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6.第二十師団、始動。


 (魔術系統がこの歳になってわからないなんて、情けない。)


 和気藹々とした雰囲気の中、ベルンハルトは自分の境遇に対する劣等感で押し潰されそうになっていた。


「お揃いだ!」


 カフカがベルンハルトの書く文字を見て、嬉しそうに笑った。


「ベルンハルトって凄いんだね。私、魔術が使えないってわかってたから、戦おうとも思ったことなかったよ。」


「オレも近くでベルンハルトのこと見てたけど、こいつめちゃくちゃ強いぞ!カフカちゃんも見たらびっくりすると思うぜ。」


「それは素晴らしい……。回路のない魔術というのは、元々持っている人間よりもはるかに操るのが難しいですからね。」


 3人の言葉で、ベルンハルトはハッとした。

 ベルンハルトの胸にのしかかっていた重たい感情が、ほんの少しだけ軽くなるのを感じた。

 

 正気に戻ったかのように、細かい部分にもチェックを付け、そそくさと書類を完成させる。

 

 (そうだ、俺はこの隊の隊長なんだ。ここで一人で劣等感に駆られていても意味がない。)


「とりあえず、これで提出してくる。申請が通れば一応、寮への案内もできるんだがどうする?」


「助かるぜ!流石、オレが家無しってわかってるだけあるな!」


 フォンスは大きなリュックを勢いよく背負った。

 彼の荷物はかなり大きい。

 動かすたびに椅子や机が小刻みに震えるほどだ。


「僕も助かります。ここに来るまではずっと野営でしたので。」


「わかった。フォンスとクルトは入寮できるように管理人に伝えておく。」


 思い出したかのように、ベルンハルトがカフカの方を向いた。

 

「……カフカさんはどうする?今は女の人がこの寮には誰もいないはず。

もし嫌ならカフカさんだけは自宅から通ってもらっても大丈夫だけど……。」


「わ、私も一緒がいい!ずっと森の中に一人で住んでいるから退屈で…。みんながいいなら同じ寮で生活したい!」


「そういうことなら、まとめて全員分の申請を済ませておく。今日の昼には部屋の片付けが終わるはずだって管理人が言ってたから、少しの間待機していてくれないか?」


「おう!ありがとな、ベルンハルト!」


 ベルンハルトは、会議室を後にする。

 その足取りは誰もいない会議室に向かった時とは比べものにならないくらい軽快だった。

 面接前、本当に一人も来ないんじゃないかと不安に駆られていた彼だった。

 まだ集まった4人の戦闘力は未知数だ。

 だが、ベルンハルトはこの先待ち受けるであろうどんな任務も乗り越えたいと、さっきよりも前向きな気持ちになっていた。

 

 エーテル国の中心都市、エチルエーテル市。

 昼時の城の敷地には、朝の冷たい空気とは打って変わって、穏やかな空気が流れていた。

 食事を取る者の姿がちらほら見え、ベルンハルトは空腹の限界だった。


 (それにしてもここから寮は遠いな…。)


――エーテル城の敷地内に、その寮はひっそりと佇んでいる。

 石造りの外壁はところどころ風化し、いつ建てられたのだろうかと疑問に思うほどだ。

 だが、花壇には鮮やかな花が咲き、丁寧にドアノブは磨き上げられており、この寮の管理人がいかにこの寮を大切にしているかが一眼でわかる。


「ミザンさん、お疲れ様です。」


 寮の周辺の雑草を熱心に抜いている人物が一人。

 その男性に、ベルンハルトは声をかけた。


「おお、ベルンハルトじゃないか。面接は問題なく終わった感じか?」


 ――ミザン・ターナー。

 彼こそがエーテル城の寮をたった一人で整備している、凄腕の管理人だ。

 特に、彼の料理の腕前はピカイチであり、野営でここまで料理が学べるなんて、誰も思わないだろう。

 ベルンハルトも勿論、その料理の腕前を知っていた。


「はい、滞りなく終わりました。入寮者は3人も居るのですが…。」


「もう準備はできてるぞ。なんてったってあの騒がしい第十九師団(アイツら)が居ないからな。正直、めちゃくちゃ楽だった。」


「そ、そうなんですね…。何はともあれ迅速な準備、ありがとうございます。」


「いいんだよ、今はこれしか趣味が無いからな。もういつでも連れてきていいぞ。」


「わかりました。まだ会議室の方にいるので、案内します。」


 ベルンハルトはミザンに一瞥し、また会議室の方へと戻っていった。

 ミザンは口笛を吹きながら雑草抜きを勤しんでいる。

 この城は、本当に何もない時は穏やかなのだ。


 エーテル国には今はもうどこにも内乱などはなく、広大な自然に恵まれた発展国として大陸に名を轟かせていた。

魔術研究が盛んな国としても知られ、各地には研究施設や魔術学校、士官学校などが建てられている。


 特に中心都市エチルエーテル市は、高い城壁、そして強い結界魔術で守られた安全な都市であり、そのお陰で害魔獣が侵入することはほとんどあり得ないのである。



 閑話休題。

 この古びた寮に、第二十師団のメンバーが訪れたみたいだ。


―――ガチャ。


  勢いよく寮のドアが開くと、空気中の埃が一気に風と共に舞う。

 一階には掃除道具や洗濯物などが乱雑に入ったかごが置かれており、特に何もない空間が広がっていた。

 壁には、歴代の隊員の名前が書かれている古い名札がズラリと並んでいた。


「これからここが、俺たちの拠点になる。」

 

 ベルンハルトが隊長らしい声色で、言い切る。

その瞬間、古びた寮の空間が、少しだけ明るく感じられた。

 

「…埃臭いですね……。」

 

 先程まで飄々とした態度をしていたクルトが、顔を顰めている。


「確かに、ここってちゃんと掃除してんのか?」


「あぁ、たった一人でこの寮を切り盛りしている凄い管理人さんがいる。

 ……部屋が埃臭いなんて聞いた時にはショックを受けそうだから、何も言うなよ。」


「そうだよー。私の住んでた家よりもだいぶ綺麗だよ!しかも管理人さんが毎日掃除してくれるなんて、楽園だね!」


 カフカは嬉しそうに螺旋階段を一人で登っていく。

 お転婆な彼女を他の3人がゆっくりと追いかけた。


 2階に上がると、大広間の机を中心に、複数の部屋が並んでいた。

 それぞれの扉の前には空っぽのネームプレートがかけられていた。

 

「……そうだ、みんなに伝えておくことがある。」

 

 彼は鞄の中から、一通の封書を取り出した。


「早速、第二十師団に任務の依頼だ。ここの管理人が依頼書を手渡してきた。」


「早くないか?!さっき結成したばっかりだぞ。」


「ここの管理人は討伐指定区域の依頼に目がなくてな。国からの依頼じゃない民間のものだが、緊急性が高いらしい。」


「エチルエーテル市では、民間の依頼もあるんですね…。民間討伐隊が結構盛んなんですか?」


 クルトが訝しげに依頼書を眺めながら言う。


「他の市よりかは多いかもしれないが、それでもここら辺は害魔獣がかなり活発みたいで、全く足りていないみたいだ。」


「そうなんだ!じゃあこれを受けたら人助けになるってことだね!楽しみ!」


「なぁ、ベルンハルト。明日にでもカフカちゃんの魔術道具を見てやらないか?討伐区域に行くにしても、流石に丸腰のままは可哀想だ。」


「そうだな。それじゃあ明日の朝、魔術道具を見にいこう。」


「わぁ…!ありがとう!楽しみだなぁ…。」


 ベルンハルトは依頼書を確認し、軽快に机の上で自分のサインを書いた。


 

――第二十師団としての初任務。

 まだ誰も知る由もなかった。

 これから彼らを待ち受ける任務が、どれほど過酷なものになるのかを。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 今回は面接が終わり、第二十師団の始まりのお話でした。

水曜19時、日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

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