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8.工房、宝石、杖の謎。

「久しぶりだね、ベルンハルト。」


 聞き覚えのある声が店の奥から近づいてくる。


「ル、ルースさん?!」


「うんうん、小さい頃と反応変わんないね~。ジョン隊長がえらく心配していたよ、最近王都に帰還したんだって?」


 第二十師団の目の前にいるのは――ルース。

 背格好はほとんどカフカとは変わらない、若い少女にみえる。

 だがベルンハルトは、反射的に背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。

 ルースの顔には煤が沢山ついており、今さっきまで作業場で武器の製作を行っていたというのが伺えた。


「ベルンハルト、知り合いなの?」


「ああ……知り合いというか……ルースさんは元第十九師団の隊員だ。」


「君達が新しく集められた第二十師団のメンバーかな?うんうん。すごくいい顔してるね!」


 ベルンハルトは思わず言葉に詰まる。

 幼い頃、ルースが父の隣で戦っていた姿を何度も見てきたからだ。

 彼女は小柄な体格を活かし、しなやかな武器捌きでいつも頼もしい前衛を務めていた。

 ベルンハルトにとって、彼女や旧十九師団ははるか遠い憧れの存在であった。


「本当に、お久しぶりです。お元気でしたか?」


 ようやく絞り出した声は、少しだけ震えていた。


「私はもう騎士団の人間じゃないし、そんなに丁寧にならなくていいんだよ?ただの古工房の店主だと思って接してよ、ベルンハルト。


 ルースはくすくすと笑った。


「ああでも……ジョン隊長の息子が隊長になったって聞いた時は、本当に驚いたよ。どうやら、噂の面接はうまくいったみたいだね。」


「そうですね、明日からはいきなり討伐指定区域の遠征に向かうことになっています。」


「あぁ、そうだった!ごめんごめん、あたしったらジョン隊長の可愛い息子さんの成長に驚いて本題を忘れていたよ〜。それで、今日は何をお探し?」


「えっと……。俺は今回は大丈夫なんですが、隊員の魔術道具を探しに来ました。」


「はい!!店主さん!私の魔術道具を選んでもらいたいです!」


 ベルンハルトの後ろからひょっこりとカフカが顔を出した。

 彼女は左手に自慢の杖を持ち、ぶんぶんと上下に振っている。


「あぁ、君だね!……その杖、見せてもらってもいい?」


「あ、どうぞ!」


 カフカがあっさりとルースに差し出した。

 

「ありがとう、とっても素敵な杖だね!んー、どれどれ……。」

 

 ルースが、ボロボロのエプロンから年季の入った拡大鏡を取り出す。

 杖からは、微弱なエーテルが滲み出すように広がり、淡い光が表面を覆う。

 ――だが、杖の先に付いている赤い水晶は、輝きを失ったままそこに鎮座していた。

 その場にいた全員がその光に驚き、言葉を失った。

 この2日間、側にあったこの杖に、そのような力があったとは誰も気づいていなかったからだ。


「すごい仕掛けだね…。お嬢ちゃんがこの仕掛けを付けたの?」


 ルースが目を輝かせながら言った。

 いやいや、とカフカが首を振る。


「私も、初めて杖が輝くのを見ました……。」


「そうなんだね、この杖からは凄く微弱なエーテルが漏れ続けているみたい。珍しいね。」


「カフカちゃんがこの杖を持っている時は、光らないのか?」


「うん…。この杖をもらった時から、この杖が光るなんてこと一度もなかったよ。不思議…。」


 ルースは拡大鏡で、怪しげに光る金属部分をじっくり覗き込んだ。

 この杖には金属でできた二つの円環が付いており、まるで二つの太陽が折り重なっているようにみえた。

 しかも――杖との接合部分は見えない。

 金属が独立して空中に浮遊しているのだ。

 このような杖の構造は、間違いなくエーテル国のどこにも存在していない。


「これ――イグニス環金?」


 ルースは拡大鏡を見つめながら、ポツリと呟いた。

 先ほどまでの余裕のある表情ではなく、驚きを隠せずに、思わず声が漏れ出たようだ。


「イグニス環金?ルースさん、なんですか?それは。」


 ベルンハルトが思わず聞き返した。


「現大陸では何百年前に絶滅したと言われている金属だよ…。

 先史文明による古代魔術でしか精製できないって、聞いた事がある。」


 ルースが拡大鏡から顔を離し、丁寧に杖をカウンターに置いた。

 不可思議な金属音がまた店内に鳴り響いた。

 その振動で、またエーテルが空気中に溶け出し、杖全体がぼんやりと光を放っているようにみえた。

 彼女は少し考えながら、何かを思いついたかのように天井を見上げた。

 

「……少なくとも、この金属部分だけでも、金ヘル貨五百万枚は下らないんじゃないかな?」


「ご、五百万枚?!」


 フォンスが声を上げる。


「五百万枚?!えーっと、何ヘルになるんだろう?私お金持ちだったんだ……。」


 真剣に聞いていたクルトがくすりと笑い、フォンスが大笑いしながら手を叩く。

 カフカの一言に、張り詰めていた空気が少し緩んだ。


「いや、そういうことじゃ無いだろ……。」


 ベルンハルトが冷静にツッコむ。


「いやいや、お嬢ちゃん――いや、カフカちゃんの言う通りだよ。この金属を換金できたら、小さな国くらいは買えちゃうかもね?」


「なるほど……。そんなにこの杖って価値があったんですね。」


「うんうん、そうだね。先史文明――1000年以上前の、魔法使い様たちが生きていた頃の技術だと言われているね。」


――魔法使い様。

 ベルンハルトは、この言葉を聞いて思わず息を呑んだ。

 幼い頃から、士官学校時代の祈りの時間――。

 どんな時でもこの”魔法使い様”と言う言葉を耳にしてきたからだ。


「――イグニス環金は、その名の通り太陽の力を持つとされている金属だよ。

 目に見えるエーテルが発生する金属は、この先史文明時代にしか確認されていないから、恐らく間違いないとは思う。」


「なるほど…、疑問なのですが。カフカさんのお母さんがどのようにしてこの金属を手に入れたのでしょうか?」


 クルトが首を傾げた。

 横にいるベルンハルトも、その異様な杖をじっと見つめながら腕を組む。


「確かにそうだな……。カフカさんは、イグニス環金のことは知らなかったのか?」


「知らなかったよ!?

 ていうか、この杖普通に振り回したり、ベッドに投げたり、えーっと……お風呂で洗ったこともあるんだけど……。

 良くなかったの、かな?」


「……いや良く無いだろ!!」


 やはり、ベルンハルトはカフカに対して突っ込んでしまう。

 まだ出会って2日なのにも関わらず、彼女の少し暴走気味な部分には物申したくなってしまうのだ。


―――――――――


「さて、本題に入ってもいいかな?

 カフカちゃんは……何魔術の使い手なの?」


「……私、魔術が使えないので、その為に外付けの補助水晶を選びにきました。」


 さっきまで好奇心旺盛に語っていたルースがキョトンとした顔でカフカを見つめる。

 どうやら、ルースはカフカ本人も異質な存在であることに何となく気付いたようだった。


「ベルンハルト、君も道具で魔術を出してる口だったよね?」


「そうですね。」


「そっか、それなら魔術道具の使い方は彼に教わったらいい。

 そしてカフカちゃんの魔術系統は……焔魔術が似合うんじゃ無いかな?」


 工房のカウンターの奥には、宝石がズラリと液体に入れられて保管されている。

 ツン、とした匂いはこの宝石が浸けられている特殊な液体によるものだろう。


「補助水晶とは――

 その名の通り、エーテルを魔術に変換するお手伝いをする宝石のことを指す。」


 小柄なルースが、棚の一番上の宝石に手を伸ばす。

 ……が、届きそうに無いので、そそくさとカウンター下にある脚立を踏み台にし、緋色の大きな宝石を取り出した。

 宝石には液体が浸透しており、彼女は慣れた手つきでゆっくりと布で水滴を拭き取った。


 真ん中に元々あった、赤い水晶は簡単に取れるようで、ルースは上手に新しい宝石と水晶を入れ替えるようにして付け替えた。


 ――緋色の石は、ルースの見立て通り複雑な構造をした金属部分の真ん中嵌るサイズだったようだ。


 「わあ、綺麗!」


 カフカが思わず飛び跳ねて喜ぶ。


「うん、見事にピッタリだね。あたしの思った通り!」


「ルースさん、ありがとうございます。」


「いや、いいんだよ。この石なら中級魔術くらいまでなら練習すれば出せるようになるんじゃないかな?

 ベルンハルト、実戦でちゃんと教えてやるんだよ?」


「もちろんです。」


「大丈夫ですよ、ルースさん!オレも教えますからね。」


「うんうん、頼もしいね!この宝石の値段はね……五千ヘルかな。」


「五千ヘル……、払えなくは、ないかな……。いや、全財産……普通に足りないかも……。」


 カフカが何処からともなく金ヘル貨を入れた袋を取り出す。

 それを見かねたフォンスがポケットに入っていた袋から金ヘル貨をありったけカウンターにぶち撒けた。


「悪い!勢い余った!!」


 カウンターの上には、フォンスが移動商人として働いてた頃に稼いだお金が散乱してしまった。


「カフカちゃんの手持ちが足りねぇなら、オレが出すぜ。こないだまで結構稼いでたからな!」


「え……。いや、申し訳ないよ!?」


 カフカはフォンスの金ヘル貨を集めて、袋に戻そうとした。


「これからオレたちの魔術師さんになってもらうんだ。

 これくらいは気にしないでくれよ。」


「フォンス、俺も少しは出そう。一応2ヶ月前から騎士団に所属はしているから、給料は出ているからな。」


 ベルンハルトも、ポケットの中に入っている小銭入れから何枚かの金ヘル貨をカフカに手渡す。


 カフカはオドオドしながら、ちらりとクルトの方に助けを求めた。

 すると、クルトは待ってたかのように、ジャケットの内ポケットから綺麗に折り畳まれた紙幣を取り出した。


「僕も、医者の真似事をしていた際に小銭稼ぎくらいはしていましたから、もちろん出せますよ。」


「わぁー?!みんなごめん!そういう意味じゃ無いよ!大丈夫、大丈夫だから!!」


 和気藹々とした雰囲気を感じ、ルースはくつくつと笑い出した。


「……冗談だよ。

 五千ヘルなんて大金、見習い騎士団達に払わせられないからね。

 ――ほら、みんなヘルをしまってしまって!」


 カウンター下から、ルースがひらりと”請求書”と書かれた紙を用意する。

 宛名書きには、エチルエーテル国立騎士団長様へ。と丁寧に書き記されていた。


「ん、五千ヘルくらい経費で落ちるからね。あたしも良くこうやって経費で武器揃えたなー!」


「なるほど……。」


 ベルンハルトが、ニヤニヤと笑うルースの顔を見て息をついた。


「これ、後でジョン隊長に送りつけとくから。

 お代は大丈夫だよ。

 そんなことより、明日からの初任務頑張ってね!

 後、カフカちゃんはもう少し杖を大事にしてあげて?」


「ありがとうございます…!この杖で、頑張って害魔獣を討伐するぞー!!」


 ……いつも通り、カフカは杖をくるくると回す。

 その希少な杖の金属と金属が擦れて、シャラシャラと雑な音を立てている。


「あぁ…、言わんこっちゃない。」


 ――――――


「……ついに明日、か。」


 テクテクと四人が石畳を歩いている。

 エーテル城までは遠い。

 ……だが、先程のやり取りで彼らの距離は少しずつ近づいていた。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 

 次のお話では遂に、彼らの任務がスタートします。

 魔術、戦闘技術など、まだまだ未知数の彼らはどうやって初依頼を成功させるのか!?

 第二十師団の初戦闘を見守っていただけると幸いです!

 

水曜19時、日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

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