表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

3 運命の瞬間

「昨日は悪かった。機種変更という言葉を聞いて、自暴自棄になってしまった」


 翌日、オクオスは、アイディ達に謝罪の言葉を告げた。

「いや、俺達は数年に一回ナーバスな時期がやってくる。お前はまた生まれ変わって、良い人に買ってもらえるさ」

「ありがとう。今、ノゾミ様はケータイショップにいらっしゃる。その運命の瞬間でも一緒に見るか?」

 






「ノゾミの部屋」のホスト達は、大きなモニター前でご主人様の動向を見守る。ご友人の田原愛弓様もご一緒だ。

 その時、彼女は悪魔のような発言をした。


「もう吹っ切ってP-phoneにしようよー」


「うーん……そうだねぇ」


 ノゾミは最新のP-phoneを手に取った。







 そのライブ映像を見た瞬間、ホスト達は一斉にざわついた。 何よりアイディが動揺した。


 ーー P-phone? ノゾミ様がP-phoneユーザーになるのか? 確かにあいつは超絶人気者だ。僕としたことがその可能性を考慮してなかった! たとえ、P-phoneユーザーになっても、グールルのIDは使うと思う。しかし、新たなライバルがこの部屋にやってきて、序列が急変する。……僕は……僕は……この地位を誰かに讓らなきゃならないのか? ーー


「アイディ様……お気を確かに」

 相棒のキィが声をかける。アイディは玉座で頭をかかえ、恐怖で体を震わせていた。








「あれ? 上杉さん?」

 男の人の声が背後から聞こえた。

 振り向くと、身長が伸びて大人びた森下真実(まさみ)が立っていた。


「上杉さんもスマホ変えるの?」


 ノゾミは時間が止まったように、動けなくなった。


 ーー身長が伸びた。前髪が少し長い。声変わりして別人。紺のTシャツにデニムジーンズ。こんなにイケメンだったっけ? ーー


 いろんな情報がノゾミの眼前に広がる。

 動かないノゾミをよそに、田原愛弓が森下君に挨拶だけして、ノゾミのスマホ選び付き合ってあげてよ、と告げて帰ってしまった。気をきかせてくれたみたいだ。


(どうしよう。こんなシチュエーション考えてなかった……)


 ノゾミは心臓をなんとか動かして、森下真実(まさみ)と会話を続けた。







「なんだ、この男」


 アイディは明らかに敵対心を燃やしていた。


「あれ、アイディ様。今、この男性と全く同じ容姿に変化しましたよ」


 アイディは自分の姿を鏡で確認する。すると、この男の顔が鏡に映る。さっきまでの幼い容姿ではなくなっていた。


「ノゾミ様は……この男に思いを寄せられてて、今現在の姿にアイディ様も変わったのかもしれませんね」

「じゃあ、僕の前の姿は、この男の以前の姿だったのか?」

「確かに少しアイディ様は幼い容姿でしたからね」


 キィはアイディにつぶやいた。


「私たちの運命はこの男が握っているかもしれません」










「急に上杉さんのスマホ選びに付き合えと言われても……」

 森下君は、明らかにとまどっていた。


「いや、どうしたらいいのか……いよいよP-phoneにした方がいいのかとか迷ってて」


 ノゾミは今の悩みをそのまま相談した。


「あー、じゃあ俺は役不足だ。Bandroidだから」

「じ、じゃあ!! Bandroidにする!」

「え? そんな決め方でいいの?」


 森下君はあの笑顔でくすくす笑う。


 Bandroidのスマホを購入して、いろんな手続きが終わるまで、森下君は付き合ってくれた。

 今日のこのタイミングで、この携帯ショップに来た私は、本当にほめてあげなくてはならない。私、えらい! すごい!








「ノゾミの部屋」ではアイディ達が胸をなでおろし、シャンパンを開けていた。

「おめでとうございます! アイディ様!」

「これで、また数年は安泰ですね!」

「ノゾミ様がまたアイディ様を選ばれました」

 いろいろ祝いの言葉が飛び交うが、何よりあの「森下」という神みたいな男に感謝しなくてはならない。


「……あいついいヤツだったな……森下か……他人とは思えん」


 アイディは自分とそっくりな男に心から感謝していた。









 ノゾミはスマホ選びに付き合ってくれた森下君に「お礼」という名目で、カフェに誘った。

 とりあえず、自分達の近況を話し合った。なにしろ中学卒業以来の再会なのだ。


「田原さんと仲いいんだ。知らなかった」

「たまに森下君の話題も出てたよ」

「えー、俺の話とか面白くないでしょ?」

「か、か、彼女いた、とかっっ!」


 ノゾミの口から一番気になっていることが飛び出した。


「すご……そこから話切り出すんだ」


 森下君はまたくすくす笑い出す。


「笑うことないでしょ!」

「ごめんごめん! いないよ~高校は勉強三昧!」

「え? でも、愛弓から彼女いたって聞いて……」


 森下君は、あっけに取られた表情になった。


「あー、2ヶ月くらいクラスの女子のボディーガードしたかな。変な男に付きまとわれてたから。そういう噂も流してもらったよ。そしたら、諦めたのか離れていった。その事だと思う。田原さんも騙されてくれたんなら、ボディーガード役は成功だね」


 森下君は相変わらず「優しさ」でできていた。

 救済活動すさまじい……じゃあ、私もそれを利用させてもらっちゃおうかな。いいよね、4年間も片思いだったんだから。


「スマホの設定って面倒だよね。森下君、わかる? ご飯おごるから、手伝ってほしい……」

「う~~ん……しょうがないなぁ、ここまで付き合ったから、設定も世話するか」

「wi-fi環境必須だし……私の家近いから、そこでいい?」


 森下君は顔を赤くして

「いきなり家とか……」と、つぶやく。


「実家だから、二人きりじゃないし……お願いっ!」


 そのまま世話好きの森下君は、押しきられて私の家へ連行された。

 たぶん、スマホ移行作業中に、私の森下君への片思いがバレる。

なぜなら、私のグールルのIDは森下君に関する情報で構成されてるから。








「アイディ様、これから数年よろしくお願いいたします」


 新しいスマホ本体オクオスダッシュが、アイディとキィに挨拶にやって来た。そして、アイディとキィにも新しい仲間が加わった。「二段階ジンショウ」というホストだ。


「人間は頭はいいが、悪いヤツが次々現れるから、ホストが増える一方だな」


 アイディはため息をついた。


「ノゾミの部屋」では、今日もモニターでノゾミ様の「彼氏」が映し出される。二人が楽しそうにカフェで「デート」というものをされているようだ。

 もちろん「彼氏」は、あの日スマホを選んでくれた森下真実(まさみ)だった。

 アイディにとって、自分そっくりの森下君は、この立場を守ってくれた恩人だ。


「良いヤツを選ばれた。さすが僕のノゾミ様だ」


「ノゾミの部屋」では、今日も変わらず、たくさんのホスト達が、ノゾミのスマホライフを支えるのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ