわよね」

それを聞いた私は飛び上がりました。

「だめだめ!絶対だめだよ」

私は信号機の枝のことだけを考えていました。

すると、それを悟ったかのようにお父さんが言いました。

「お父さんはお仕事があるから、お母さんと二人で行ってきなさい」

お母さんは困ったような顔をしていましたが、私はとっても嬉しかったです。

ごはんを食べ終わると、私はお母さんにもまだ乾いていないピカピカの信号機の枝を見せました。

「すごいわねー」

と、優しく笑ってくれたのが嬉しくて、お母さんに何故枝をその色にしたのかを、何度も何度も説明しました。

お母さんは、何度も何度もうなずいてにっこり笑っていました。



お出掛けの日。

前の日の夜から用意してあったリュックサックを背負って、左手には完成した作品「信号機の枝」を持って、右手ではお母さんの手をギュッと握り締めて家を出ました。

お母さんとお出掛け。

新幹線。

おばあちゃんのおうちにお泊まり。

この日だけで楽しい絵日記が何枚も書けそうな、そんな日でした。

「ねぇねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「お母さんは、おばあちゃんのこと好き?」

「好きよ」

「どのくらい好き?」

お母さんは両手をいっぱいに広げて言いました。

「このくらい好きよ」

私は聞きました。

「それってどれくらい?」

すると、お母さんは少し考えてから言いました。

「遥の次に大好きよ」

私はそれを聞いてとっても嬉しかったのですが、ほんの少しだけ、お父さんがかわいそうだなぁと思いながら、新幹線から外の景色をずっと見ていたら、目がまわってクラクラして、お母さんに笑われました。

お母さんは新幹線で色んな話をしてくれました。

おばあちゃんの話や、お母さんのお姉ちゃんの話。

お父さんの話や、私が小さかった頃の話。

そんな話を聞いているうちに、おばあちゃんの住んでいる町に着きました。

駅を出ると、日傘をさしたおばあちゃんがこちらに手を振っていました。

「暑かったでしょ、よく来たね。うちに帰ってごはんにしよう」

おばあちゃんのおうちに向かうバスの中で

「はるちゃん、本当に大きくなったね」

と、何回も何回も言うおばあちゃん。

何故だかわからないけど、少し照れくさかったです。

おばあちゃんのおうちに着くと、おばあちゃんの作ってくれたごはんのにおいがプンプンしてきました。

「わー、おいしそうなにおい。おなかすいたね」

お母さんの方を見ると、お母さんもとても嬉しそうな顔をしていました。

私はおばあちゃんがごはんの支度をしている間に、リュックサックから洋服を引っ張り出して、探検バッグを作っていました。

おばあちゃんのおうちの近くには山や川があるので、おばあちゃんへのおみやげをもう少し増やそうと思ったのです。

探検の準備がちょうど終わった時に、おばあちゃんの声がしました。

「はるちゃん、ごはん食べよう」

「はーい」

私はリュックサックを持ってテーブルにつきました。

おばあちゃんのお料理は本当に美味しかったです。

お母さんのごはんは煮物や魚ばかり出てくるのですが、おばあちゃんのごはんはハンバーグやエビフライが出てくるので、いつもよりたくさん食べました。

みんなで楽しく食べていると、お母さんが言いました。

「遥、どうして荷物を持ってきたの?」

私は言いました。

「山とか川で探検するんだ」

お母さんは言いました。

「あんなにおばあちゃんに会いたがっていたのに、おばあちゃんと遊ばないの?」

私は言いました。

「すぐに帰ってくるよ。そしたらおばあちゃんと遊ぶの」

「いい?おばあちゃん」

おばあちゃんは優しくうなずきました。



探検開始。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい、夕ごはんまでには帰るのよー」

うちの近所の公園とは違う、大きな山と川。絶対に何か見つけて帰るんだ。

私は胸をドキドキさせながら、走り出しました。

山に行くと、見たことのない花がたくさんありました。

「こんにちは」

知らないおじさんとおばさんが挨拶してくれました。

そうだ。山では知らない人同士でも挨拶するんだってお父さんが言っていたっけな。

「こんにちは!」

私も元気よく挨拶しました。

お父さんがいなくても、山のルールを守れたような気がして、ちょっと大人の気分でした。

山を登りながら色々探しました。

でも、花を摘んでも萎れてしまうし、虫をあげたって喜ばない。

山での探検は終わりにして、川に移動しました。

山をおりて、少しおばあちゃんのおうちの方に行くと、川があります。

川に着くと、靴を脱いで川に入って遊びました。

小さくて可愛いさかながたくさん泳いでいました。

「可愛いなぁ、この子だったらおばあちゃんも喜ぶかなぁ」

私は新幹線に乗るときに買ってもらったジュースのペットボトルをきれいに洗いながら、どうやって捕まえるか作戦を練りました。

川辺にある石を集めて壁を作って捕まえよう。

私は自分でもとてもいい考えだと思いました。

早速、石を集めては積み、壁を作りました。

「よしっ」

ここからが本番です。

「遥ー」

振り返ると向こうの方から、お母さんが手を振りながら歩いてきます。

「お母さーん」

私はお母さんに手を振り返すと、急いで川に入りました。

もうごはんの時間なんだ。お母さんは私を迎えに来たんだ。

そう思って私はペットボトルを片手に、急いで魚を捕まえようとしました。

「あ、もうちょっとだったのに」

簡単に思えていたのに、なかなか捕まりません。

悔しがっていると、小さい魚は石の隙間をすり抜けて逃げていきました。

「あー!」

絶対に捕まえたいと思った私は、その魚を追いかけました。

無我夢中で少し深いほうまで追いかけていくと、私の足が大きな岩の間に挟まって抜けなくなりました。

よくわからなくなって、怖くなってもがいていると、叫びながらお母さんが走ってきました。靴のまま川に入ってきて、一生懸命私の名前を呼んでいました。

「遥、遥」

お父さんの呼ぶ声で起きました。

私はおばあちゃんのお家にいました。

夢だったのかな。

何が何だかよくわからないでいると、泣きそうな顔をしたお父さんが言いました。

「よかった。大丈夫か?」

私はこんな悲しそうな顔をしたお父さんを初めて見ました。

夢じゃなかったんだ。じゃあ、お母さんは?お母さんは?

「どうしてお父さんがここにいるの?お母さんは?」

と、聞くと、お父さんは言いました。

「今日はお風呂に入ってゆっくり休みなさい。明日お母さんのところに連れて行ってあげるから」

お風呂に入って布団に入るまで、私は一度もおばあちゃんを見かけませんでした。



お母さんも子供だった。

「どうしてママはいつもお姉ちゃんのところにばかり行くの?」

「どうしてみんなお姉ちゃんのことしか聞かないの?」

「どうしていつも私は一人なの?」

「どうして私はこの家に生まれてきちゃったの?」

「こんなんだったら産んでくれなくてよかったのに!」

こんな言葉が頭の中に響く。

どれも私が昔ママに言った言葉だ。

物心ついた時からお父さんはいなかった。

ママが昼夜働いて、病気のお姉ちゃんと我儘な私を一生懸命育ててくれた。

そんなママを助けてあげられないで、いつも困らせてばかりいたよね。

「ママ、ごめんね」

「ママ、ありがとう」



病院。

「わかりました。ありがとうございます」

お父さんがお医者さんと話している。

私は涙を流しながら眠っているお母さんをじっと見ていた。

「遥、お母さんを呼んでごらん」

「お母さん・・・」

起きないお母さん。

色んな機械に繋がれて、ただただ眠っているお母さん。

嬉しいような、悲しいような、悔しいような、よくわからない表情のお母さん。

「遥がいい子にしていれば、お母さん起きるって」

お父さんが言いました。

「私のせいでお母さんは溺れちゃったの?」

泣きそうな私の頭を撫でながらお父さんは言いました。

「お母さんは大丈夫だよ。遥のせいじゃないよ」

私はお母さんの顔をじっと見つめ、声も出さずに、ただただ涙を拭っていた。



お母さんのお姉ちゃん。

「アヤ、ミナにバイバイは?」

ママに言われた通りに、私は言った。

「バイバイ」

お姉ちゃんが手を振っている。

具合の悪いのを我慢して、にこにこと私とママに手を振っている。

お姉ちゃんは小さい頃から入退院を繰り返していた。

ママの仕事が休みの日には、大体ママに連れられて病院に来ていた。

元気な子供は小児科病棟に入れないからとゲームボーイを渡された。

ママが先に入ってお姉ちゃんとおしゃべり。

お姉ちゃんの調子のいい時には、病棟の入り口のドアのところまでお姉ちゃんを連れてきてくれた。

どうして私はここでゲームボーイをしているんだろう。

ここまで来る意味ないじゃん。

中ではどんな話をしているんだろう。

お姉ちゃんはママで、私はゲームボーイ?

お姉ちゃんばっかりずるい。

小さい頃はそう思っていた。

小学校高学年になると、お姉ちゃんは学校にも通うし、バスケットボール部に入る程にまで元気になった。

お姉ちゃんは頑張り屋さんで、とっても真面目。

どの先生にもいつも言われていたっけな。

「お姉ちゃんは病気なのに、勉強もクラブ活動も頑張ってすごいわよね」

どうして私に言うの?

病気じゃない私が頑張るのはすごくないの?

どうせ私が頑張っても誰も見てくれてはいないんだろうな。

この時はこんな風にしか考えられなかった。

お姉ちゃんは絵がとても上手だった。

いつも区のコンクールに出品して賞をもらったりしていた。

私は絵がとても苦手だったなぁ。

どうして下書きはうまくいっても、色を塗ると変になっていったんだろう。

今でもよくわからない。

私が中学校にあがった時、お姉ちゃんは中学二年生だった。

その頃も学校に飾られていたお姉ちゃんの絵。

いつもケンカばかりしていたけど、そういう時はだけとても誇らしかった。

ずるいな、私。

それから少し経った頃だった。

お姉ちゃんがまた手術を受けた。

手術は無事に終わったけど、お姉ちゃんの右半身は動かなくなった。

大好きだったバスケットボールも、自慢の絵もお習字も、漫画を読むことも、お姉ちゃんの大好きなことは全部難しくなってしまった。

もちろんお姉ちゃんは落ち込むし、家族や親戚もみんな暗くなった。

私が代わりに動かなくなっていればよかったのにな。

ふと、そんなことを思った。

これは親が子を思うそういった感情じゃなくて、お姉ちゃんじゃなくて私が動かなくなっていればみんな私を見てくれたかな、気遣ってくれたかなといったお姉ちゃんに対してとっても失礼な思いだったと思う。

心が病んでいた。

今考えると、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。

今その頃のお姉ちゃんの気持ちやママの気持ちを考えると、涙が出てくる。

当時はそんなことお構いなしで、自分のことばかり考えていたっけな。

「ごめんね、お姉ちゃん」



お守り。

まだお母さんは眠っている。

たまに顔を歪めたり、にこっと笑ったりする。

どんな夢を見ているんだろう。

今日は、あの日おばあちゃんに渡せなかった信号機の枝を持ってきた。

この枝にはおばあちゃんとお母さんと私の好きな色が入っているから、お守りにママの枕元に置いておこう。

私のせいでこんなことになっちゃった。

「ごめんね、お母さん」



お母さんのお母さん。

「アヤは何になりたいの?」

「お嫁さん。だって働きたくないんだもん」

二十歳を過ぎた私は、至って真面目にこんなことを言っていた。

そんな娘の言葉に、ママは呆れたように笑っていた。

中学の頃には反抗期でママに当り散らして、悲しませて、困らせた。

私は、高校に入ると、すぐにやめてしまった。

唯一、得意だった英語を勉強したかったからだ。

自分でアルバイトしてお金を貯めて留学がしたかった。

そんな理由を話すと、ママは言った。

「後悔しない?」

ママ、後からするから後悔って言うんじゃん。などと生意気なことを心の中で言いながら言った。

「うん」

そうするとママは言った。

「ママは高校だけは出て欲しかったけど、アヤが後悔しないんだったら、やめなさい」

今考えてもやっぱりママはすごい。

周りも見えていない子供を一人の人間としてちゃんと見てくれている。

いつも選択肢をくれたね。

私が間違った選択をしたとしても、いつも応援してくれた。

そんなママを裏切るかのように、私は留学に行けなかった。

同い年の子たちが制服を着て学校で勉強をしている間に、私はありとあらゆるアルバイトをした。

はじめのうちは「お給料」の意味もわからず、ただ教えてもらったことを一生懸命やっていた。

そうして毎日働いていくうちに、働くことの意味や大変さがわかってきて、自然とママを大事にするようになっていった。

「こんなに大変な思いをして、私たちを育ててくれたんだね。ママはすごいね」

と、最初に言った時に一瞬びっくりしていたママの顔を今でも覚えている。

自分のことばかり言っていた私が急に変わってびっくりしたんだろうね。

私が何をしてもいつも味方でいてくれるママ。

私もそんな母親になれているのかな。

「ママ、私のお母さんでいてくれてありがとう」

「ありがとう」



ありがとう。

「あ!おばあちゃん!お母さんが何か言ってるよ!」

私は信号機の枝を握り締めながら、おばあちゃんを呼びました。

ずっとお母さんにつきっきりで眠そうだったおばあちゃんは、目をまん丸く開けてお母さんを見ました。

「アヤ、アヤ」

おばあちゃんが呼ぶとお母さんが少しだけ目を開けました。

「はるちゃん、お医者さんを呼んでおいで」

私が行こうとすると、お母さんの声が聞こえました。

「ありがとう」

私は振り返るとお母さんはおばあちゃんに向かって言いました。

「ママ、ありがとう」

おばあちゃんはびっくりしたような顔で、お母さんの頭を撫でていました。

頭を撫でられているお母さんは、いつもより優しい顔をしていました。

お医者さんを呼んでくると、おばあちゃんとお母さんはお医者さんにお礼を言いました。よくわからないけど、私もお礼を言ったら、お母さんとおばあちゃんはクスクス笑って偉いねとほめてくれました。

久しぶりに起きたお母さんは髪の毛がボサボサだったので、いつもお母さんが私にしてくれるみたいに、髪をとかしてあげました。

お母さんはとても嬉しそうにしていました。

お母さんのお守りにしていたおばあちゃんへのおみやげの信号機の枝を、おばあちゃんにあげようと思いました。

でも、私を助けてくれたお母さんにもあげたくなってどうしようと迷っていたら、それに気付いたお母さんがコソコソ話で言いました。

「お母さんは毎日遥と一緒にいられるから、おばあちゃんにあげなさい」

私はお母さんにはまた違うものを作ってあげようと決めて、おばあちゃんにあげました。私はおばあちゃんにどうしてその色なのかを説明しました。

理由を聞いたおばあちゃんは、とても喜んでいました。

すると、突然お母さんは、おばあちゃんに言いました。

「ママ、ありがとう」

おばあちゃんは不思議そうな顔をしたあとに、笑顔で頷きました。

すると、お母さんは、信号機の枝に目をやりながらおばあちゃんに言いました。

「おばあちゃん、遥にありがとうは?」

おばあちゃんは声をあげて笑いながら言いました。

「はるちゃん、ありがとう」

お母さんやおばあちゃんを見ていたら、なぜだか私も言いたくなって言いました。

「ありがとう」


初めて書いた小説です。

…小説と言えるのかな?


読んで頂けただけでも嬉しいのですが

全くの初心者なので、ついでに感想も頂けると参考になります。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

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