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10.役に立てなくて、ごめんね


 ――3人が振り返ると、カフカが深く頭を下げていた。

 杖を握りしめている手は、フルフルと震えている。


「役に立てなくて、ごめんなさい!」


 森に吹く風が、杖を揺らし、この場に似つかわしくない騒がしい金属音を立てていた。


「カフカちゃん、顔を上げてくれよ。

 オレたち役に立たないとかひとつも思ってないぜ?」


「そうですよ。

 僕がゴーレムの足元の脆弱性を見つけられたのは、カフカさんの杖を取りに行ったからです。

 なので、カフカさんがいなければ咄嗟に爆弾を調合しようと思いませんでしたよ。」


「結果として、カフカさんがいたから勝てた。

 気にしないでくれ。」


「そんな…、そんなわけないよ……。

 昨日だって、せっかくみんなと一緒に補助水晶を選びに行ったのにひとつも意味なかったもん……。」


「あれは、魔術の練習が足りなかったんだよ。

 気にすんな!任務が終わったら、ゆっくり魔術道具を使う練習でもしようぜ。」


「俺も、すぐに初任務を持ってきたのが悪かった。

 すまない。」


「本当にごめん……。

 しっかり練習する。

 今回は足手纏いにならないように頑張るよ。」


「誰だって魔術を初めて使う時は不発するもんさ。

 今となっては楽しく戦えるけど、最初の方はエーテルを動かすのに必死だったしな!」


「ええ。

 僕も非戦闘員なので、カフカさんの気持ちはわかりますよ。

 無理せずに進みましょう。」


「うう……、ありがとう……。」


 カフカは少し泣きそうになりながら、3人に何度も頭を下げた。


「ベルンハルトさん、フォンスさん。

 怪我をしているのであれば見せて下さい。

 洞穴に入る前にしっかり治療をしましょう。」


「ありがとな!

 ……そういえば言ってなかったんだけどさ。」


 さっきまでピンピンしていたフォンスが、ぴたりと止まる。


「――クルトの薬品って、結構滲みたりするのか?

 オレさ、回復魔術系の痛みが苦手でよ。

 なんかこう、傷に染みる感覚が嫌で――」


 フォンスが言い終える前、だった。


「こんな感じなので痛くないですよ。」


 クルトは淡々と答えながら、すでに薬品を塗り終えていた。

 こんなところでも、先程の速度が活かされているなんて、とカフカは感心しながら目を輝かせる。


「いってえええええ!!」


 森にフォンスの絶叫が響き渡る。

 先ほどのゴーレムが倒れる音と張り合えるくらいの声だった。


「大袈裟ですね。

 かすり傷ですよ?」


「いやかすり傷とか関係ねぇから!

 普通に痛い!!

 痛いもんは痛ぇの!」

 

 ベルンハルトが呆れたようにため息をついた。


「お前は昔から回復のことになったら騒ぎすぎなんだよ……。」


「ベルンハルトさんも薬、塗りますよ。

 ほら、足怪我してるでしょう。」


 フォンスのことを冷めた目で見ていたベルンハルトだったが。

 クルトが近づくと、なんとなく後退りしたくなった。

 後ろには無傷のカフカ、彼女にはこの治療を押し付けることは不可能だ。


「ほら、痛くないでしょ。」


「あ、痛っ……。

 これ地味に痛い。」


――――――


 治療を終え、フォンスがぶつぶつと言いながら腕を摩っている。

 いつも勝ち気で元気なフォンスも、今回ばかりは少し萎れていた。


「痛い……。

 戦いの傷なら耐えられるのに、なんで回復の痛みは耐えられないんだよ……オレ……。」


「本題に入りたいのですが。」


 クルトが薬品をテキパキと片付けている。


「ゴーレムは、本来薄暗い洞穴や遺跡などに生息しているはずです。

 なのに、こんな森の真ん中で眠っているのは、おかしいと思うんです。」


「確かに、ゴーレムが森の中に居るわけないよな。

 つーか、わかってたらこんな事になってねぇし。」


「これは僕の推察ですが……。

 恐らく、討伐指定区域の洞穴に、厄介な害魔獣が住み着いているんじゃないでしょうか?」


「なるほど……!

 だから、こんなところで寝ちゃってたんだね。

 私が座ったせいで起こしちゃったの、申し訳ないことしたな……。」


「いや、どっちにしろゴーレムは不死性が強い。

 あのゴーレムも、時間が経てば破壊した部位が蘇るだろう。」


「ベルンハルトさん、依頼に害魔獣の詳細は書いていなかったのですか?」


 ベルンハルトが、内ポケットから依頼書をガサゴソと取り出した。

 先ほどの戦闘のせいでぐちゃぐちゃになっていたが、辛うじて文字は読める。


「害魔獣の詳細はない、な。

 ……どうやら、依頼を受けた民間討伐隊が二組全滅しているらしいが。」


「二組が全滅ですか……。

 かなり危険な依頼だったんですね。」


 カフカが身震いする。

 自分は非戦闘員かつ、支援も不可能な役立たずだ。

 もし自分のせいで、この民間討伐隊みたいに第二十師団が全滅でもしてしまったら……。


 (どうしよう、いざとなったら私が囮になってみんなを逃すしかない……!)


「なんだかろくな事考えてなさそうだな。」


「え?そんなことないよ、生存戦略。」


「まあとりあえず、ゴーレムが動き出す前に洞穴に入ろう。

 ここからは、さらに身を引き締めていくぞ。」


「おう!」


 ――――――


 先程の戦闘があった場所からほんの数分歩いた場所に、洞穴の入り口があった。

 木々には大きな爪痕が幾つも残されており、ここにどんな害魔獣が潜んでいるのかがなんとなく理解できる。

 クルトは洞穴に一番近い木の表面を見つめる。

 そっとザラついた爪痕を触り、首を傾げた。


「これは……。

 炎龍種の爪痕でしょうか。」


「炎龍種⁉︎

 なかなか厄介だなー。

 オレ、昔炎龍種に出くわしたことあるけど、めちゃくちゃ怖かったぞ。」


「まず、炎龍種がこんな大都市の近くに住み着いている事自体、変だ。

何があるかわからない、用心して進もう。」


 洞穴の中は、不気味なくらいに静かだった。

 エーテルで溢れている森の中にある洞窟には、豊かな生態系が構築されているはずなのだ。

 暗く、寒い。

 水が岩を伝い、地面にしたり落ちる音だけが、奇妙に響いていた。


「フォンス、魔術で照らせるか。」


「おう、任せな。」


 フォンスが拳を上に突き出す。

 すると、手のひらから白く光るエーテルの塊が浮かび出し、光のない洞窟をゆっくりと照らした。

 だが――先を照らしたとしても生命がいる気配はなかった。


「警戒した方がいいですね。

 こんな狭いところに炎龍種みたいな大きい害魔獣が飛び出してきたら、戦いづらすぎる。」


 洞穴の奥へ進むにつれ、空気がぼんやりと熱を帯びてきていた。

 ――まるで、何かの熱源がどこかにあるかのように。

 

「――なんか、暑い……。」

 

カフカが額から流れる汗を拭った。

ベルンハルトも異変に気付いたのか、壁に手を当てこの熱の原因を探そうとする。


「確かに……。

 これは魔術の類か?」


 カフカが不安そうに歩く。

 先程の戦闘で少し疲れているのか、足取りはふらついており、今にもよろけて転けてしまいそうだった。

 洞穴は進めば進むほど足場がかなり悪くなっているようだった。


「っ、うわ!?」


 熱を持つ岩場に、カフカの履いているヒールが引っかかり、カツン!と大きな音が響いた。

 咄嗟に彼女は、前に居た誰かの外套をぐいっ、と引っ張ってしまう。

 裾を引っ張られたのは、ベルンハルト。

 彼はバランスを崩すのをギリギリのところで耐え、カフカを支えた。


「大丈夫か?

 って……なんだ?これ。」


 ベルンハルトは、見たこともない紋様が足元の岩場で怪しく光を発している事に気づく。

 

 その瞬間。

 勢いよく岩壁が迫ってきた。

 洞窟に地鳴りが反響する。

 ゴゴゴゴォッ!!!

 耳を劈くような、激しい音だった。

 分断される――フォンスは直感でわかった。


「クソ!ベルンハルト!!

 カフカちゃんを頼んだ!」

 

 フォンスの声は虚しく洞穴に響くだけだった。

 前に進んでいた、クルトとフォンスは前に取り残され、後ろで二人を追いかけていたベルンハルトとカフカは先程までは無かった道へと投げ出されていた。

 さっきまでの轟音が収まった後、微かな水音が虚しく響くだけだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!

次回、分断された第二十師団はどのような行動に出るのか?!

水曜19時、日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです。

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

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