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17.第十九師団


 朝。

 窓の外からは、鬱陶しいほどの光が漏れ出している。

 野鳥が囀り、窓の外からは兵士の談笑が絶え間なく聞こえていた。


「痛……ッ。」


 ベルンハルトは寝起き一番に、こめかみのあたりの鈍痛に気づいた。

 昨夜、酒場から満身創痍の隊員を引き連れて、寮にどうにかして帰還した。

 そして、第二十師団は二度と飲酒禁止ということにすると誓ったのであった。

 のそり、とベッドから起き上がる。

 鏡を見ずとも自分が酷い顔をしているのは、理解できた。


 (二日酔いだ……。)


 特段多く飲んだわけでもないのに、身体の不快感に寒気がする。

 この調子だと、フォンスやカフカ達は目も当てられない事態になっているかもしれない。

 いつも調子の良い二人が朝から項垂れている姿を見てやろうと、早速ドアを開け共用部に向かった。


「おう、ベルンハルト。

 なんか元気なさそうだな。」


 廊下でばったりフォンスと鉢合わせる。

 昨日の顔とは打って変わって顔色もよく、動きもいつも通り俊敏だ。


「あ、あぁ……おはよう……。

 お前、二日酔いになってないのか?」


「なるわけねぇだろ!!

 そんな、いい大人が情けねぇ。」


 フォンスが手を叩きながら大笑いする。

 その呑気な姿に、ベルンハルトは唇を噛み締めた。


 (そうだ、こいつ……。

  アルコールが抜け切ったらすぐに元に戻るんだった……。)


「……すまん。

 お前、まさか二日酔いか……。」


「ああ、そうだよ、悪いか?」


「いや、三日酔いしなけりゃセーフだ!

 き、気にすんな!

 ほら、多分クルトはもっとひでぇ有様だと思うぞ。」


「僕はピンピンしていますが?」


 足音もなく、背後から声が聞こえた。

 二人が同時に振り向くとそこにはクルトが腕を組みながら立っていた。


「うわ、クルト!

 お前大丈夫だったのかよ。」


「失礼ですね。

 医師を志す者、自分が病に侵されてどうするんですか。」


 クルトが目を泳がせる。


「よく言えたな、それ……。」


 ベルンハルトが頭を抱えた。

 第二十師団結成にして5日、なんとなく隊員との距離が掴めた気がした。


「つーか、第十九師団の人たちってもう起きてんのか?

 まだ見てねえんだよな。」


「僕もまだ見ていません。」


 三人が共用部の食卓に向かう。

 ――ドタドタドタ!!!!!!

 慌ただしい足音が、廊下の先から聞こえてきた。


「なんだ?騒がしいぞ。」


少し小走りになりながら、声の元に向かう。

その直後、聞き覚えのある大きな声が寮内に響き渡った。


「おはよう!!!!!ベルンハルト!」


「あ、アーノルドさん!?」


「久しいな、隊長任命会議の時ぶりか!

 どうやら素敵な仲間に恵まれたとミザンさんに聞いたぞ。」


 アーノルドが豪快に笑う。

 フォンス、クルトは呆気に取られポカンと口を開ける。


「こ、この方が第十九師団の……?」


「おお!初めまして。

 アーノルド・ハイドレンジア、第十九師団の隊長だ。

 ずっと後輩達に会いたくて、報告会のお誘いをしに来た。」


「報告会……ですか?」


「ああ、最近の害魔獣被害を鑑みて、定期的に開催しているんだ。

 今は急ぎの任務もないし、顔合わせも兼ねて合同でしようと思ってな。

 正午にあの会議室に来てほしい。」


「わかりました、よろしくお願い致します。」


 ベルンハルトが頭を下げる。


「君達の名前も聞いていいか?」


アーノルドがフォンス達に視線を移した。


「フォンス・フレッドです!

 一応、リーヴァロットの士官学校に通ってました!!」


「クルト・マールテンと申します。

 ヒーラーとして加入しました。」


 二人の自己紹介を聞きながら、アーノルドがうんうんと頷く。


「フォンスに、クルト、か!

 よろしく。

 後ほど詳しく聞かせてもらおう。

 それじゃあ!」


――その瞬間。

 大広間の窓から、颯爽とアーノルドが飛び降りた。

 タタタ……と警戒に走り去る音が聞こえ、しんとその場が静まり返った。


「な、なんて豪快な人なんだ……。」


 あのフォンスが珍しく目を丸くする。


「アーノルドさんらしいな……。」


 アーノルドが居なくなってから、場が一気に静まり返る。

 共用部にはミザンもいなければ、早起きのカフカもいない。

 机の上には、焼きたての蜜焼きパンだけが悲しそうに並んでいた。


「あれ、カフカちゃんはいないのか?」


「カフカさんこそ、二日酔いかもしれないな。」


「初飲酒ですしね……。」


 三人は机に腰掛け、ミザンの用意した熱々のパンを口に放り込んだ。


「ミザンさんって何時に寮に来てんだろうな。」


「あの人は、城側の食堂も手伝いに行ってるからな……。

 俺たちよりも忙しいと思うぞ。」


「へぇ、忙しいんだな。

 てことは、このパンも食堂から運んできてるのかね。」


「そうだな。

 寮に窯はないから、食堂の設備で調理してるんだろう。」


「あーーーーーー!!!先に食べてる!」


 耳を劈く大声に、ベルンハルトの頭痛は一気に悪化する。


「ずるいずるい、私も呼んでよ。」


「おはよう、カフカさん。

 ……珍しく今日は起きてくるのが遅いんだな。」


「あぁ〜……。

 うん、なんかね、頭が痛くて……。

 ズキズキして起き上がれなかったんだぁ。」


 カフカが唇を尖らせる。


「カフカちゃん、二日酔いっていうんだぜそれ。」


「え?二日酔い??」


「ああ、酒を飲んだ次の日まで体調が悪くなるんだよ。

 ほどほどにしような。」


「えー、フォンスに言われたくないよ。」


「う!」


 フォンスが天井を仰ぐ。


「ごもっともだ、お前が一番迷惑だったぞ。」


「うう!刺さる!刺さるぞ!!」


 言い返せないまま、フォンスが項垂れた。


「ああ、そうだ。

 カフカさん、今日は午後から報告会に参加することになった。」


「報告会??」


 カフカが首を傾げる。


「ああ、先程アーノルドさんが誘いに来たんだ。

 第十九師団との顔合わせも兼ねて、だ。」


「わぁ、面白そうだね。

 ……でも、私エーテルが使えないって知ったら、追い出されたりするのかな。」

 

 その言葉に沈黙が落ちる。

 だが、すぐにベルンハルトが口を開いた。


「大丈夫だ。

 俺も使えないからな。」


 目を伏せながら言う。

 カフカはすぐに笑顔になり、椅子に座った。


「うん、ありがとう。

 そうだ、第十九師団に魔術師さんはいないのかな。

 せっかくだったらコツとか聞きたいんだけど……。」


「どうだろうな……。

 俺はアーノルドさん以外の隊員を知らないから、なんとも言えないが。」


「ベルンハルトですら知らないなんて、面白いね。

 ああ、早く正午にならないかなぁ!!」


 カフカが、大好物の蜜焼きパンを手に取り、嬉しそうに頬張った。

 ――ただいま朝9時。

 報告会まで、あと3時間――。


 ――――――


 正午。

 朝の肌寒さとは打って変わり、日差しが暖かくエーテル城を照らしていた。

 新緑の匂いが漂い、野鳥は昼の餌を探しながら木々を往来している。


「報告書……、なんとか間に合ってよかったね。」


 カフカが気だるげにヒールの音を城内に響かせる。

 右手には大事な杖、右手には件の報告書が握りしめられていた。

 ――エーテル城内部。

 観光の名所となっている城の正面部分ではなく、城で働く者のみが入ることが許される場所だ。

 騎士団の本部、会議室、医務室――まさにエーテル国の戦闘力の中枢と言っていいだろう。


「意外と報告書を書くのも悪くないですね。」


「マジ?クルトお前、変わってんな……。

 次からはオレの分まで書いてもいいぞ?」


 フォンスが眉を顰める。

 その様子を見て、クルトの口元が緩んだ。


「フォンスさんって、もしかして座学苦手でした?」


「ああ、苦手だ。

 成績は下から数えた方が早かった。」


「あー!!バラすなバラすな!!!」


 四人の笑い声が、無機質な廊下に響く。


 ――その頃、会議室。


「お、騒がしいな。

 来たんじゃないか?」


「ボクたちとの顔合わせだっていうのに、緊張感のない奴らだね……。」


「緊張感なんていらないんだよ。

 堅苦しいのは苦手だからな!」


「そうだねー。

 ん……女の声?」


 エレーシャのとんがった耳がピクリと動く。


「ああ、第二十師団には女性も属しているらしい。」


「はぁ〜!?

 新人に女がいるだなんて聞いてないんだけど?」


 エレーシャが頬を膨らませる。

 アーノルドの方を一瞥し、短いため息をついた。


「ボクよりも魔術の扱いが下手だったら絶対に追い出してやるんだから!

 ていうか、アーノルドに惚れちゃったらボクどうしたらいいの?!」


「ははは、誰でもお前みたいに恋愛しに来てるわけじゃないと思うぞ?」


「ボクは誰でも好きっていうわけじゃないの!」


 エレーシャがアーノルドに向かってエーテルを放出する。

 次第にそれは水分へと変わり、彼の顔にぱしゃりと直撃した。

 

――トントン。


会議室の喧騒を遮るように、控えめなノック音が響いた。


「ベルンハルトです。

 第二十師団、ただいま到着しました。」


「ああ、入ってくれ。」


 アーノルドが服の袖で顔を拭いながら答えた。

 ガチャ、と扉が開く。


「定刻通りに始められそうだな。

 さぁ、好きなところに腰掛けてくれ。

 ――今回は、新生特撰部隊の顔合わせ兼、害魔獣遠征報告会だ。」


 四人が次々に会議室へと、足を踏み入れる。

 任務とは違う緊張で、誰もが顔を強張らせていた。

 一方、エレーシャはムスッとした顔つきでカフカを睨みつけている。

 机に肘をつき、まるで品定めでもするような視線だった。

 

(こいつが女?

 いや、もしかしたらこう見えて男かもしれないな……。)


 ちらりと横のクルトに視線を移した。

 

 (じゃあこの横の白衣の……。

  流石に背丈も高いし、なんだか骨ばっている気がする……。

  じゃあこの黒髪が女か……。)


 カフカは、エレーシャからの熱烈な視線に気付き、顔を上げた。


 (わぁ、すっごい可愛い女の子がいる!?

  さっきから見ててくれたみたいだけど気づかなかった……。

  あとで話しかけないてみようっと!)


 精一杯の笑顔で、エレーシャを見つめ返した。


 (何!?あの女、宣戦布告とでも言いたいワケ!?)


 エレーシャが唇を噛み締めた。


「それじゃあ、改めて自己紹介からいこうか。」


 エレーシャは、アーノルドの声で我に帰る。


「まずは第十九師団のメンバーから紹介しよう。

 俺は、アーノルド・ハイドレンジア。

 第十九師団の隊長で、特撰部隊の総隊長も一応務めている。

 これから先、長い付き合いになるだろう。

 どうかよろしく。」


ベルンハルトは静かに礼をした。

 フォンスは大きく拍手をする。

クルトはが控えめに手を叩き、カフカは目をキラキラさせながら拍手をした。


「……で次が。」


 エレーシャがスッと立ち上がった。


「エレーシャ・プルウィア。

 この隊のヒーラー担当だよ。

 ボクの癒術はエーテルでも最高峰だから。」


 紹介を聞き終える前に、思わずクルトが身を乗り出した。


「あ、あの、もしかしてエーテル国お抱えの伝説のヒーラーって――。」


「何?ボクのこと知ってるの?」


「噂でお聞きしたことがあって……。

 僕がエチルエーテル市に流れ着いたのも、その噂を頼りにしていたからです。」


「そうだよそうだよ!ボクこそエーテルナンバーワンヒーラー!

 君、もしかしてヒーラー?」


「はい。

 まだまだ未熟ですが。」


「ボクにも後輩ができるなんてね……!

 気に入ったよ。」


「はいはい、そこまで。

 じゃあ次で最後だ。」


 ベルンハルトは目を丸くする。

 ――この無類の強さを持つ第十九師団は、たった三人で構成されていたのか、と。


「今日くらいは魔術の研究は置いておけよー。

 お前の後輩なんだぞ?」


 アーノルドが、本棚に向かって呆れたように声を投げる。

 会議室に入った時には気配すら冠しなかったのに――そこに人影があった。

 本棚の影の奥で、ゆっくりと本が閉じられる。

 パタン、と乾いた音が響く。


「ああ……いい所だったのに。」


 落ち着いた声、だった。

 でもその声色はどこか冷たかった。

 

「手短でいいかい?」


 コツコツ、と革靴の硬い音が床を叩く。

 その一歩ごとに、空気中のエーテルが微かに揺れている。

 肌に触れる空気が、静かに温度を失っている。

 窓の外には、正午の日のざわめきがしっかりとそこにはあるのに。

 本を片手に椅子にゆっくりと腰掛ける。


 病人のように白い肌。

濃い鼠色のさらりとした髪が目元にかかり、表情がうまく読み取れない。

メガネのレンズ越しに覗く瞳だけが、静かにこちらを見ていた。

その視線は――まるで氷のように冷たい。


「ヘイルです。

 このチームでは、後衛の魔術師として働いている。

 よろしくね。」


 ヘイルが喋るたびに、空気が冷える。


ベルンハルトが息を呑む。

アーノルド、エレーシャとは全く違う、圧倒的強者。

動作をするたびにエーテルが揺れることが常人にできるのであろうか。


「よし、俺たち三人は以上だ。

 次は第二十師団の番だ、よろしく頼むぞ。」


 アーノルドがじっとベルンハルトを見据える。


「っはい!」


 張り詰めた空気の中、第二十師団の自己紹介が始まった――。


ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!

第十九師団のメンバーがついに全員登場しました。

水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

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