表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

15.アーノルド、帰還


「おお!久しぶりに帰ってきたらやっぱり騒がしくていいなァ。

 あっはっはっは!!!」


 アーノルド・ハイドレンジア。

 ――第十九師団をまとめ上げる凄腕の隊長だ。

 ベルンハルトとはさほど変わらない年齢。

 それでいて、高ランクの討伐依頼を次々とこなす化け物師団を率いている。

 ただ、表舞台に上がっているのは隊長である彼のみ。

 同じ特撰部隊に所属する、ベルンハルトでさえ、他の隊員を見たことがない。

 何人いるのか。

 どのような連携で害魔獣を討つのか――。

 その実態を知る者は、誰も居ない。

 自分の体躯よりも遥かに大きな荷車には、巨大な龍種の死骸が積まれている。

 それを難なく引きながら、依頼を終えてすぐとは思えないような朗らかな態度で、民衆に愛想を振り撒く姿はまさにこの国の英雄と呼ぶに相応しい。


 ベルンハルトは生唾を飲んだ。

 同じく討伐任務をこなしてきたとはいえ、彼とは魔術の精度も、体力も、技術も――彼とは桁違いだ。

 右腕には今回の任務で無様に負った傷。

 背には頼れる味方であったフォンス。

 右にはウトウトと目を擦るカフカ。

 左には……満身創痍で項垂れているクルトが居た。


 (俺たちは、第十九師団のように立派に害魔獣と戦えるのか。

 ベルンハルトは、じっと遠くなるアーノルドを見つめた。


「……その前に、寮に帰るか……。

 ほら、行くぞ。

 クルト歩けるか?」


「はぁ……外の空気を吸ったら落ち着きました……。

 ご迷惑をおかけて、申し訳ないです……。」


 クルトが立ち上がり、ベルンハルトに土下座する勢いで頭を下げた。


「……酒はほどほどにしような。」


「はい……。」


「zzz……。」


ベルンハルトを先頭に、第二十師団はゆっくりと歩き始めた。

寮への道はまだまだ遠い。


――――――


 エーテル城、入り口近く。

 夜もすっかり更けているというのに、竜の死骸を囲みながら仕入れの作業が行われていた。

 

「それじゃあ、この肉は市場に搬入。

 んで、こっちの鱗は――。」


「ちょっとぉおお!!!

 本当にそのでかい死骸、持って帰ってきたのぉ!?」


 エーテル城内から、小さな影が全速力で近づいてきた。

 薄桃色と、淡い水色が交差する長い髪。

 柔らかく白い肌は、雪のように透き通ってみえる。

 長いまつ毛が揺れ、金色の瞳が、夜に浮かぶ星のように輝いている。

 市場の人間たちは、その人間離れした美貌に思わずざわつく。


「ああ、エレーシャじゃないか。

 お風呂の時間には間に合ったのか?」


「はぁ!?

 こんな薄汚い男たちの前で、乙女のお風呂の話なんかしないでよねぇっ!

 裸でも想像されたらどーすんの!?

 ていうか、臭い!

 さっさとお風呂入っちゃってよ。

 傷だって深いんだから、治療しないとじゃん。

 ボクが寝ちゃう前に、終わらせないと、治してあげないから!」


「ああ、悪い悪い。

 さっさと終わらせるから、そう怒るなって。

 そういえば、ヘイルはどうしたんだ?

 トドメを刺した後、すぐに帰っちまったから腹でも空いてるのかと思ってよ。」


「……ヘイルねぇ……。

 あいつ、帰ってきた途端に引きこもりっぱなしだよ。」


「ははは!!!

 相変わらず勉強熱心だなぁ!

 俺も見習いたい!」


「アーノルドはそーいうの苦手でしょ。

 ボク、先に戻ってるからね!」


 エレーシャは言いたいことだけを一気にまくし立てると、そのままくるりと踵を返し城内へ戻っていった。


「――っつーわけでよ。

 この肉たちの処理は、市場の一存で管理してもらってもいいか?

 俺も治療があってな。

 そのかわりと言っちゃなんだが、無料(ただ)で持って言ってくれ。」


「アーノルドさん、いつも本当にありがとうございます。」


「第十九師団様のおかげで、我が国の竜肉供給は安定しています!」


「いいんだよ。

 なるべく手ごろな値段で提供してやってくれよ。

 俺も酒場で食う肉が一番好きだからな。」


 アーノルドは、空になった荷車を引きながらエーテル城の中に消えていった。

 彼の去った後には、市場の人間の騒めきだけが残されていた。


「この量をたった一人で……。」


 商人がざらりとした竜の表面をなぞる。


「ああ、相変わらず恐ろしい力だ……。

 魔術師でも、十人は必要なほどの重さだぞ、この肉。」


「見ろ、この裂傷。

 一撃で仕留めないと、こんなに綺麗に肉は残らないぞ。」


「心臓をひと突き……か。

 どんなスピードしてんのかねぇ。」


「しかも、これが毎回だからな。

第十九師団が帰還した日は、必ず竜肉が市場に並ぶ。」


「とにかく、市場に運び込みましょうか。」


 第十九師団の仕事っぷりに、唖然とする者たち。

 それぞれが魔道具や飼育用ゴーレムなどを使い、竜肉を運んでいく。

 生ぬるい空気が城門を漂う。

 濃い血の匂いが鼻を掠め、顔を顰める者もいた。


 エチルエーテル市の食生活に、竜肉は欠かせない。

 炎龍種、氷龍種、雷龍種――。

 それぞれの違う属性のエーテルを纏う龍種たちが国の各地で空を支配していた。

 人里を襲い、生命環境を脅かす魔獣。

 いつしか人々は、それらを害魔獣と呼ぶようになった。

 龍種は、その中でも特に危険度の高い存在であり、高ランクの討伐依頼として扱われている。

 民間の討伐隊の実力者でさえ、手を焼くほどの脅威なのである。


 ――――――


「おお、アーノルドじゃないか!

 今回の任務はなかなか長引いたんじゃないか?」


 ――エーテル城、寮内。


 アーノルドの帰還に、ミザンが駆け寄った。


「エレーシャがずーっとお前を医務室でお待ちだぞ。

 ずっと愚痴を聞かされる身にもなってくれよ……。」


 ミザンが頭を抱える。

 そんな姿を見て、アーノルドが吹き出した。


「あっはっはっは!!!

 すみません、ミザンさん。

 エレーシャには強く言っておきます。」


「ああ、頼むぞ!本気でな!

 俺よりもずいぶん年上だから、口ごたえできなくて困ってるんだよ。」


「――誰が年寄りだってぇ?」


 音もなく忍び寄る影。

 アーノルドの背後には、いつの間にか小柄なエレーシャが立っていた。


「年寄りなんて言ってねぇよ!」


 エレーシャがミザンをギロリと睨んだ。

 アーノルドは板挟みになり、身動きを取ることができない。


「あのね〜。

 見た目は絶対にボクの方が若々しいんだから!!

 そーいうとこだよ、オ、ジ、サ、ン!!!」


「オジサン!!!

 まぁ、お前らよりかは老けてるけどよ……。」


「エレーシャ、それくらいにしろ。

 ミザンさんが落ち込んだら、明日は飯抜きだぞ。」


「俺は飯炊き用員かよ!」


 エレーシャは、くるりと踵を返す。

 

「んー、それは困っちゃうなあ。

 オジサンのご飯はとびきり美味しいからね。

 とりあえず、ボクは医務室にいるから。

 30分以内に風呂、上がってきてね!

 絶対、絶対だからねー!!」


 勢いよく扉が閉まる。

 先ほどよりも軽やかな足取りで、エレーシャは城内に駆けていく。

 アーノルドは、背中に背負っていた大剣を玄関に立てかけ、一息つく。

 彼の体躯よりも大きな武器の刃には、ところどころに霜がついていた。

 銀の刃には、うっすらと凍った跡が残っており、ミザンがそれをじっと見つめる。


「おい、珍しく味方の魔術でもまともに喰らったのか?」


「いや……?

 アイツはそんなにコントロール悪くないですよ。」


「あー、まあそうだよな。

 でもお前の剣、凍結した跡があるからさ。

 流れ弾でも当たったのかと思ったんだよ。」


「今回の氷龍種の討伐はかなり簡単な部類でしたよ。

 正直、後衛は暇そうでしたし!」


「――氷龍種?」


 ほんのわずかな沈黙。

 アーノルドがキョトンとした顔でミザンを見る。

 次の瞬間、ミザンが何かを思い出したかのように大きな声を出した。


「待て、今回はどこの任務だったんだ?」


「あぁ、えっと。

 ――リーヴァロット市の氷龍種の任務ですが……。」


「あああああああああ!!!

 待て、それランクなんだった?」


 アーノルドが少し首を傾げながら口を開く。


「確か4だったはず、それがどうかしたんですか?」


 その言葉を聞き、ミザンの顔色がみるみるうちに青ざめていく。


「アーノルド、すまない。

 俺のミスだった。」


「はい?」


「それは新入りたちの任務だ!!!!!!!!!」


「えぇええっ!?

 ベルンハルト達は無事なんですか?」


「あぁ、無事だ……。

 やけにボロボロになって帰ってきたなと思ってたんだよ……。

 アイツら、いきなり高ランク帯の炎龍種を倒してきたのか……。」


「あっはっはっはっは!!!!!

 こりゃすげェな!!!」


 アーノルドが豪快に笑った。

 

「ミザンさん、アイツらなかなかやりますね。

 ――きっと、俺たちをすぐに超える立派な師団になりますよ。」


「お前らみたいな怪物になるには時間がかかりそうだけどな。

 ……って、もうこんな時間じゃないか。」


「エレーシャをこれ以上怒らせたら、三日は回復魔術無しで特攻させられそうだ。

 それじゃあミザンさん、また明日。」


 アーノルドは快活な笑顔を残し、去っていった。


「はぁ……。

 とりあえず、ベルンハルト達が帰ってきたらなんて言おうかね……。」


 ミザンが頭を掻く。

 

 「詫びに俺のお気に入りの、超上等エーテルビールでも飲ましてやるか。」


 ――その選択は、今この瞬間、最も不正解に近かった。

 玄関に置かれた、高ランク帯の依頼表たちを手に取る。

 そこには、害魔獣に関する討伐依頼が大量に書き連ねられていた。

 ランクは10から1で表されている。

 本来ベルンハルト達は、3か4程度の依頼を受けるべきだったのだが――。


「えーっと、炎龍種、炎龍種っと。

 第十九師団に直々にご依頼が来たやつだから……高ランクだったはずなんだよな。」


 パラパラとページを捲ると、洞穴の炎龍種の文字が見えた。


「ッ!?」


 ミザンは息を呑んだ。

 そこに記されていたのは、()()()7()という文字だったからだ。


「ランク7だと――?」


「逆にどうやって、炎龍種を討伐したんだよ!?」


「ミザンさん――聞こえていますよ。」


 ガチャッ!!!

 ドアが勢いよく開く。

 ミザンが顔をあげると――。

 そこには怪訝な顔をしたベルンハルトが立っていた。

ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!

次回から遂に、第十九師団が登場します。

水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ