2.興に乗らない再会
ガヤガヤと騒がしい城下町を、気の乗らない足でゆっくりと進む。
「ったくこんな紙切れでスカウトしろ、なんて無理な話に決まってるだろ……」
手元には大量の薄っぺらい紙切れ、胸に揺れる金の国章が、日差しに反射してやけに眩しかった。
先ほど上司である、アーノルド・ハイドレンジアとの会話を終え、ベルンハルト・エチルエーテルはいきなり城下町へと第二十師団の隊員募集に訪れていた。
普段はそこまで城下町に訪れることはない、そもそもだが、この間まで士官候補生として学生をしていたのである。学校での実戦のみでしか害魔獣と相対したことがないのに。
(いきなり部隊をまとめろと言われても不可能なことじゃないのか……)
怪訝な顔で坂を降り、そこらじゅうの壁にポスターを貼り付けて歩く。
周りからの視線が痛い。
それもそうだ、違法ではないとはいえ、ベルンハルトがやっていることは相当この国ではおかしいとみなされる行為なのだから。
(普段はこういうことを注意する側なのに、俺は何をしているんだ?)
城下町を進むと、移動商人たちの営む商店街が見えてくる。相変わらず騒がしく、ここだけは治安があまり良くないとベルンハルトは感じていた。
砂埃が煙る移動商店街では、さまざまな物が売られている。他国の果実や、木材、不思議な石など、到底これに価値があるのかどうかはわからないような代物がゴロゴロと転がっており、高値で取引されているのであった。
移動商店を営む者たちにこの紙を配るのは無駄だと思い、踵を返そうとした瞬間だった。
「「あ」」
見覚えのある服装、聞き馴染みのある声、そしてどこか懐かしい匂いが砂埃と共にツンと鼻に沁みる。
栗毛色がふわふわに揺れる、服装は少しボロく、いつから着ているのだろうかと疑問に思うほど年季が入っていた。目の前にいたのは、ベルンハルトの旧友、フォンス・フレッド。ちょうど2年ほど前に最後に顔を見て以来、一度も会うことがなかった。
「ベルンハルトじゃないか!」
少し気まずそうなベルンハルトに対し、目をキラキラ輝かせ、旧友との再会を大喜びするフォンスだった。
フォンスは店構えの外に飛び出すと、ベルンハルトの手をガッチリと掴みブンブンと振り回した。
「……?お前、俺のこと嫌いじゃないのか?」
「当たり前だろ!」
フォンスはベルンハルトに満面の笑顔を向ける。
「なっ……?ならなんであの時、何も言わずにいなくなっちゃったんだよ」
「……あ」
その言葉を聞くと、少しフォンスの動きが鈍る。
辺りは騒がしいのに、フォンスとベルンハルトの周りだけ、なんとなく喧騒が収まっている気がした。
「すまん……、それはそれとして、お前、今何やってるんだ?ちゃんと”卒業”したんだよな?」
「そりゃあするだろ。今は……そうだ、お前、うちの部隊に来ないか?」
ベルンハルトは我に帰ると、カバンに無造作に入れた紙をフォンスに押し付けた。
「部隊?なんだそりゃ、もしかしてお前エーテルの守護部隊にでも配属されたのか?あんなお堅〜い部隊オレには向いてないね。」
フォンスは自分の商品を綺麗に陳列させながら、片手間に紙切れを受け取った。ガチャガチャと、ガラクタたちが擦れた金属音が鳴る。
「――お前、守護部隊配属じゃなかったのか?」
「……残念ながら守護部隊に俺みたいな雑魚は必要ないみたいでね。」
「そういうわけじゃないだろ?あ――いや、違うお前を貶してるわけじゃあないんだ。ジョンさんはどうしたんだよ。」
「父上が俺を守護部隊から退けた、それだけの話だ。」
「守護部隊だぞ?あそこはエリートしか行けないところじゃ無いか。なんでお前みたいなハイパーエリートが特撰部隊なんかに任命されないといけないんだ。」
フォンスの言葉に、ベルンハルトは視線を逸らした。
―――エーテル直属の国立騎士団には複数の部署が存在していることを、ただの移動商人であるフォンスでさえ知っていた。
守護部隊、特撰部隊……中でもベルンハルトは守護部隊への所属が、士官学校を卒業する前に決まっていたのであった。
さっきまで飄々としていた、フォンスの顔が陰る。
幼馴染のベルンハルトの何とも言えない切ない表情に、なんて声をかければ良いかわからなくなってしまったからだ。
「まあ、頑張れよ。オレはほんの少ししたらここを出るからな。」
「ああ、ありがとう」
ベルンハルトは、フォンスに一瞥し颯爽と砂埃の舞う商店の中に姿を消した。
残されたのはぐしゃぐしゃになっている一枚の紙切れと、呆然と考えるフォンスのみだった。
「特撰部隊…か。」
フォンスは紙切れを握りしめる。
その文字列の端に、小さく刻まれた“第二十師団募集”の名を見つめながら。




