5.御希望の魔術師…のはずが?
ベルンハルトたちの目の前には、絹のような艶の黒い長髪、まるで消えない焔をそのまま閉じ込めたかのような瞳をした少女が堂々と立っていた。
「騎士団入団の面接会場は、ここで合ってますか?」
その態度は、少女とは思えないほど毅然としていた。
澄んだ瞳はじっとベルンハルトを見つめており、カツカツと緋色に輝くヒールを大胆に鳴らしながら歩いてくる。
「あ、合ってます……。こちらにどうぞ……。」
ベルンハルトは、少女の態度に面食らったのか、辿々しい返事を返した。
(女の子……!?特撰部隊にこんな若い女の子が面接に来るなんて…。)
ここまで美しい女性を、ベルンハルトは見たことがなかった。
そして、それはフォンスやクルトも同じだった。
街で見かけたら誰しもが立ち止まり、自然と眼で追ってしまうであろう美貌を持った少女が、目の前の椅子に腰掛ける。
「お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「名前……えーと、カフカって言います。」
「カフカさん…。すみません、念のためお聞きしたいのですが、特撰部隊の面接でお越しくださったのですよね?」
ベルンハルトが恐る恐る質問する。
カフカ、と名乗る少女はほんの一瞬固まり、んー…と首を傾げる。
「一応そうなんですけど、特撰部隊のこと詳しくわからないんで…、教えてもらっても良いですか?」
エーテル国に住む者なら大体は特撰部隊のことは知っているはずなのにも関わらず、カフカと名乗る少女は、存在も内容も理解していなかった。
ベルンハルトは驚いた。
そして、この少女は多大なる勘違いをしているに違いないと、脳内で危険信号を発していた。
「カフカさん、えっと…とりあえずなんとなく説明しますね。特撰部隊とは主に、エーテル国を脅かす害魔獣を討伐する物凄く危険な部隊です。基本的に女性はこの部隊を志願することができません。」
「ええ!そんな危険なことするんだ!?害魔獣を討伐…難しそうだね…。うーん…。」
「……申し訳ありません。現時点では、あなたを特撰部隊に迎え入れることはできません。恐れ入りますが、本日はお引き取りくださ――」
「やりたいです!」
「…やりたい、のですか?」
「はい!やりたいです!面白そう!というか敬語使わなくて大丈夫だよ!」
カフカは目を輝かせながら、特撰部隊募集の紙を握りしめる。
ベルンハルトが配り歩いた紙は、この稀有な感性を持った少女に偶然にも届いていた。
「わかった。とりあえず聞いてもいいかな?カフカさんの希望の職種は…?」
「職種…、職種かぁ…?んー、わかんないから自由にしてもらっていいよ。頑張って働くから!」
「わ、わかった…。じゃあ魔術は何魔術を使うんだ?」
その質問を聞いて、ニコニコと話を聞いていたカフカの動きがぴたりと止まった。
少し気まずそうに部屋の隅を見つめている。
「あのぅ…。」
「なんだ?」
「私、エーテル回路が使えなくて…。」
「魔術、使えないんだ。」
「え、エーテル回路不全…?!」
こくこくと勢いよくカフカが頷く。
すると、カフカの勢いに圧倒されていたクルトがここぞとばかりに口を開いた。
「エーテル回路不全って…、聞いたことあります。エーテルを魔術に変換することができない病気のことですよね?カフカさんは生まれつきなのでしょうか?」
「わかんないんだぁ…。でも私の記憶にある限り、自分の手で魔術を使ったことはないよ。」
彼女の美しい紅い瞳が揺れる。
眉を顰め、さっきとは打って変わって少し自信なさそうに言葉を紡ぐ。
「私、例え魔術が使えなくて役に立たなくても、どうにかして誰かのこと救いたいの。騎士団に入ったら、一人でも誰かの命を助けられるのかなって思って。」
「確かに、外付けの魔術道具さえあれば、どうにかして”擬似魔術”は使えるしな。」
フォンスが急に立ち上がった。
カフカの方を見つめ、なんとなく懐かしい気持ちを覚える。
自分の妹も、生きていたらこんな感じで突拍子もなく騎士団に入ろうとしたかもしれない、と。
「私、お母さんが亡くなってから全然外のこと知らなくて…。きっとたくさん迷惑かけちゃうと思う!」
「でも、どうかお願いします。私のこと、仲間にしてくれないですか…?」
カフカはそう言うと、スッと立ち上がり、ベルンハルトたちの方に向かって頭を下げた。
「頭を上げてくれないか、カフカさん。俺は別にいいんだけど…、討伐には君が思っている以上に危険が伴うんだ。それでも大丈夫なのか?」
「大丈夫、一度決めたから。私、頑張って魔術の練習もする!」
カフカはにこっと笑った。
「わかった。それじゃあこれから宜しく頼むよ。…俺はベルンハルト・エチルエーテル。この第二十師団の隊長だ。」
「オレはフォンス・フレッド!ついさっき面接したばっかりだから、カフカちゃんと同期だぜ。」
「僕はクルト・マールテンです、よろしく。」
「わぁ…!すごいすごい、私ずっと一人だったのに、たった一瞬で仲間ができちゃった。嬉しい!」
「とりあえず4人そろえば前衛、後衛のバランス的にも問題ない。一旦はこのメンバーで申請をしよう。」
ベルンハルトは自分の座っていた机の中から一枚綺麗な紙を取り出した。
どうやら、今回の特撰部隊希望者の詳細を書く用紙らしく、丁寧な文字で4人分の身上書を綴っていく。
「カフカさんはとりあえず魔術系統該当なし…、そういえばクルトは何魔術を使うんだ?」
「僕は草魔術ですね。」
「クルトは草魔術っと…。フォンス…お前はそういえば珍しいタイプだったな。」
「覚えてくれてたのか?そうだ、オレは雷と焔だな。でも最近はほとんど雷魔術ばっか使ってる。申請が難しいなら雷にしておいてくれ。」
「2個もエーテル回路を持っていると言うことですか?カフカさんとは別の意味で珍しいですね。」
「へへ、だろ?オレの住んでいた村のヤツらは2つの魔術を切り替えているヤツばっかりだったんだ。」
「すごいねぇ。私、2個もエーテル回路持ってる人の話なんて聞いたことないよ!」
「…お前は昔から、凄いやつだな。」
ボソリとベルンハルトが呟いた。
「なんだよ、お前の方がすごいぞ?ベルンハルト。なんたってお前はその歳でこの第二十師団の隊長に選ばれたんだからな。もっと誇ってくれよ”隊長”?」
フォンスの精一杯の優しい言葉で、ベルンハルトの胸がズキと痛む。
自分の魔術系統を書く欄を見つめる。
隠している事を言えるわけがない、そう思った。
――そして、フォンスの才能に嫉妬をしてはいけないとも、昔からずっと思っていた。
ペンを走らせる。
――魔術系統、不明。魔術道具を使用する。
ベルンハルト・エチルエーテルという名前の横に、そう書き殴った。
2回目の更新です…!前回は沢山の方に見て頂けて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!
水曜日は19時更新の予定です。
これからも魔法使い達の黙示録を何卒宜しくお願い致します!




