3 運命の機種選び
「昨日は悪かった。『機種変』という言葉を聞いて、自暴自棄になってしまった」
翌日、オクオスは、アイディ達に謝罪の言葉を告げた。
「いや、俺達は数年に一回ナーバスな時期がやってくる。お前はまた生まれ変わって、良い人に買ってもらえるさ」
「ありがとう。今、望様はケータイショップにいらっしゃる。その運命の瞬間でも一緒に見るか?」
「ノゾミの部屋」のホスト達は、大きなモニター前で姫の動向を見守る。友人の田原愛弓様もご一緒のようだ。
その時、彼女は悪魔のような発言をした。
「もう吹っ切ってP-phoneにしようよー」
「うーん……そうだねぇ」
望は最新のP-phoneを手に取った。
そのライブ映像を見た瞬間、ホスト達は一斉にざわついた。
「なんだって?」「ついにP-phoneに!」「新しいライバルが増える」「何より勢力図が変わるんじゃないか?」
そんな喧騒の中、アイディは顔色が真っ青に変わる。
ーー P-phone? 望様がP-phoneユーザーになるのか? 確かにあいつは超絶人気者だ。俺としたことがその可能性を考慮してなかった! たとえ、P-phoneユーザーになっても、グールルのIDは使うと思う。しかし、新たなライバルがこの部屋にやってきて、序列が急変する。……俺は……俺は……この地位を誰かに讓らなきゃならないのか? ーー
「アイディ様……お気を確かに」
相棒のキィが声をかける。アイディは玉座で頭をかかえ、恐怖で体を震わせていた。
※ ※ ※
「あれ? 上杉さん?」
男の人の声が背後から聞こえた。
振り向くと、身長が伸びて大人びた森下真が立っていた。
「上杉さんもスマホ変えるの?」
望は時間が止まったように、動けなくなった。
ーー身長が伸びた。前髪が少し長い。声変わりして別人。紺のTシャツにデニムジーンズ。こんなにイケメンだったっけ?
いろんな情報が望の眼前に展開する。
動きを止めた彼女よそに、田原愛弓が森下君に挨拶だけして、望のスマホ選び付き合ってあげてよ、と告げて帰ってしまった。気をきかせてくれたみたいだ。
(どうしよう。こんなシチュエーション考えてなかった……)
望は心臓をなんとか動かして、森下真と会話を続けた。
「なんだ、この男」
アイディは、モニターを睨みながら、明らかに敵対心を燃やしていた。
「あれ、アイディ様。今、この男性と全く同じ容姿に変化しましたよ」
アイディは自分の姿を鏡で確認する。すると、この男の顔が鏡に映る。さっきまでの幼い容姿ではなくなっていた。
「望様は……この男に思いを寄せられてて、今現在の姿にアイディ様も変わったのかもしれませんね」
「じゃあ、僕の前の姿は、この男の以前の姿だったのか?」
「確かに少しアイディ様は幼い容姿でしたからね。グールルのIDは確か望様の片思いだった方の情報で作成されたはず。アイディ様がこの男性そっくりなのも納得です」
そして、キィはアイディに宣告する。
「私たちの運命はこの男が握っているかもしれません」
※ ※ ※
「急に上杉さんのスマホ選びに付き合えと言われても……」
森下君は、明らかにとまどっていた。
「いや、どうしたらいいのか迷ってたの……いよいよP-phoneにした方がいいのかとか迷ってて」
私は今の悩みをそのまま相談する。
「あー、じゃあ俺は役不足だ。Bandroidだから」
「じ、じゃあ!! Bandroidにする!」
「え? そんな決め方でいいの?」
森下君はあの懐かしい笑顔でくすくす笑ってくれた。
その瞬間、私がまだ森下君に囚われていることを心臓の鼓動が教えてくれたのだった。
Bandroidのスマホを購入して、いろんな手続きが終わるまで、優しい森下君は付き合ってくれた。
今日のこのタイミングで、この携帯ショップに来た私ってすごくない? これは千載一遇のチャンス! これを逃したら、女がすたる!
※ ※ ※
「ノゾミの部屋」ではアイディ達が胸をなでおろし、祝いの象徴であるシャンパンを開けていた。
「おめでとうございます! アイディ様!」
「これで、また数年は安泰ですね!」
「望様がまたアイディ様を選ばれました」
いろいろ祝いの言葉が飛び交うが、何よりあの「森下」という神みたいな男に感謝しなくてはならない。
「……あいついいヤツだったな……森下か……他人とは思えん」
アイディは自分とそっくりな容姿の男に、感謝しながら業務に戻っていった。
※ ※ ※
望はスマホ選びに付き合ってくれた森下君に「お礼」という名目でカフェに誘った。
とりあえず自分達の近況報告をしあう。なにしろ中学卒業以来の再会なのだ。
「田原さんと仲いいんだ。知らなかった」
「たまに森下君の話題も出てたよ」
「えー、俺の話とか面白くないでしょ?」
「か、か、彼女いた、とかっっ!」
思わず、望の口から一番気になっていることが飛び出した。思わず声が上ずって顔も紅潮しだした。
「すご……そこから話切り出すんだ」
森下君はまたくすくす笑い出す。
「笑うことないでしょ!」
「ごめんごめん! いないよ~高校は勉強三昧!」
「え? でも、愛弓から彼女いたって聞いて……」
森下君は、あっけに取られた表情になリ、思い出したように弁明する。
「あーー、2ヶ月くらいクラスの女子のボディーガードしたかな。変な男に付きまとわれてたから。そういう噂も流してもらったよ。そしたら、諦めたのか離れていった。その事だと思う。田原さんも騙されてくれたんなら、ボディーガード役は成功だね」
森下君は相変わらず「優しさ」でできていた。
ーー 救助活動すさまじい……じゃあ、私もそれを利用させてもらっちゃおうかな。いいよね、4年間も片思いだったんだから。
望は、勇気を振り絞って人生をかけた提案をする。
「スマホの設定って面倒だよね。森下君、わかる? ご飯おごるから、手伝ってほしい……」
「う~~ん……しょうがないなぁ、ここまで付き合ったから、設定も世話するか」
「wi-fi環境必須だし……私の家近いから、そこでいい?」
一瞬、二人の間に甘く緊張した空気が流れた。
森下君はとたんに顔を赤くして
「いきなり家とか……」と、つぶやく。
「実家だから、二人きりじゃないし……お願いっ!」
世話好きの森下君は、押しきられて望の家へ連行された。
たぶん、スマホ移行作業中に、望の森下への長年の片思いがバレる。なぜなら、彼女のグールルのIDは森下真に関する情報で構成されてるから。
※ ※ ※
「アイディ様、これから数年よろしくお願いいたします」
新しいスマホ本体オクオスダッシュが、アイディとキィに挨拶にやって来た。そして、アイディとキィにも新しい仲間が加わった。「二段階ジンショウ」というホストだ。
「人間は頭はいいが悪いヤツが次々現れるから、ホストが増える一方だな」
アイディはため息をついた。
「ノゾミの部屋」では、今日も店内のモニターで上杉望の「彼氏」が映し出される。二人が楽しそうにカフェで「デート」というものをしているようだ。
もちろん「彼氏」は、あの日スマホを選んでくれた森下真だった。
アイディにとって、自分そっくりの森下君は、この立場を守ってくれた恩人だ。
「良いヤツを選ばれた。さすが俺の望様だ」
「ノゾミの部屋」では、今日も変わらず、たくさんのホスト達が、忙しなく望のスマホライフを支える充実した日々を送るのであった。




