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天凪祓  作者: ZoRvATH


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ハート・シャダー

第1部 第3章 第20話 『ハート・シャダー』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


やはり歴史は偉大である。


第一次世界大戦で大量の死者を出した化学兵器。第二次世界大戦でたった一晩で東京の民間人を10万人も焼き殺したナパーム。


民間レベルの簡易的なものでも数人なら殺せるだろう。


色々考えた。


ガスマスクをつけて事務所の奥で大量の『混ぜるな危険』の洗剤を混ぜるとか。


簡易ナパームの火炎瓶を量産して、自分は簡易ナパームの火炎放射器で武装し、近距離用に鉈を数本持っておけばK/D10.0は余裕で行けるだろう。


クロスボウの所持は禁止されたが、自作できないほど難しいものでもない。


車の窓から、クロスボウやバリスタを撃ってもいい。


≪生き残る気はない。≫


≪というか、もう生きていたいと思えない。≫


≪どうせ死ぬなら自分を不幸にした連中を一人でも多く道連れにしたいだけだ。≫


幸い、社用車を無理矢理使えば、自宅で予め準備しておけば量を運ぶことは不可能ではない。


真面目に、どうやったら一人でも多く確実に殺せるかを考えていた。


そして、7月。


ついに僕が普段使っている社用車に直接手を出された。


どのタイミングでやられたのかは分からないが、車のテールランプが不自然に両サイド割られていた。


左右で割れている部分の高さが違い、割れ方もバックでぶつけたようなものではなく、ハンマーやバールで殴ったような割れ方だ。


客を迎えに行った先で気づき、よりによってその日は僕一台だけで同僚が誰もいなかった。


さらに運の悪いことに、添乗員も不慣れな人で、車内も満席。


営業所に割れていることを連絡すると、いつもであれば、『仕事が終わった後すぐに見せに来い!!』と強く言われるのが、今回は『一度帰って明日持ってこい。』という。


『明らかに怪しい。』


『絶対になにかやられた。』


前述の『ブレーキだか、アクセルだかを壊されていた。』という話が脳裏をよぎり、人生で初めて本当に手が震えていた。


≪殺されるかもしれない。≫


本気でそう思った。


幸い駆動系に異常はなかったが、それでも車庫に戻るまではずっと動悸と震えが治まらなかった。


『これはもう・・・。ここでは働けない。』


そう思い、車庫に帰ると同時に私物を極力持って帰った。


こんなにも動揺したのは、中学生の時のメール事件で頭が真っ白になった時以来だろう。


『すぐに警察を呼べばよかった。』と後からいろんな人に言われたが、正直その時は『生きて帰って、さっさとこの場から離れて二度と近寄りたくない。』という思いが強すぎた。


そして「もうここでは働けない。」と『心が完全に折れた』ことで、「警察を呼ぼう」などと冷静に考えることは到底できなかった。


なにせ本来いの一番に相談しなくてはいけない連中が一番信用できないのだから。


そして家に帰り、精神科を探し、次の日は体調が悪いと欠勤し、そのまま心療内科へ行って、抑うつ状態の診断で診断書を貰い休職した。


精神科では普通に労基署に行けと言われたが、やはり前の脅しがつっかえていたし、もはやそんな余力はなかった。


こういう手段は取りたくなかったが、この間に転職先を探すしかない。と言っても、最後のとどめの一撃が強すぎてさすがに、一週間くらいは休みたかった。


幸い診断書は1カ月分書いてくれていたので、一週間は真面目に休むことにした。


考えてみれば、数カ月に一度、久々登場の元ネトフレ『すずさん』と出かける程度で、ゲームなどもやっていないし、全然娯楽などとは直近一年近く無縁だったのだ。


2022年に買い替えたiPhone14の検索履歴は見事に転職サイトで埋め尽くされている。


だが、一週間ゲームをしてみたが、やはり現実から意識をそらすのは難しい。


転職活動をするが――


――ちなみに、心療内科の治療自体は、最初からそんなことは期待していなかったから問題はないが、クソの役にも立たない。


ただ、それでもどうせ金を払うのだし、実際恐らくストレスが原因で既に体調に不調が出ているのだから、しっかりと事情は伝えた。


原因ははっきりしているので、会社の事など全て伝えたし、頭痛のことも眠れないことも、皆殺しにしてやりたいことまで全て包み隠さず伝えた。


だが、結論は『労基署に行けば?』であり、「ここでそんな話されてもどうにもできないよ。」と、まあまあ直接的に言われただけだった。


まあ、そんなもんだろう。


後は、漢方薬を処方されるだけで、別に飲んでも怒りや不安が収まる訳でもなく、やはりこの手の問題は自分で解決するしかないのだと、再認識しただけだった。


それでも、予約はガラガラで、やや高めの診察料という『いかにも』な病院だけあって、面倒な問答はせずにすんなり休職の診断書と、傷病手当金の支給申請書などはすんなり書いてくれたので助かった。


というか、多分医者側も最初から分かっていたと思う。――


僕の自己認識では、まだ精神的に耐えられると思っていた。しかし、身体が先に不調をきたしてしまったのだ。


まさか自分がこんな目に遭うとは夢にも思っていなかった。


何とか殺人願望を抑えつつ、時間が経つにつれて少しずつ、殺人願望は抑えられていった。


内心そんな問題を抱えつつも、結局ああでもない。こうでもないと4ヶ月が過ぎていった。


新宿や渋谷、表参道など、主に東京の西側の方には目ぼしい求人があるのだが、どうしてもそっち方面に行こうとすると通勤にトータルで1時間半近くかかる。


散々迷った挙句妥協して、近場の飲食店に勤めることになった。


まあまあ歴史のある著名人御用達の店だ。


御用達というよりは、ステータスのような店だ。


しかし、その評判とは裏腹に実情はかなりひどいものだった。


代々一族で切り盛りしてきた店で、店主は『独り息子』。


これがとんでもないバカ息子だったのだ。


いい歳なのだが先祖の財産と信用を食い潰しているだけのゴミだった。


料理なんてほとんどしない。


テレビを見ながらあぐらをかいて座り込んで、タバコを吸ってるだけだ。


それも料理のすぐ近くで。


客が見え始める頃になると、これ見よがしに小皿の漬物を少し作るだけ。


後は、客の前でデモンストレーションがあるのでそれをするだけ。


1から全て作ってるのは全部従業員。


と言っても所謂正社員が少数名と、他は学生のアルバイトだ。


しかも、客に対してもかなり横柄な殿様営業。


バカ息子具合はレビューにも書かれているが、それでも、あまりある先祖代々の信用というか、ブランド力でねじ伏せているようだ。


案の定というか何と言うか、結局ここでも上手くいかずに実質解雇された。


我ながら変な所ばかり選んでしまうものである。


類は友を呼ぶ。とは思いたくないが・・・。


結局なにが原因だったのかというと、ババアに媚びなかったのが原因だったと思う。


このババアは所謂男好きらしく。


『前任はババアのセクハラに耐えられず辞めたらしい。』と言う話をアルバイトからこっそりと聞いた。


ババアはバカ息子の愛人?らしいのだが、所謂『そう言う趣向』がある様で、その為に比較的若いのを雇っているのだとか。(気持ち悪すぎる。)


しかし、残念ながら僕は熟女好きでは無いので、控えめに言って気色の悪いババアのアピールを無下にしてしまった。


その結果、嫌がらせを受ける羽目に。


従来は22:30に終わっていたらしいのだが、終わりが24時近くになっていた。


と言うのも、食器を下げてくるババアが意地悪してなかなか持ってこなかったのだ。


具体的には23:30頃までちょろちょろと食器を下げてきていた。


店長は「僕にやることが遅い。以前は22:30には終わっていた。」と文句を言ってくる。


そもそも前の奴がオーバーしてるのに僕が遅い。というのは理不尽である。


それでいて「今週いっぱいで様子見でいいかな?」と、いやらしい言い方をしてきたので、前の会社のこともよぎって「辞めた方がいいですか?」と聞き、「うん」と言うので辞めた。


その後も、あまり動じてない僕が気に食わないのか、どうしても文句が言いたいみたいで、ああでもないこうでもないと言われ。


『この先どんな職場に行ってもマニュアルなんてないから、それは覚えておいて。』と言う、わけのわからない迷言まで聞くハメになった。


「お前こそ一回社会に出てこいよ。」と言いそうになったが、バカ息子が手に包丁を持っていたので辞めた。


『なんか。仰々しい店と言っても内情は大したことないんだな。悔しいとか、辛いとか、悲しい。とかではなく、ただただガッカリしたな。』


それが僕の感想だった。


料理の上でタバコはスッパスパ、オマケに仕込みは部外者。


僕みたいな完全素人が訳もわからず作ったものも提供された。そんな得体の知れないものに何万も払うのだから本当に『表層的』だと強く感じた。


そして、あんな店に行って大物アピールしている著名人が滑稽に思えた。


そんな中またしてもあの会社からのもめ事である。


休職中、社会保険料が給料から天引きできないため、会社側が立て替えており、その代金の支払いを『直接か現金書留の二択』で請求された。


信用できなかったので「口座振込はできないのか?」と聞いたところ「できない」の即答。


休職してる人間がわざわざ面と向かって渡しに行くなどあり得ない上に、何の証拠も残らない。


現金書留など使ったことのなかった僕は、郵便局という第三者機関が挟めば万が一のことがあっても手渡しよりはマシだと思い、現金書留で送ることにした。


4ヶ月分を、2度で支払った。


1度目は普通に問題なく送った。そして2度目。


信じられないことに、9万9千800円の内、9万円がないのだという。もう相手をする気にもなれなかったが、『現金書留』というものは何の証明にもならないものだと、初めて知った。


つまり最初からそういう腹積もりだったのだろう。そして恐らく手馴れているのだろう。


そして再度現金書留で送ってこい。というふざけた要求をしてきた。さすがに本社に連絡したが、これも結局辞めた人間の方を持つはずもなく、受領書の重さがどうのこうのと屁理屈を抜かされた。


※郵便局の秤は正確だとは言うが、普通に数グラムの誤差が出ることは普通にある。特に大きい荷物になるとその差はもっと顕著だ。実際に外国人の友達に先払いでガンプラや日本のグッズを買って送ってほしいと頼まれて、何度か送っていたが普通に誤差はあった。


さすがにこれは両親に相談した。何故なら保証人である両親のところにも連絡がいく可能性があるからだ。


結局両親からは『そういう輩はどうとでも付きまとって最初から法の抜け穴みたいなのを知ってるから、10万出してやるから口座振込だけは譲らずに、払って縁を切れ。』と言われ、『口座振込は譲れない』旨を伝えたら、あっさり承諾されて、普通に会社名義の口座を伝えてきた。


ブラック企業を通り越してただの詐欺組織である。


そうして生きていく気力をほとんど失い、東京に居続けることの意味がわからなくなってしまい、ついに地方に戻ることになってしまった。


地方に戻る際に、ホテルの仕事に就いた。


こちらは人は良かったが、人材の自転車操業だった。


フロント業務の筈が、ホテルを駆けずり回りラウンジや、キッチン、しまいにはバーまで、なんでもござれ。


しかもいまどき自動精算機などがなくほとんど全てがアナログ。そのうえ一日中駆けずり回っても賞与なしの薄給。


「今は厳しいけど持ち直すから。」と言った採用担当は2週間後には辞めていた。


そんな中で、たった一ヶ月の間に横領が3回。


所謂会長一強なのだがほとんど現場など認知しておらず、会長お気に入りのナンバー2がやりたい放題やったようで、その結果組織上層が壊滅。


本来5人くらいいるはずの管理職の業務を残ったたった一人で切り盛りしている。という状況。


「逆に人がいないから上に上がるチャンスだ。」と言われても、ソーシャルメディアにはまだ小さい子供の写真があるのに、ホテルに近い場所に部屋を借りて別居状態。


それでは何のために働いているのか分からない。


そこでついに僕は心が完全に折れてしまった。


いや、心が折れるというのならとっくに何度も折れていたと思う。


心が砕けてしまった。


本当に何もかもが厭になってしまった。


うんざり。本当に心の底からうんざりしている。


もはや求人を見るだけで、あのひどい頭痛が襲ってくる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回!第1部 第3章 第21話

『憎悪』 DON'T MISS IT!!!

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