(短編版)王子の婚約者を殺した暗殺者、死に戻りしたので死ぬほど彼女をエスコートして参ります
俺の名前はレイ・ハーヴェル。今は処刑台にいて、死ぬ数秒前といったところだ。
「いやあほんと、レミィを殺しくれてありがとう」
このクズ王子は勝ち誇った目でこちらを見下ろし、指をパチンと鳴らした。おそらく処刑の合図だろう。
刃が俺の首に届くのを風圧で感じた。ああ俺は死ぬんだ。その刹那、相馬が脳内に流れた 。
いつも通り簡素な朝食を食べていると、一通の手紙が俺の元に届いた。封筒には王の印である封蝋がおされていた。仕事の依頼だ。ハーヴェル家は代々王専属の暗殺一族であり、俺は幼い頃から殺しをたたきこまれた。
どうやら今回は王子の婚約者である、レミィ・キャンベルを殺すらしい。でもなぜアレク王子は、こんな依頼をしてきたのだろうか。
まあいい、事情は聞いてはならない。それが我が一族に課せられたルールだ。依頼され、殺して、金を稼ぐ。このサイクルを淡々とこなせばいいのだ。
レミィ・キャンベル、国内屈指の名貴族の娘だ。移動の時はいつも護衛がついていた。どうやら彼女を殺す安全な方法は1つしかないだろう。
それは、彼女の通うアルフラント学院に編入生として潜り込むことだろう。この学院に入る方法は2つある。ひとつは、家柄だ。家柄がいいやつはだいたい受かる。そしてもうひつとは試験だ。この試験の難易度は相当なもので、人生逆転を夢見る若者が毎年1000人ほど受けるのだが、2、3人ほどにしか受からない。
まあ俺に残された選択肢は後者しかない。しかも編入試験となればさらに難しいだろう。だがまあ、こーゆー仕事は想定済みだ。俺は難なく試験を突破して、編入に成功した。
そこからラミィの行動を観察し、1番殺し安いタイミングを見計らった。ラミィは教室に着くのがはやく、一人でいつも読書をしていた。この時間が、1番簡単に殺せるだろう。
「ラミィさん、首元に蜘蛛がいますよ」
「え、うそ!?」
そう言って俺は、遅延性の毒を首に塗った。そして予め用意しておいた蜘蛛を見せた。
「ありがとうございます。えーと、たしか…」
「最近編入した、レイ・ハーヴェルです」
「編入されたのですか?レイさんはとても聡明な方なのですね」
「いえいえ。私は先生に頼まれて荷物を置きに来ただけなので、これで失礼します」
実に簡単な仕事だった。少々不信感は残るかもしれないが、誰も見ていないし、彼女も1時間もすれば死んでしまう。
彼女の死は瞬く間に学院中に広まった。俺はそれを聞いて、家に帰った。
ドン
深夜、大きい音と共に目が覚めた。ドアが蹴破られており、数人の武器を持った人間に囲まれた。この数、しかも相当な手練れだ。俺は抵抗を諦めて、流れに身を任せることにした。
「……?」
おそらく睡眠薬ん注入されたのだろう、目を覚ますと俺は牢の中にいた。
「やあ、レイくん。こんにちは。いや、君にはおはようが正しいかな?」
「アレク王子、これは一体?」
「まあ落ち着けよ。君を殺さなくちゃいけなくなったんだ」
「どーゆうことだ?」
王子はニタニタと笑みを浮かべ、語り出した。
「私には好きな人ができたんだ。レミィではない。でもキャンベル家の娘であるレミィとの婚約を破棄するなど、父さんが許すはずなかった。レミィは多分本気で俺の事好きだったよ。鈍感でちょろい女でさあ。俺も最初は婚約全然オッケーだったんだけど、もっと可愛い女の子を見つけちゃってねえ」
「それで俺に、レミィを殺させたと?」
遮るように俺は言った。ここは寒い。王子の長ったらしい話に付き合うことはめんどうだった。
「そうだ。でもまだ君を殺す必要性は生まれないよなあ?なんでだと思う?実はな、私の今好きな女、君が学院にいる間に君に恋をしたらしいんだよ。だから君を処刑しようと思って」
「そうか」
俺はクズだ。仕事は選ばないし、ただただ言われた通りに殺し続けてきた。人を殺すことになんの抵抗もなかったし、人並みの感情というのが多分薄かったのだろう。たがそんな俺にも今、胸に熱いものを感じた。このカスを殺してやりたいと。人の心を弄び裏切り、ましてや自分の都合のために殺すことさえいとわないこいつが許せなかった。
そんならしくない感情が芽生えたのもつかの間、俺は処刑された。
ストン
それは人の死を感じるにはあまりに軽い音だった。
ああ、俺は死んだのか。アレク、あいつのことが許せない。殺さなければならない。そんな俺の思いを、神は摘んてくれたようだ。
「あれ、俺、」
夢でも見ていたのか?
そう思いながら朝食を食べると、手紙がきた。
王の印の封蝋が押されていた。




