3.面接開始
エーテル城は昼になると、太陽の光が差し込み、美しい城の外観が露わにされる。
観光名所としても名高く、人々はこの城を「平和の象徴」だと口にして止まない。
だが今日、この城の一室では——使い捨ての部隊を集めるための、面接会が開かれようとしていた。
「……ダメだ、絶対に誰も来ない。」
いつものエーテル城とは一味も二味も違うこの会議室では、ギシギシと椅子が隙間風に揺られて無機質な音が響いている。
(まず今日は城に見知った人間としか会っていない。寮の管理人、清掃のクライゼルさん…。)
(来るわけがない、明らかに怪しい部隊の応募になんか。)
ベルンハルトは、机の上に面接要綱の紙を払いのけた。
士官学校で握り続けた年季の入ったペンは、カランと音を立てて扉の方へと転がり落ちていった。
(…人の気配か?)
転がるペンの音と連動したかのように古びた廊下が軋んだ音がした。
「…誰だ?」
(まさか———人が来たのか?!)
「面接会場は、ここか?」
ベルンハルトはその聞き覚えのある声に安堵さえも覚えた。
ガチャリ、と扉がゆっくりと開いた。
「フォンス・フレッド、エチルエーテル市出身、職業は———移動商人だ。面接、よろしくな、隊長サン。」
フォンスは昨日よりも冷静にベルンハルトの前に現れた。
唖然とするベルンハルトを横目に、何の返事も待つことなくストンと古い椅子に腰掛ける。
―――まるで、面接官からの質問を今か今かと待ち望んでいるかのようにじっとベルンハルトの目を見つめた。
「フォンス、お前…昨日はあんなに嫌がっていたじゃないか。どうしたんだよ」
「んー、そうだな。こんな命が何個あっても足りないような部隊、普通に考えたら嫌に決まってる。」
「……だよな」
少しばかり二人の間には沈黙が流れる。
ぱち、と二人の目が合い、フォンスはゆっくりと口を開く。
「オレは、大事な”家族”を探している……それは覚えているよな?」
「ああ、もしかして見つかったのか?」
ベルンハルトの言葉を遮るかのように、フォンスは首を横に振った。
フォンスの眉間には少しシワが寄った。
まずいことをしたか?とベルンハルトは気まずそうな顔をする。
「まだなんだ……だから、オレは士官学校を辞めた時からずっと移動商人をしている。」
「……そうなのか。」
重たい空気を壊すかのように、フォンスは笑顔になる。
「ベルンハルト、オレはあれからずっとずっとこの国をまわって家族のことを探った、でもダメだった、だから。」
「―――俺は特撰部隊の一員として、このエーテルでアイツらを探す。」
「ああ、それは勿論協力する。いいのか?特撰部隊は常に害魔獣との戦闘が伴う、命だっていつ盗られるか――。」
「今更何を、大体お前が誘ってきたんだろ?それに、オレの方がお前よりも害魔獣模擬戦の成績良かったっての。」
ベルンハルトはぐうの音も出ずに、じっとフォンスを睨みつけた。
フォンスの笑顔に釣られて、さっきまで緊張していたベルンハルトの顔の強張りも徐々に解けていた。
「今度は同級生じゃなく、同胞としてよろしく、フォンス。」
「ああ、よろしく、ベルンハルト・エチルエーテル隊長。」
ベルンハルトとフォンスは、何年振りかに握手を交わす。
その手は、幼い頃に握った時よりも傷が増えており、お互いの苦労や鍛錬の具合が垣間見えた。
「そういえばフォンス、他に面接に来た人を見なかったか?」
「他の人か?そうだな…清掃員らしき人は見たが、それ以外は見てないぞ……ただ」
「ただ?」
「――ああいや、この城、凄く薬品臭いんだなって。大規模な医務室があるのか?」
ベルンハルトはその言葉を聞き、首を傾げた。
強い薬品の匂い?そんな匂いがこの城でするわけがない。
まず、薬で治療するような落ちこぼれの”ヒーラー”は特撰部隊に存在していないからだ。
「薬品……確かに、今日は変な匂いがするな。フォンスが言わないと気づかなかった。」
言われてみれば、とベルンハルトは強く嗅覚に意識を向けた。
鼻を刺すような薬草の匂いが脳を刺激した。
士官学校でついこの間受けた、卒業試験の薬学の知識がベルンハルトの脳裏をよぎった。
「血の匂いがしますね――。」
―――扉の向こうから、聞き覚えのない冷静な声がした。




