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12.灼熱の洞穴へ(後)


「にしても、ベルンハルトたちはどこに行っちまったんだ……。

 全然人の気配がねぇ……。」


 フォンスが岩壁にもたれかかるようにして、へたり込んだ。

 少し疲れと焦りもあるのか、大きなため息もつく。


「相当歩きましたが、これほどまで見つからないとは。」


「入口から結構離れちまったな。

 くそー……救難信号を出すにも、ここからどうやって引き返せばいいんだ?

 道順とか一つも覚えてねえぞ。」


「大丈夫です。

 入り口から2メートル間隔に、エーテルが反応する薬草を置いてきています。

 もしものことがあれば、これらを辿りましょう。」


 クルトが岩場の隙間を一瞥する。

 暗い岩場が淡く光った。

 一つの薬草に反応して、次々にさっき来た道が発光し始めた。


「すげぇな!!

 オレ、こんな繊細な魔術が使えるやつ、初めて見たぜ!」


フォンスは思わず立ち上がり、手を叩く。


「ふふ、僕もこんなに褒められるとは思いませんでした。」


「オレ、こういう魔術スッゲー苦手なんだよな……。

 士官学校でも、座学の成績は下の下だったし……。」


「こういうのは、草魔術や水魔術の専売特許みたいなものですからね……。

 逆に、僕はフォンスさんのような派手な魔術は苦手です。

 要するに、得手不得手なんですよ。」


 薬草の淡い光とは対照的に、フォンスの頭上には雷魔術の球体が浮かび、洞穴を白く照らしていた。

 ベルンハルトたちと逸れた場所から随分と離れており、少しずつ熱気が岩壁から漏れ出している。


「そういえば、クルトって何歳なんだ?

 オレたちよりも随分賢いし、ずっと年が気になってたんだよ。」


「僕ですか?

22歳の誕生日が来たばかりです。」


「え、そんなに変わんねぇじゃん!

 オレ、20歳だぜ。

 二年後にクルトくらいの知識が付いてっといいなー。」


「知識の前に、フォンスさんは回復の痛みに慣れましょう……。」


「う、痛いところをつくのはやめてくれ。」


 二人が和気藹々と話を進めていた――その瞬間だった。


 洞穴の奥から、身を揺さぶるほどの轟音。

 ドゴォオオオオオオオッ!!!!!

 鼓膜を劈く振動、熱を帯びるような灼熱の咆哮。

 思わずクルトとフォンスは身構える。

 ……だが、前方を確認しても、咆哮を放つ魔獣はそこにはいない。


「フォンスさん!

 地下からです!!!」


「地下か!?」


 クルトは咄嗟に、揺れる岩場に手をかざす。

 エーテルが反応し、手のひらが薄い緑色で光り出した。


「間違いないです。

地下から超高濃度のエーテル反応!

 この下に、超特大の害魔獣がいます――。」


「嫌な予感っつーのは当たるもんなんだな。

 ベルンハルトたちはいるのか?」


「わかりません。

 そもそもお二人は、エーテル回路がないので……。」


「サンキュ。

 わかんねえなら、うだうだ言ってらんねーな。」


 フォンスの右手が、バチバチと大きな音を立てる。

 宙に浮いていた発光体が消え、フォンスの持てるエーテルが全て、装甲に流し込まれる。

 その眩しさに、思わずクルトが目を細める。

 空気中に帯電している雷魔術が弾け飛ぶ。


「どぉりゃああああああッ!!」


 地下の咆哮に合わせて、フォンスの雷魔術が地面へと突き刺さる。

 たちまち、床には大きな亀裂が入り、大きな音を立てて崩れていく。


「クルト、しっかり捕まっとけよ!」


「僕、一人で降りれますけど!?」


 フォンスがクルトをがしりと担ぎ、地下空間に勢いよく落ちる。

 荷物は置き去られ、薬草たちは淡く光り続けている。

 灼熱が、二人の身体を焼き切りそうだ。

 熱風が漂い、浴びるだけで火傷してしまう感覚。


「なんだありゃ!?

 地下にいていいサイズじゃねぇぞ!?」


「ッ!!

 フォンスさん、あそこ!

 ベルンハルトさんたちが交戦中です!」


 上空から見る地下空間は――見るも歪な場所であった。

 入り口の大きさよりも遥かに大きな体躯の炎龍種が、人間と交戦していたのだ。


 ベルンハルトが、必死に隙を探すように炎龍種に近づき、斬撃を喰らわせる。

 その度に、炎龍種が巨大な火炎をベルンハルトに浴びせる。


「っしゃ、着地すんぞ!!!」


 フォンスが勢いよく、地面に雷魔術を放つ。

 二人分の着地を魔術で相殺――。

 炎龍種の火炎と混ざり、黒煙が上がった。


「フォンス、クルト!!!」


 カフカの険しい表情が、柔らかくなる。


「悪い、遅くなった!!!

 二人とも、怪我はしてねぇか?」


「ああ、大丈夫だ。

 ――フォンス、クルト、一気に畳み掛けるぞ。」


「おう!」


「もちろんです。」


 三人が目を合わせ、頷いた。


 ――

 

 ベルンハルトが剣を再度構え、大気のエーテルを込めた。

 颯爽と踏み込み、炎龍種の腹の部分を突き刺す。

 ブチブチ!と皮膚が裂ける音がして、また咆哮が地下空間に響き渡った。

 ふぅ、と息を漏らす。

 先程までの消耗で、少し体の動きが鈍い。

 巨体から、漆黒の鱗が揺れとともに剥がれ落ちる。

 鱗の隙間から、赤黒いエーテルが滴り落ちるのが見えた。

 

 瞬く間に、フォンスが走り抜ける。

 ベルンハルトの動きよりも速い。

 瞬きを終える前に、炎龍種の懐に飛び込み、強大な雷魔術を浴びせる。


 バリバリバリバリ――!!


「フォンス!!

 剥がれた鱗の中を狙え!!」


「おうよ!!」


 まるで、内臓が薄く透けているかのような不気味な体表だった。

 ベルンハルトの指示通り、フォンスが更に打撃する。

 鱗の隙間が裂け、一気に赤黒い血が噴き出す。

 ボタボタと大量の液体が床に滴り落ちた。

 ギャアアアアアアアッッッ!!!と炎龍種が叫ぶ。


「苦しそう……。」 


 カフカがぽつりと呟いた。

 その体躯が、苦しそうに蠢くたびに、地面が大きく揺れる。

 暴れる炎龍種を見つめ、ギュ……と力無くカフカが杖を握りしめる。


「カフカさん、大丈夫ですか?

 顔、真っ青ですよ。」


 座り込むカフカに、クルトが緊張を和らげようと優しく話しかけた。


「あ、うん……。

 ごめん、みんな命をかけて戦ってくれているのに。

 クルトは何をしているの?」


「この空間を草魔術で固定して、崩れるのを防いでいます。

 地下はそこまで強度があるようには思えませんから。」


 クルトが真剣な顔をしながら、じっと天井を見つめる。

 フォンスが豪快に天井を破壊したのもあり、攻撃が繰り出されるたびに、少しずつだが天井の崩落が進んでいる。


 炎龍種が悶えながら地面に倒れ込む。

 先程まで火炎を放ちながら暴れていたのが嘘のよう。

 ベルンハルトが切り裂いた傷がよほど大きかったらしい。


「……効いてる。

  致命傷みたいだな。」

 

「トドメだッ!!!」


 赤黒い血液を帯びながら、フォンスが豪快に飛びつき、炎龍種の腹部を貫いた。

 先ほどよりも激しく出血し、ぴくりとも動かなくなった。


「や、やったの……?!」


「みたいですね。」


 クルトが魔術を中断し、過酷な戦闘を繰り広げた二人の元へ駆け込む。

 カフカは、炎龍種の死骸を前にその場から動けなくなってしまった。


「ベルンハルトさん、フォンスさん、大丈夫ですか!?」


「ああ、大丈夫だ。

 俺よりもフォンスを診てやってくれないか?

 かなり激しくエーテルを消耗しているはずだ。」


 ベルンハルトが、フォンスを一瞥する。


「悪ィ、クルト。

 今のでだいぶエーテル使い切っちまった。」


「一時的ですが、体内のエーテルがかなり減っていますね。

 深呼吸してください。」


「うぅ……。

 気持ち悪ィな……。

 こんなに連続で魔術を使ったのは久々だぜ……。」


 フォンスがクルトにさすられながら、床に這いつくばりぜぇぜぇと呼吸している。

 その様子を見たカフカが、ゆっくりと立ち上がり3人の元へ駆け寄ろうとした。

 ――瞬間、死骸だったはずの炎龍種がピク、と蠢く。

 フォンスの全力の雷魔術で貫かれた腹部が、みるみるうちに再生しはじめていた。

 グオォ……と力無い咆哮が地下空間に響く。

 炎龍種の口からは、以前よりも高い出力の火炎玉が生成されている――。

 赤黒く血走った不気味な目がギロリとカフカを睨む。


「なっ?!

 終わったんじゃねぇのかよ!?」


 介抱されているフォンスが飛び起きる、が。

 エーテルの消耗が酷く、立ち上がる事ができない。

 よろけるフォンスを、クルトが支えた。

 

 ――そして、カフカ目掛けて火炎が放たれた。

 轟々と音を立てて、大気のエーテルが焼き尽くされる。


「あ――。」

 

 先程とは比にならないほどの、不快な熱さ。

 ぎゅっと目を瞑る。

 嫌な焦げ臭さが、やけに鼻についた。

 燃える。燃える。

 

 (あぁ、お母さん。

 私も、お母さんみたいに焔魔術を使って、誰かのこと救いたかったのに。)


 ――カフカの前に、影が落ちた。

 焼けつく熱の向こう側に、誰かの背中が見えた。


「カフカ!!!」

ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!

ついに初任務もクライマックスに差し掛かりました…!

水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

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